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[レビュー]2070年、人口減少という津波が全世界を襲う

登録:2024-01-13 07:44 修正:2024-01-13 09:55
空き家が増えて経済が衰退し「縮小都市」が増加する 
「ネットワーク化されたローカライズで持続可能性を高める必要がある」 
 
『縮小する世界:人口も都市も経済も未来も、今、世界はすべてが縮小している』 
アラン・マラック著、キム・ヒョンジョン訳|サイ刊
日本の名古屋の住宅街。日本の世帯は半数以上が一戸建てに住むが、日本の人口は10年以上にわたり減少しており空き家が増加している。2018年時点で7軒中1軒が空き家で、2040年には3軒中1軒が空き家になると予想されている=サイ提供//ハンギョレ新聞社
『縮小する世界:人口も都市も経済も未来も、今、世界はすべてが縮小している』アラン・マラック著、キム・ヒョンジョン訳|サイ刊|2万3000ウォン//ハンギョレ新聞社

 「大韓民国は完全に終わった。わぁー」

 2022年時点での韓国の合計特殊出生率(妊娠可能な女性1人が生涯に産むと予想される子どもの数)は0.78だという話に対して、米国カリフォルニア大学法学部のジョアン・ウィリアムズ名誉教授が放った言葉だ。人種、性別、階級分野の専門家であるウィリアムズ教授は、昨年放映された教育放送(EBS)のドキュメンタリーで「これほど低い数値の出生率は聞いたことがない」として、両手で頭を抱えて驚く様子をみせた。それほど韓国の低出生率の問題は深刻であり、外国の専門家たちも韓国を注視している。

 ならば、人口減少は韓国だけの問題なのだろうか。最近出版された『縮小する世界:人口も都市も経済も未来も、今、世界はすべてが縮小している(Smaller Cities in a Shrinking World: Learning to Thrive Without Growth)』によると、人口減少は全世界的に起きている現象だ。米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所に勤めた都市計画の専門家である著者のアラン・マラック氏は同書で、全世界は第2次世界大戦後の段階で人口減少の段階に入っており、今後この傾向は加速化すると予想した。

 著書は、古代ローマから現在に至るまで全世界の人口変遷史を圧縮して扱った後、現在、世界各地で進行している人口減少の現状を詳細に扱う。今後5~10年以内に人口が減少することが確実視される国として、タイ、台湾、イタリア、レバノン、キューバなどがあり、ドイツも同様に移民がいなければ人口が減少する危機に直面している。著者は各種の予測資料を根拠に、2050年になれば、全世界の国家の3分の1にあたる65カ国で人口増加がマイナスに転じ、50年後の2070年頃が全世界の人口が減少を始める変曲点になると予想した。韓国の低出生率の問題があまりにも深刻なため、他国に目を向けることができない韓国の読者たちは、この本を読むことで、人口減少問題を「地球的な」ものとして感じることができる。人口減少を韓国内の問題としてだけでなく、地球規模の変化であることを認識し、人類史的の観点から今の時代がどの地点にあるのか見渡すことができる。

 危機の波が押し寄せているのであれば、波の高さや強さなどを正確に予測し、荒波に乗って移動するのか、あるいは、航路を最初から変えるべきなのかなどを決めなければならない。そうした立場から著者は、人口減少という「波」が社会的・経済的に及ぼす影響を考察する。著者の説明を読むと、この波は「津波」級の変化であり、この危機を克服するためには航路を早期に変えるべきだという考えが自然に出てくる。

 人口が減少すると、高齢人口と1人世帯が増え、生産可能人口と子どもの人口が減り、社会的に多くの影響を及ぼす。消費は萎縮して熟練労働者が減り、生産性とイノベーションにも影響を及ぼす。新たな開発と経済活動のための資本調達も困難になる。公共の税収が減るにもかかわらず、高齢層のための社会福祉サービスの需要はますます増える。住宅価値は下落することになり、住宅需要が減少し、空き家や捨てられた土地がさらに増え、都市もまた、興亡と盛衰を繰り返して再編されるものとみられる。実際、米国のデトロイトのような都市では、1990年から2010年の間に7万軒以上の家が撤去によって消えた。産業が崩壊して人々が去っていき、空き家だけがぽつんと残り、都市全体が空っぽになってしまったのだ。高齢化のスピードが速い日本では、2018年時点で住宅やマンションは7軒中1軒が空き家であり、国家的な危機だと認識されているほどだと著者は伝える。

2019年のポーランドのウッチ駅。ポーランドでは欧州連合の財政支援で計4億2000万ユーロが投入され最先端の駅が新設されたが、2019年に著者のアラン・マラック氏が訪問すると「ほとんど捨てられたも同然だった」と語る=サイ提供//ハンギョレ新聞社

 それだけではない。こうした社会的・経済的な変化は、人と人の間と都市間の不平等をさらに強める。「成長」を通じてパイを増やして分配をしようという公式がこれ以上通用しなくなり、全体的なパイが減り、世界各地で民族主義政権と新ファシズム政権が登場するだろうと著書は予想する。そうした変化は、グローバル交易システムを不安定化させる要因になる。

 人口減少という「津波」級の波に巻きこまれることなく生き残るためには、どうすべきなのだろか。著者は、波の流れに逆らわずに、まずは認めようと語る。すべての問題の解の出発点は、問題に対する正確な認識から始まるという点で、著者の主張にうなずける。過去100年間、人類は、人口はもちろん経済もすべて「成長」をデフォルトと感じ、国家の経済モデルや企業戦略を立ててきた。都市も同様に「成長と繁盛」を目標に造成された。「さらに多く」と叫び、生産と消費をしてきた。しかし、人口減少以外にも、人類の前には気候危機という変数までさらに増しており、「危機の波」はその大きさがますます拡大する局面にある。そこで著者は「国家的レベルや世界的レベルでの成長は、もはや人口減少の解決策にはならないという現実を直視」すべきだと語る。あわせて著者は、世界経済に過度に依存する方式から抜け出し、自らの資源を投資し、現地の金融、自然、人的資本を通じて、財貨、サービス、食料、エネルギーの相当部分を生産する「ローカライズ」(または「現地化」)を代案として提示する。ローカライズがうまくいった都市や国家は、人口減少が及ぼす社会的・経済的被害を減らすことができ、持続可能だと述べる。

「縮小する世界」の著者のアラン・マラック氏=オハイオ州立大学のウェブサイトよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 著者の言うローカライズは完全な孤立を意味しない。著者は「ネットワーク化されたローカライズ」を強調するが、そのためには、分散されたエネルギー供給や、分散生産、在宅勤務のような経済的構造の変化、高齢者に親和的な都市、ネットワーク化された教育機会や医用システムのような社会的な構造の変化が後押しされなければならない。著書は、高齢化社会の衝撃の余波を減らし、教育をネットワーク化した事例として、療養施設と幼稚園を結合した米国オクラホマ州の「グレース・リビング・センター」を提示しており、韓国の地方自治体でも参考に値する。新年早々からメディアでは、低出生率の問題の深刻さを報じる記事であふれている。警告音が鳴り響いているのに、今も多くの人たちが「パイを増やして成長しよう」「輸出だけが生きる道だ」というパラダイムに留まっている。近づく未来に不安を感じる個人から、「人口絶壁」という危機を賢く解決するための戦略と代案を用意しなければならない企業や政府の関係者たちまで、正確な現実認識のために参考するのによい本だ。

ヤン・ソナ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1124072.html韓国語原文入力:2024-01-12 09:15
訳M.S

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