ビタミンDは長年、骨の健康を守る重要な栄養素として知られてきた。しかしここ数年の間、研究者たちはビタミンDが脳の健康にも重要な役割を及ぼすことを報告している。ビタミンDが不足すると認知機能が低下し、重くなると認知症につながる可能性があるという主張もあり、「頭脳ビタミン」という別名も生まれた。
ならば、本当にビタミンDが不足すると、誰もが認知機能低下のリスクが高まるのだろうか。最近、盆唐ソウル大学病院精神健康医学科のキム・ギウン教授の研究チームは、このような懸念がすべての人に等しく当てはまるわけではないという研究結果を発表した。研究チームは「ビタミンD不足が認知機能低下を誘発するという通説は、あらゆる人に一律に適用されるわけではない」と明らかにした。その代わり、特定の条件を持つ人たちにだけビタミンDと認知機能の間に有意な関連性がみられたと分析した。
ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収を調節して骨を強化し、筋肉の機能や免疫反応の維持にも重要な役割を果たす。また、脳においても神経細胞の機能維持や炎症調節、神経保護に関与することが判明しており、高齢者の認知症予防のための重要な補完栄養素として注目されてきた。
米国、欧州、韓国などから、ビタミンD不足と認知機能の低下を関連づける観察研究が継続的に発表されてきた。しかし、反対に「関連性がなかった」という研究も少なくなかった。ほとんどのこれまでの研究は、単なる相関関係だけを示してきたため、学界でも意見が分かれていた。
キム・ギウン教授のチームは、このような論議を解決するために、長期の追跡研究を行った。研究チームは、正常な認知機能を持つ高齢者1547人を対象に約10年間、定期的に血中ビタミンD濃度を測定し、標準化した認知機能検査(MMSE)を実施した。この過程で、性別とアルツハイマー病に関連する遺伝子型(APOEε4の保有の有無)などもあわせて考慮した。
研究結果は予想と違った。男性は、ビタミンDの数値が低くても認知機能低下のスピードに大差なかった。女性のなかでも、APOEε4遺伝子型を持つ場合は、ビタミンD不足の影響を受けなかった。一方、この遺伝子を持たない女性は、ビタミンDが不足する場合、認知機能低下がより速く進行した。具体的には、年平均で0.14点(MMSE 30点満点基準)ずつ多く点数が減少した。
APOEε4遺伝子型は、アルツハイマー病の主な危険因子として知られている。この遺伝子を持つ人は、もともと認知症のリスクが高いため、ビタミンD不足の要因は相対的に影響が小さかったと考えられる。反対に、この遺伝子を持たない女性にとっては、ビタミンDが脳の健康を守る重要な保護因子になりうるという意味だ。
キム・ギウン教授は「男性とAPOEε4遺伝子を持つ女性を合わせると、人口の半分以上になる」として、「これらの人たちにとっては、ビタミンD不足は認知機能低下の主な危険因子にはならない」と説明した。
今回の研究は、ビタミンDが認知機能に及ぼす影響を性別と遺伝子型という2つの要因を基準に分析した、世界初の前向きな研究だ。平均8年以上、1000人以上の高齢者を精密に追跡観察した大規模研究という点でも意義が大きい。
キム教授は「ビタミンD不足が認知機能低下に影響を及ぼすかどうかは、人によって異なる。したがって、すべての人が無条件にビタミンDのサプリメントを摂取すべきというわけではない」と助言した。ただし、「APOEε4遺伝子を持たない女性の場合は、ビタミンDの状態を積極的に管理することで、認知症予防に実質的な効果がある可能性がある」と補足した。
今回の研究結果は、世界的な栄養学の学術誌「臨床栄養(Clinical Nutrition)」に最近掲載された。研究チームは、今後もビタミンDが認知機能に及ぼす影響と、これを調節可能な生活習慣の要因をさらに分析する計画だ。