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ひらひらと帰って来る少女たちを温かく迎える映画『鬼郷』

登録:2016-02-05 23:01 修正:2016-02-06 06:41
24日に意義深い封切り
ワウピクチャーズ提供//ハンギョレ新聞社

 80年間の痛み、25年間の戦い、14年ぶりの公開。映画『鬼郷』は、まず数字で語られる映画だ。7万5270人の市民が11億6122万ウォン(約1億1337万円)の制作費を集めて作られた映画でもある。日本軍慰安所に連れて行かれ少女たちの話を取り上げた映画『鬼郷』が、24日の封切りを控えている。

 数多くの犠牲者のうち、238人だけが日本軍「慰安婦」被害者として政府に登録され、現在は46人だけが生存している。映画は、その中で被害者ハルモニ(お婆さん)のカン・イルチュルさん(89)の体験談を基に作られた。撤退する日本軍が、退却の邪魔になる慰安婦たちを山に連れて行き、地面に掘った穴に押し込んで殺した後、遺体は燃やす。カン・イルチュルさんは、その穴で死ぬ直前に独立軍によって救出され、生き残った。 2002年、「ナヌムの家」でボランティア活動をしていたチョ・ジョンレ監督は、カン・イルチュルさんが心理療法の過程で描いた絵「焼かれる女の子たち」を見て、映画を作る決心をしたという。長い間、製作費が足りず、なかなか製作に踏み切れなかったこの映画は、市民後援金で製作費の半分が集まったことで、撮影を始めることができた。映画の最後の8分間、7万5270人の支援者の名前が流れる瞬間は、どんな大作も映し出せない、この映画だけのスペクタクルだ。俳優のソン・スク氏、オ・ジヘ氏、チョン・インギ氏などは、出演料を受け取らなかった。残忍な日本将校役を演じたイ・ソンチョル氏は白凡・金九先生の母方の家系だ。イム・ソンチョル氏は、偶然この映画について知り、美術監督とプロデューサーを兼任しながら、この映画の完成の立役者になった。

「慰安婦被害ハルモニのカン・イルチュルさんの実話基に 
日本軍に連行された少女「ジョンミン」描き出す 
戻れなかった怨霊たちのための「レクイエム」 

7万5270人の後援で14年ぶりに公開 
チョ・ジョンレ監督「魂たちを故国に連れてこよう」と映画製作

ワウピクチャーズ提供//ハンギョレ新聞社

 しかし『鬼郷』は、残酷な歴史的事実や善意だけを強調する教科書のような映画ではない。畑仕事を終えた父親(チョン・インギ)は、よく娘を背椅子に乗せて帰ってきていた。母親(オ・ジヘ)は、14歳の少女に魔除けをつけさせて、如何なる不吉なものも寄り付かないように祈った。こんなにも大切にしていた娘が、ある日、トラックに乗せられ、中国牡丹江慰安所に連行された。そこで日本軍の将校は刀を抜いて、「お前たちは人間ではない。皇軍のための雌犬に過ぎない」と脅す。少女たちは、「私たちは連れてこられた瞬間に、すでに死んでおり、ここは(死者が彷徨う)地獄」と言う。

 映画は、1943年に慶尚南道居昌(コチャン)のある村で突然日本軍に連行された少女ジョンミン(カン・ハナ)の物語と、神がかった1990年代の少女、ウンギョン(チェ・リ)の物語を交差させながら進む。そして、解決されなかった歴史は、現在と出会う。性的暴行を受けた後、言葉を失ったかのように、自分だけの世界に引きこもってしまったウンギョンは、異国の地で踏みにじられ、死んでいった慰安婦被害者の魂を受け入れながら、彼女らの言葉を今日の人々に伝える者となる。性的暴行の被害者が戦争犯罪の犠牲者を慰めるこの映画は、女性がどのように互いの痛みに共鳴し、被害者からの治療者に変化していくのかを描く。この映画のエネルギーは、まさに生きている者と死んだ者を慰めるためのレクイエムの雰囲気、自らを差し出して怨霊の証言者であると同時に、霊媒になろうとする意志から生まれたものだ。『鬼郷』という映画のタイトルは「家に帰る」ことではなく、「鬼神たちの故郷」を意味するという。

 封切りに先立ち、すでに米国と韓国で支援者たちのための試写会を開いたチョ・ジョンレ監督は「映画を作った者としては、試写会そのものがレクイエムだと思っている。私たちが20回の試写会を開くと、20人の怨霊が故郷に帰ってくると信じている」とした。「異国の地で死んでいった慰安婦被害者の魂を、故国に連れてこよう」という趣旨で作られた映画は、慰安婦被害者の魂の一つひとつを蝶に表現し、彼女らがひらひらしながら、こそこそとおしゃべりしながら、故郷に戻ってくる情景を描く。シャーマニズム的な雰囲気を演出するために、激しい交戦や残忍な虐殺シーン同様、歌と踊りに力を入れた。巫女祭りを主導するウンギョン役を演じたチェ・リ氏は、韓国舞踊を専攻した俳優だ。

 映画『パッション』を連想させる最後の場面を見ると、監督が慰安婦を単に被害者ではなく、殉教者であり、我たちが歴史に持つ原罪に気づかせる存在と見なしていることが分かる。「もうすぐ、すべて終わるだろう」。映画の中で、過去の傷を抱えて生きていく慰安婦ハルモニのヨンオク(ソン・スク)は、時々つぶやいたりするが、現実ではハルモニたちの受難はまだ終わっていない。チョ・ジョンレ監督は「この映画がハルモニたちの代わりに語る文化的な証拠となってほしい」と述べた。

ナム・ウンジュ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-04 19:48

https://www.hani.co.kr/arti/culture/movie/729432.html 訳H.J

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