生物学の教科書では、微生物は「顕微鏡でのみ見える小さな生物」と定義される。微生物を代表する細菌(バクテリア)は、通常は大きさが2マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)で、定規で最も小さな目盛りである1ミリの500分の1の大きさだ。
細菌に関する通念が打ち破られた。単細胞でありながら長さが1センチに達し、裸眼で見える複雑な細胞構造を持つ細菌が、カリブ海のマングローブで発見された。これよりさらに大きく複雑な巨大細菌が追加で発見されるだろうという予想も出ている。
米国ローレンス・バークレー国立研究所のジャン=マリー・ヴォーランド博士らによる国際研究チームは、24日付の科学誌「サイエンス」に掲載した論文で、「これまで記録されたなかで最大となる長さ1センチの細菌を発見した」と明らかにした。ヴォーランド博士は「この細菌は、大多数の細菌より5000倍は大きい」とし、「あたかも、人間が歩いているとエベレストに相当する大きさの人間に出くわしたのようなもの」だと述べた。
この細菌は、小アンティル諸島のグアドループにあるマングローブに生息しており、濁った水の下にある砂で覆われた木の葉の表面に付着し、糸のようにくねくねと動く。この巨大細菌の大きさと形は、人間のまつげに似ている。
研究者らは、この細菌を「ティオマルガリタ・マグニフィカ」(Thiomargarita magnifica)と命名した。この細菌は、2009年にアンティル大学のオリビエ・グロス教授がマングローブの積層で硫黄酸化物の共生体を調査していた際に発見された
研究者らを驚かせたのは、普通の細菌とは違い、この巨大細菌の細胞内には区切られた小器官が入っているという事実だ。ヴォーランド博士は「この巨大細菌の細胞全体に遺伝子の複製物が分布しているが、本当に驚くべき点は、遺伝子が細胞膜を持つ構造の内部に保管されているという事実」だとし、「細菌では、このようなことは決して予想できなかった」と述べた。
動植物や菌類などの高等生物の細胞では、DNAと蛋白質の合成のための分子は細胞核の内部に集められている。そのような小器官の存在のため、真核生物の細胞は比較的大きい。しかし、細菌は構造が単純で、DNAは細胞ではなく細胞質の内部を漂うのが一般的だ。
この巨大細菌は、繊維のような細胞の末端から娘細胞を出し増殖する。その際、細胞の内部に分布する細胞核に似た小器官である「ペピン」が関与する。「ペピン」は、DNAからタンパク質を合成する工場の役目を果たす「細胞内の細胞」として機能する。
巨大細菌はそのような方式により、細胞核なしで大きな細胞の代謝を維持していることを研究者らは明らかにした。巨大細菌の平均の大きさは9000マイクロメートル(0.9ミリ)であり、最大の長さは2センチに達する。
著者の一人である米国複雑系研究所のシャイレッシュ・デイト代表は、「この研究は、一部の単純な生物から、いかにして複雑性が進化するのかをよくみせてくれる」とし、「生物学的な複雑性を、これまでよりはるかに詳細に調べてみる必要がある。非常に単純だと思われる生物が、驚きを与えてくれるだろう」と述べた。
米国ワシントン大学のペトラ・レビン教授は、この論文に対する論評で、「この細菌がなぜこのように大きくなったのかは謎」だとしたうえで、「この細菌が細菌の大きさの上限だとは考えられない」と述べた。レビン教授は「細菌は絶えず適応し、常に驚かされる存在であるため、決して過小評価はできない」と付け加えた。
引用論文: Science, DOI: 10.1126/science.abb3634