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[コラム]「国費で逃避」のオーストラリア大使、大統領のごり押し

登録:2024-03-16 01:02 修正:2024-03-16 09:46
尹錫悦大統領が昨年9月、仁川港水路および八尾島の近海に浮かぶ上陸艦「露積峯」の艦上で行われた第73周年仁川上陸作戦戦勝記念式で、イ・ジョンソプ国防部長官と話している/聯合ニュース

 刑事のソ・ドチョルはチョ・テオを疑っています。深刻な事件に関与したという情況証拠が色々と飛び出してきます。でも財閥3世の力は強大です。捜査網を狭めていっても避けていくばかりです。ですが、実はチョ・テオもソ・ドチョルを恐れています。恐怖はごり押しにつながります。チョ・テオは人を送ってソ・ドチョルの殺害を試みます。しかし誤って彼の同僚の警察官を凶器で刺してしまいます。ソ・ドチョルの上司は目をむきます。「大韓民国の警察に手を出すのはどこのどいつだ! 首謀者を俺の前に連れて来い!」 それを聞いたソ・ドチョルがニヤリと笑って観客にささやきます。

 「聞いたでしょ? 刑事殺人教唆で状況がひっくり返った」

 2024年の大韓民国は映画「ベテラン」の現実版です。国費留学でもない初の「国費逃避」は、「C上等兵殉職事件捜査外圧」疑惑を「大統領による犯人逃走支援」疑惑へと変えました。大統領が国防部の仕事処理が気に入らなくて「怒鳴りつけた」のか、怒鳴りつけたなら、それが不当な外圧へとつながったのかが問われていた事件は、大統領が自身の共犯者だとの疑惑が持たれていた被疑者を国外逃避させた事件へと変化しました。カーテンの後ろに隠れて手が出せなかった「チョ・テオ」がやぶをつついて蛇を出し、自ら最前線に出てきたからです。

 おかげで戦線は明確になりました。大統領が主人公です。大統領が主人公を務める事件に私たちは慣れています。10年の間に2人の元大統領を刑務所に送った国ですからね。観戦には復習が必須です。資料はたくさんあります。

 憲政史上初の大統領弾劾の幕開けとなった事件、「悪い人」がバイブルです。2013年8月、朴槿恵(パク・クネ)大統領がユ・ジンニョン文化体育観光部長官らを大統領府の執務室に呼びます。手帳を取り出します。文体部のN局長とJ課長の名をあげます。そして付け加えます。「悪い人だということで、す、が」。問題は、まさにその「誰か」から聞いた話を根拠として主務長官に所属省庁の局長や課長の更迭人事を指示したことです。その翌月、文化体育観光部の体育局長と体育政策課長が更迭されます。

 外見上は大統領が人事権を行使したこの事案を、検事尹錫悦(ユン・ソクヨル)を含むパク・ヨンス特別検事チームは犯罪と判断しました。職権乱用および強要という容疑を適用しました。一審と二審は職権乱用と共に、強要罪も有罪と認めました。大統領は公務員社会への影響力が絶大なので、大統領の口から出た要求に従わなければ不当な人事が発令されるなどの具体的な不利益を伴うというのです。脅迫は強要罪の構成要件の一つですが、大統領の指示はそれそのものが「従わなければ途方もない不利益を被る」という「害悪の告知」に当たるため、脅迫と見なせるというのです。その後、最高裁の多数意見は「具体的な害悪の告知はなかった」として強要罪を無罪としましたが、職権乱用罪は認めています。これは、大統領の人事権にも限界があるということを意味します。

イ・ジョンソプ前国防部長官がオーストラリア大使に任命され、10日に仁川空港から出国する過程で、MBCの記者から質問を受けている=MBCニュースのユーチューブチャンネルより//ハンギョレ新聞社

 共に民主党は12日、イ・ジョンソプ大使の「逃避性出国」の過程での違法疑惑を捜査する特別検事任命法案を国会に提出しました。イ大使の出国過程での違法行為、それにかかわった大統領室、外交部、法務部、高位公職者犯罪捜査処などの職務遺棄、および職権乱用に関連する違法行為が捜査対象です。

 イ前長官をオーストラリア大使に任命する過程は、これまでの外交慣例と常識を超えています。法務部がイ大使の出国禁止を解除した過程も、これまでの捜査慣例と常識を超えています。超常識的な決定と判断が合わさったイ大使の「任命と出国」のあらゆる過程には、職権乱用および強要疑惑が持ちあがるだけの発言と指示・報告があふれているはずです。

 尹大統領は大統領犯罪の専門家です。大韓民国の歴史上、これほど現職大統領の犯罪に精通している人物はいません。大統領のどのような指示が、どのように伝えられ、どのような結果を生んだ時、どのような犯罪容疑が適用されうるのかが、本能のように彼の全身に刻まれています。「前国防部長官のイ・ジョンソプをオーストラリア大使として派遣せよ」。専門家である彼が危険を冒してこのような指示を下したという点で、この事件は「悪い人だということですが」と同じくらい何かの兆候を示すものです。

 映画においてチョ・テオのごり押しは、意図したものとは異なる方向へとチョ・テオの運命を導いていきます。「なんでここまで…」。事を起こして「状況をひっくり返した」大統領のごり押しは、尹大統領の運命をどこに導いていくのでしょうか。

//ハンギョレ新聞社

キム・ウォンチョル|社会部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1132188.html韓国語原文入力:2024-03-14 07:00
訳D.K

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