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[書評] 福祉国家は保守が作った‘予防的国家’

登録:2014-07-27 22:28 修正:2014-07-28 07:17

<再評価>(邦題:失われた二〇世紀)
トニー・ジャット著、チョ・ヘンボク訳
ヨルリンチェクドゥル(開かれた本)・2万8000ウォン

 ‘失われた20世紀に対する省察’という副題をつけた<再評価>(Reappraisals: Reflections on the Forgotten Twentieth Century 2008)は2008年に翻訳・出版され好評を得た<ポストウォー1945~2005>(プラネット編,邦題:ヨーロッパ戦後史)の著者トニー・ジャット(写真)のまた別の力作だ。 脱冷戦以後、ヨーロッパ史の傑作と言われる<ポストウォー>が第2次大戦が終わった1945年から冷戦崩壊を経て21世紀始めに至るヨーロッパ史を扱った総合的通史であるのに比べて<再評価>は<ニューヨーク レビューオブ ブックス> <ニューリパブリック>等の新聞・雑誌に寄稿した長文の書評形式を帯びた、知識人と思想、国家と事件に対する20個余りの批評文からなる。 これらの中の多数が<ポストウォー>(2008)作業期間に当たる1994~2006年に書かれた。

忘れられた20世紀の遺産、または教訓は何か?

 トニー・ジャットは問う。「今日20世紀の福祉国家は常套的にヨーロッパ国家であり社会主義的国家に置き換えられる。 … 20世紀福祉国家は社会主義的だと言えるか?」そして答える。 「スカンジナビアを別にすれば、実践的福祉国家の核心的制度を樹立し管理した者は社会主義者ではなくキリスト教民主党員たちだった。」英国の公共福祉法規の原則を確立したウィリアム・ベヴァリッジの報告書を依頼し承認したのはチャーチル政府であり、1979年までの歴代保守党政府はこれを再確認し継承した。 言ってみれば20世紀福祉国家は、自由主義者と保守主義者が作ったものであり、それは20世紀社会主義の開始ではなく、19世紀自由主義の完結だった。 福祉国家は平等主義的革命の先鋒隊ではなく、ファシズムとスターリン主義的全体主義への狂暴な帰結を阻むための「予防的国家」であった。

全体主義への帰結を阻むためのもの
社会主義の抑圧に沈黙した知識人への批判

 「西欧社会は(福祉国家の成功の結果)50年間続いた繁栄と安全のおかげで、集団的不安の政治的で社会的なトラウマを忘れた。」逆説的に言えば、まさにこの成功のために「我々が(資本主義体制を安定させた)福祉国家を受け継いだ理由は何か、何が福祉国家を作らせたのかを忘却」してしまったために、これを可能にした国家自体を障害物と見なし、民営化と規制緩和を要求する市場至上主義に陥ったのだと著者は指摘する。

 福祉にまともに進入することすらできなかった韓国の主流市場至上主義者らが‘福祉亡国’を叫ぶのは迷妄か、はたまた欺瞞か。

 <再評価>でのもう一つの主要関心事は、思想の役割と知識人の責任だ。 著者は20世紀を‘知識人の世紀’だと言った。 ドレフュス事件以来の参与する知識人、ジャン=ポール・サルトルとミッシェル・フーコー、アンドレ・マルロー、ジョン・デューイ、ジョージ・オーウェル、ギュンター グラス、スーザン・ソンタグに至る西欧左派‘進歩主義者’、そして少なくとも1941年まではこれらよりさらに影響力が大きかったと言われるドイツのエルンスト・ユンガー、フランスのピエール・ウジェーヌ・ドリュ・ラ・ロシェル、ルーマニアのミルチャ・エリアーデらとユダヤ人が多数を占めていた‘さすらいの20世紀旅行者’を彼はざっくりまとめて20世紀の‘文筆共和国’と呼んだ。 その共和国で今日まで幅広い読者層を維持しているのは、ハンナ・アーレントとアルベール・カミュ程度だと話す。 この‘知識人の失踪’こそが「去る30年間に起きたすべての変化の中で最も暗示するところが大きい」と語った。

 ‘夢想’‘たわごと’という言葉まで使いながら追い詰めたルイ・アルチュセール批判は辛らつだ。 アルチュセールはスターリン主義と革命の失敗からマルクス主義を救出するために、人間の意志と行動よりは抽象的理論考察を最高の実践と感じ、マルクスを再構成するという“途方もない詐欺を働いた”と述べた。 スターリン主義の抑圧が横行した現存社会主義の現実に対して沈黙したエリック・ホブズボームも放ってはおかなかった。 “(彼は)我々の時代の歴史家の中でも最も多くの才能を持って生まれた。 しかし何の妨げも受けずに休息を取ったホブズボームは、我々の時代の恐怖と羞恥を知らずに眠っていた。”サルトルなどフランス左派イデオロギーに対する冷酷な批判も、彼らがスターリン主義の専制的抑圧に対して沈黙し、またはそれを弁護したことに焦点を合わせた。

 <オリエンタリズム>のエドワード・サイードに対する高い評価は、イスラエルおよびアメリカに対する容赦のない批判とコインの両面をなしている。 外交の鬼才と言われるヘンリー・キッシンジャーと、彼を起用したリチャード・ニクソンに対する巷間の評価をひっくり返す批判は、ジョージ・ブッシュのイラク・アフガン侵攻に代表される、自由主義が死んでしまったアメリカ国家批判と脈を同じにする。

 翻訳本の解説を書いたホン・キビン グローバル政治経済研究所長によれば、<再評価>出版の翌年、突然にルー・ゲーリッグ病(筋萎縮性側索硬化症)の宣告を受けて2010年に亡くなったトニー・ジャットが行った最後の作業の一つは、息子の世代が作らなければならない未来世界の姿に対する政治的遺言を残すことだった。

 ジャットは晩年に出した本(2010)を“今日私たちが生きている方式は何かが根本的に誤っている”という一節で始めた。 そして成長と収益性、効率性のような資本主義的言語と考え方にやつれ果て、不平等と不安定の恐怖に苦しみ、公共に対する関心はほとんど消耗してしまった‘資本主義地獄’を抜け出す道を語った。 社会民主主義の復活がその道だった。

ハン・スンドン記者 sdhan@hani.co.kr、写真 <開かれた本>提供

https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/648666.html 韓国語原文入力:2014/07/27 19:41
訳J.S(2648字)

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