英文学者であり翻訳家でもある西江大学のキム・ウクトン名誉教授(75)は、民音社の世界文学全集の417冊のうち合計15冊を翻訳した。キム教授は、韓国の代表的な世界文学全集であるこのシリーズの最多翻訳者だ。2012年に訳したアーネスト・ヘミングウェイの代表作『老人と海』は現時点で48刷となり、2003年に初めて文芸出版社と契約し翻訳した米国小説『アラバマ物語』は、出版社を変えて数十万冊が売れた。
キム教授は10年前に西江大学を退職した後も、毎年3、4冊の翻訳書と文学研究書を出版している。1985年から合計30冊あまりの英米文学作品を翻訳したが、そのうち10冊は引退後に出した。国際的に著名な外国学術誌(SCIクラス)に掲載する英語論文も、退職後に毎年3編ほど発表している。5年前には米学術誌「翻訳レビュー」に小説家ハン・ガンの長編『菜食主義者』の翻訳ミスを明らかにする論文を掲載し、国内外で注目を集めたりもした。
翻訳の他に個人の著書も100冊近いキム教授は、翻訳理論の専門家でもある。『翻訳なのか反逆なのか』『翻訳の迷路』のような翻訳を主に扱う本や、崔南善(チェ・ナムソン)、金億(キム・オク)、イ・ヤンハ、鄭寅燮(チョン・インソプ)など世界文学を韓国語に訳した先輩翻訳家たちを扱った本も何冊か出した。キム教授が最近『世界文学に向かった熱望』という副題をつけて出した本『窮乏した時代の韓国文学』(燕巖書架)は、日帝強占期(日本による植民地時代)の韓国で外国文学が受け入れられるようになった流れを追った本だ。
定年の後に縁もゆかりもない釜山(プサン)の海雲台区(ヘウンデグ)に生活の基盤を移し、ひたすら翻訳と著述に注力するキム教授に、12月23日、電話インタビューを行った。
キム教授は今回の著書で、日帝強占期から解放空間(1945年の日本敗戦から1948年の大韓民国樹立までの期間)まで、この地の作家と外国文学の研究者たちが「世界文学の広場」に向かうため、どのような努力を重ねたのかに焦点を合わせた。崔南善が朝鮮で初めての総合雑誌「少年」を1908年に創刊したのに続き、1914年に再び出した「青春」を通じて、地道に世界文学を紹介した。その時期の「青春」の読者たちは、日本語からの重訳に加え抄訳したかたちではあったものの、『復活』(レフ・トルストイ)や『ああ無常』(ヴィクトル・ユーゴー)、『ドン・キホーテ』(ミゲル・デ・セルバンテス)のような世界文学の精髄に会うことができた。韓国初の訳詩集『懊悩の舞踏』を1921年に出した金億は、国際公用語であるエスペラントの普及にも力を入れ、その理由を次のように明らかにした。「誰でも一つの言葉で互いに自由に通じることができ、そこには征服者の日本もなく朝鮮のような被圧迫民族もいない、平和な地球村を作るため」
著者は、日帝強占期の文人のうち、特に詩人の金起林(キム・ギリム)の世界文学への熱望と実践に注目した。日本の東北帝国大学で英文学を専攻した金起林は「文化は平和と自由の盟友であり、世界に満ちた冷たい敵意と誤解の感情を破って溶かし、それによって遮られ凍りついた氷河地帯に絶えず『理解の通路』を開いていこうとするもの」だとし、朝鮮文学界に世界文学への視野を広げるよう叫んだ。詩人の金東煥(キム・ドンファン)が編集者と発行人を担当した月刊総合紙「三千里」は、1929年の創刊以降、作家や外国文学専攻者らを対象に「私が感激した外国作品」「外国に紹介したい朝鮮作品」「朝鮮文学の世界的水準」などについてのアンケート調査を行い、読者の世界文学に対する関心を高めたという。
植民地時期の世界文学への熱望の根源は何だったかという質問に、著者は二つを挙げた。「一つは、日帝に対する抵抗でしょう。あからさまに抵抗することははできないので、日帝の監視を避けられる世界文学の議論で抵抗したのでしょう。当時は社会批判の性格が強いロシア文学に対する情熱がとても強かったのです。一方、日本文学に対する言及はほとんどありません。もう一つは、日帝の検閲によって朝鮮文学の創作活動を十分に行うことができないため、世界文学に朝鮮文学の外縁を拡張するという考えでしょう。英文学者の梁柱東(ヤン・ジュドン)など外国文学を専攻した多くの人たちが、朝鮮の古典や伝統文化を研究しました」
キム教授は著書で、世界文学を「世界の文壇で新たな正伝と評価され、世界に広く流通し消費される文学」と定義した。したがって、現在様々な国で広く読まれているハン・ガンの『菜食主義者』やシン・ギョンスクの『母をお願い』も、堂々と世界文学の隊列に入る資格がある。
「フランスと戦争をしたドイツの作家ゲーテは、19世紀初頭に初めて世界文学の時代が到来したと述べました。ゲーテは、国家間の平和のためには他の文化を理解することが重要だとして、世界文学の到来を喜びました」。ならば、今日の世界文学の価値は何か。「人類が向かうことのできる普遍的価値を示す文学が、すなわち世界文学です。自由と平等、相互尊重のような価値でしょう。最近のように、性差別を感知する感受性を語り、しばしば他者と呼ばれる社会的弱者を尊重する態度でしょう」
3年前に『世界文学とは何か』と題する著書も出したキム教授は、「20世紀後半から世界文学の議論が高まっている」とも語った。「かつては米国や欧州の大学の比較文学科の中で世界文学が教えられていましたが、今では、世界文学科を別に設置する大学も増加しています。脱植民地文学から世界文学に流れが変わったということでしょう。世界文学を扱う研究所や学術誌も作られています」
(2に続く)