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米宇宙軍の作戦領域、月を越えて拡張

登録:2022-03-11 05:47 修正:2022-03-11 08:07
各国の月探査活動の増加傾向に備え 
「静止軌道と月の間」の偵察衛星の開発へ 
現在より距離は10倍、領域は1000倍 
強力な望遠鏡を搭載して精密監視
静止軌道を越えて月に至る広大な宇宙空間を飛行するチップス(CHPS)衛星の想像図=AFLR提供//ハンギョレ新聞社

 「地球‐月高速道路警備システム」(Cislunar Highway Patrol System=CHPS)。

 宇宙の用語と地上の用語を一つに合わせたこのなじみの薄い名称は、2日に米宇宙軍がユーチューブを通じて公開した未来の青写真だ。

 この動画には、米宇宙軍が今後の偵察領域を月まで拡張させるという構想が含まれている。米空軍研究所(AFLR)が製作したこの動画には、宇宙軍は「これまでの宇宙ミッションは、地上2万2000マイル(約3万5400キロメートル)にとどまっていたが、それは過去のものであり、今後は宇宙ミッションの範囲を、距離は10倍、作戦領域は1000倍に広げ、月の裏側にまで拡張するだろう」と明らかにした。地球と月の距離は平均38万キロメートルで、静止軌道(約3万6000キロメートル)の10倍を少し超える。

 この動画は大衆的な注目を集めてはいないが、宇宙軍が地球の軌道を越えて深宇宙にまで作戦能力を拡大するという、意味深い内容を含んでいる。米国メディアは、米軍が過去にも作戦領域の拡張について言及したことはあるが、今回は具体的に取る行動を明らかにしたという点に意味を付与した。

 まず目につくのは、静止軌道と月軌道の間に強力な性能の望遠鏡を搭載した衛星を発射するという内容だ。動画によれば、この衛星の名前がすなわち「チップス」(CHPS)だ。

 研究所は21日、この衛星に関する「試作品提案書」を公開した後、7月までに契約内容と業者を決定すると明らかにした。研究所の宇宙車両局が管理および監督の役割を担当する。

 衛星が開発されれば、米軍は、宇宙軍事作戦の責任を負っている米宇宙司令部を通じて、その装置を購入する計画だ。したがって、この衛星の開発は、静止軌道から月を越えて米宇宙軍の作戦領域が拡張されることを意味する。

米宇宙軍の新たな作戦領域構想。オレンジが「低軌道」、その外側が「中軌道」、青が「静止軌道」、その外側が「地球‐月軌道宇宙」、点線が「月軌道」。L1-5は太陽と地球の重力が均衡を保つラグランジュ点=CSIS報告書//ハンギョレ新聞社

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脅威への対応より状況把握に重点

 持続可能な宇宙を掲げている非営利民間機構「安全な世界財団」(Secure World Foundation)のプログラム企画理事のブライアン・ウィーデン氏(Brian Weeden)は、オンラインメディア「アース・テクニカ」に、「これは、米宇宙軍が静止軌道と月の間で何が起きているのかを把握し、それが米国の活動に潜在的な脅威になりうるかどうかを識別可能にする1番目の段階」だと述べた。

 彼は、この衛星はすべての脅威に対応できる機能よりも、主に状況を把握することに重点を置いていると付け加えた。

 米国宇宙司令部はなぜ月まで作戦範囲を広げようとしているのか。

 空軍研究所は動画で「米航空宇宙局(NASA)が後援する民間宇宙活動、アルテミス計画、そして他の国々の宇宙活動を含め増加する月の交通量を管理するためのもの」だと明らかにした。アルテミス計画は、2025年を目標に推進しているNASAの新たな月面着陸プログラムだ。

 これは今後、月に向かう宇宙船が急増する可能性が高いという判断に応じたものだ。戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書「Fly Me to the Moon」によると、今後10年間に予定されている月探査任務は、すでに数十件にもなる。

 今年だけでも、ぞくぞくと月への飛行と探査が予定されている。まず、NASAが3~4月中にアルテミス計画の初の発射を計画している。新たに開発した次世代ロケット「スペース・ランチ・システム」(SLS)と有人宇宙船「オリオン」にマネキン人形を乗せ、月を回ってくる。年末には、米国の民間企業のアストロボティックとインテュイティブ・マシーンズの2社が、NASAの科学装置などを載せ、小型無人着陸船を月に送る。英国初の月探査車はアストロボティックの探査機に載せられる。

 ウクライナ侵攻がどのような影響を及ぼすかは不明だが、ロシアも一応、7月にソユーズロケットに月探査機ルナ25号を載せ、月の南極に着陸させる計画だ。ロシアの月探査は1976年以来46年ぶりだ。

 韓国も今年、月探査国の隊列に合流する。8月にスペースXのファルコン9ロケットで、初の無人月軌道探査機を打ち上げる。中東の小国のアラブ首長国連邦(UAE)は、10月に日本の民間企業アイスペースの最初の月面着陸船に小型月探査車を載せて送りだす。

 特に、最近になり米国の宇宙探査を猛烈に追いかけている中国の動きは尋常ではない。中国は今年は特別な月探査の計画はないが、すでに米国に先立ち、月の裏面に着陸船を送り、無人探査機を利用し岩石の標本も持ち帰ってきた。2030年までに有人月面着陸を実現させることが目標だ。

NASAの月軌道宇宙ステーション「ゲートウェー」に近付くオリオン宇宙船の想像図=NASA提供//ハンギョレ新聞社

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月軌道を作戦領域に加えたもう一つの理由

 米宇宙軍が静止軌道を越えて月軌道を作戦領域に加える理由として前面に出しているのは、宇宙の平和的利用と安全保障のためだ。しかし、ウィーデン氏は、そのような表面的な理由だけでなく、別の戦略的な要素があると語った。

 米国の軍指揮部は、他国の政府が月に配備する宇宙物体について懸念しているが、地球の低軌道と静止軌道に焦点を当てた現在の宇宙警戒ネットワークだと、これを見逃す恐れがあるからだということだ。例えば、米軍の指揮部が想定するシナリオには、月の周囲を回る他国の宇宙物体が方向を変え静止軌道の米軍衛星を攻撃する状況も含まれていると、彼は説明した。

 ウィーデン氏は「私はそれはとんでもないものだと考えるが、物理学的な観点では可能なものであり、これは、米軍の現在の宇宙警戒能力が及ばない部分を確実に利用する方法」だと述べた。彼は、米軍が実際より過剰に懸念しているのは、現在はこの宇宙空間に軍事的な資産がないことによるものだと付け加えた。

 宇宙技術で注目に値する成果をあげている中国などの潜在的な脅威に備え、現在は空白状態であるこの宇宙空間に先制的に対応システムを備えておこうとする意図だという話だ。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/future/1034264.html韓国語原文入力:2022-03-10 10:34
訳M.S

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