家のあるソウルから遠く離れた統営(トンヨン)を訪れた目的はただ一つ。「一日中飲み食いにのみ集中すること」。気の合う友人数人が数カ月前から意気投合していた。日程を調整、整理し、反故にするを数十回繰り返し、ようやく旅立つことができた。約5時間かけてたどり着いた統営の第一印象は、混乱したものだった。「東洋のナポリ」という優雅な別名には少々距離があるように見えた。騒がしい雰囲気に期待が半減する思いだった。
たどり着くなり向かったのは、統営バスターミナルの近くにある「山陽(サニャン)食堂」だった。海辺の町では主に魚や刺身を食わねばならないという偏見を打破するために選択した場所だった。どでかい牛の頭を一日中煮込んだスープに様々な部位の肉をたっぷり入れたコムタンとビビンバを注文した。コムタンには丸々とした卵がひとつ落とされていた。ビビンバはワラビ、ズッキーニのナムル、大根のナムル、ほうれん草やきのこなど、各種のナムルに刻んだ豆腐がのせてある見た目が美しい。ナムルに頼った味つけのビビンバは淡白だった。香ばしいコムタンのスープを一口飲んで1杯目の焼酎を引っ掛けたら、もう絶好調。
海辺を歩きながらビールとポンデギ(蚕のさなぎの煮つけ)、コーヒーとブラウニーを食べながら、山陽邑南坪里(サニャンウプ・ナムピョンニ)の山麓にある「ヤソジュバン」に向かった。くねくねとした山道を登っていくと、ひっそりとした邸宅が現れた。主人夫婦が実際に暮らす家でもあるヤソジュバンは、予約客だけを相手にする。夕暮れ時、庭を見て回りながら、いたるところに生える野生の花やさまざまなハーブに出会える喜びは、ここを訪れた者だけが知っている。各種の茶碗が置かれた茶室、主人夫婦が手作りしたマッコリが醸されるマッコリ熟成室を見た瞬間、「一般的な食堂とは明らかに違う」という確信がわいた。甘酸っぱくてよく熟成した香りのするマッコリ熟成室で食べる夕食は、ソウルの誰が思い至ろうか。
ヤソジュバンの料理は繊細で洗練されているが、懐かしい味がした。マッコリ酢ソースを添えたリコッタチーズサラダ、皮にトーチで焦げ目をつけた香ばしいサワラの刺身、天然のイガイ、オニサザエ、アズマニシキ、クルマエビなどの貴重な海産物が盛られた一皿、旬の松茸とアワビを入れた澄んだスープ、よもぎを入れて炊いた釜飯や背カルビ焼きなどの料理が、統営の山奥の店で列をなして出てきたと言ったら、誰が信じよう。「もう食えない。消化薬さえ腹いっぱいで入らない」と言うや否や、手作りマッコリが登場した。柔らかく弾ける炭酸、澄んだきれいな色、口の中で弾ける清涼感あふれる酸味やさっぱりしたのどごしまで、まさに食後を飾る酒として合格だった。
都会では当然と思われた経験が、統営ではすべて新鮮だった。「都市万能主義」のような偏狭な考えを掲げようというのではない。知らないから勇敢になれたし、不慣れな土地だったから楽しめた。初めて訪れた統営での初夜は、腹を抱えながら、アルコールと共に流れていった。