候補交代をめぐる先週末の与党「国民の力」の泥沼劇は、権力にしがみつく保守勢力の欲望がどれほど強く、執拗なのかをあらわにした。午前2時に候補選出公告を出してまで、ハン・ドクス前首相を「国民の力候補」に立てることを企てたほどだ。適法の手続きに基づいて選ばれたキム・ムンス候補から候補職を奪おうとした理由はただ一つ、「民主党のイ・ジェミョンが大統領になってはダメだ」という誤った執着だ。
12・3内乱が失敗したにもかかわらず、戒厳を擁護し政権交代に抵抗する動きは現在も続いている。軍統帥権者の命令を遂行した指揮官たちは拘置所に入っているが、その指示を下した「内乱首謀者」はペットとともに堂々と漢江公園を散歩しているのが現実だ。チョ・ヒデ最高裁長官をはじめとする最高裁判事らが裁判を無理に操り上げ、国民支持率1位の候補を選挙から排除しようと試みたのは、そのような抵抗のもう一つの例だ。
予期せぬことが相次いで起きている理由は明らかだ。この数年間、韓国政治を覆った「反イ・ジェミョン」の傘の下で、保守既得権勢力はすべての不法と便法、時代錯誤な行動を正当化しようとした。チョ・グク(元法務部長官)をターゲットにして大統領の座までのし上がった尹錫悦(ユン・ソクヨル)の道を、今、国民の力とキム・ムンス候補が踏襲している。自分を追い出そうとした親尹錫悦勢力と手を携えて「ビッグテント」を叫ぶキム・ムンス候補の姿は、滑稽極まりない。
国民の力の中でもキム・ムンス候補が大統領選挙で勝つと予想する人はほとんどいない。キム・ムンス陣営の主要関係者は、「ハン・ドンフン(前代表)をはじめ、すべての人が選挙後の全党大会で党権を握ることだけに血眼になっている」と語った。面白いのは、キム・ムンス候補が最後まで持ちこたえた理由も、党権と来年の地方選挙の公認権のためだと、キム候補を反対した側ではみているという点だ。目前の選挙より党大会に没頭するのは、党代表にさえなれば起死回生できると信じているからだ。前例のない候補交代まで起きた泥沼劇で、国民の信頼は地に落ちた。にもかかわらず、いまだに復活できるという期待を捨てていない。だが、これを空しい迷夢とは言い切れない。この数十年間、国民の力はそうやって相手のミスと過ちに期待して選挙での勝利を図る「反射利益政治」に慣れてきた。
このような状況で、イ・ジェミョン候補と最大野党「共に民主党」の圧倒的な勝利は、単なる政権交代以上の意味を持つ。まず、12・3内乱の反省なしに権力を維持しようとする保守既得権勢力の傲慢と錯覚、時代錯誤的な主流意識に対する明確な審判になるだろう。大統領選挙の敗者を狙った前例のない検察捜査に続き、選挙をわずか1カ月後に控えて最高裁が破棄差し戻しを急いで決定したのは、傲慢の果てを示している。キム・ムンスからハン・ドクスに候補を替えれば(大統領選挙で)勝てるという考えは誤っている。民主主義は共同体の運命を決める重要な選択を国民多数に任せるという合意に基づいた制度だ。選挙とは、まさにその国民の選択を投票で示す行為だ。極めて常識的な原理を否定しようとするすべての勢力にとって、今回の大統領選挙は大きな警鐘をならすものでなければならない。
第二に、国民の力が惨憺たる騒ぎを起こしたにもかかわらず、何事もなかったかのように選挙運動に乗り出すのは、それでも民主党とイ・ジェミョン候補に反対する30〜40%の支持層を結集できると考えているためだ。これをもとに新政権の足を引っ張り、ミスや過ちを引き出せば、いつでも政治状況を逆転させられるという期待を抱いているのだ。韓国の保守政党は、新たな価値と方向を提示するよりも、常に反射利益に頼って権力を握ることに没頭してきた。通貨危機で国を崩壊させたとしても、次の大統領選挙ではほぼ政権奪取の一歩手前まで進んだ。そのようなやり方で、朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾にもかかわらず、5年後には再び政権を握った。今度はそのような誤った考えを叩き直さなければならない。それが健全な保守の誕生と成長を引き出すのにも役立つだろう。
第三に、国民の半分をはるかに越える支持を受けてこそ、新政権が法的・政治的議論に動揺せず、国政運営を安定的に行っていくことができる。引継ぎ委なしに発足する新政権は、過去とは違って野党またはマスコミとの「ハネムーン」は期待できない。最高裁判所がみずから乗り出して議論の余地を作ったため、保守勢力は初日から法的議論を名目に攻勢をかける可能性が高い。国際情勢と国内経済ともに1997年の通貨危機に劣らない不確実な状況に置かれている。国民の強い信頼を受ける大統領の誕生は、国際社会に韓国の民主主義の復元力を誇示し、通商問題で交渉力を高める方向に働くだろう。
1987年に大統領直選制が復活して以来、国民の過半数の支持を得たのは、2012年の朴槿恵候補(51.55%)が唯一だった。今回の大統領選挙では、それをはるかに上回る圧倒的な当選者が出ることを期待する。