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[コラム]尹大統領はキム・ゴンヒ女史が怖いのか?

登録:2024-01-09 08:45 修正:2024-01-09 10:04
英仏歴訪中の尹錫悦大統領と夫人のキム・ゴンヒ女史が昨年11月23日(現地時間)、パリのオルリー国際空港に到着し、専用機の空軍1号機から降りて移動している=パリ/聯合ニュース

 昨年12月28日午後に国会で「キム・ゴンヒ特検法」と「大庄洞(テジャンドン)50億クラブ特検法」が可決された直後、大統領室のイ・ドウン広報首席がブリーフィングルームの壇上に立った。彼は少し上気した顔でこう言った。

 「今、国会で両特検法案が可決された。大統領は法案が政府に移送され次第、直ちに拒否権を行使するであろうことを申し上げる」

 大韓民国憲法は、国会で議決された法律案に異議があれば、大統領は異議書を添えて国会に差し戻し、再議を要求できるとしている。大統領の持つ権限は「再議要求権」だ。

 拒否権という言葉はメディアが便宜上用いるものだ。公職者は拒否権という言葉をあまり使わない。にもかかわらず、イ・ドウン広報首席は「拒否権」という非憲法的、非法律的な単語を用いた。おそらく、大統領の反対意志を強調するために意図的にそうしたのだろう。

イ・グァンソプ大統領秘書室長が5日、ソウル龍山の大統領室庁舎で「キム・ゴンヒ女史および大庄洞」両特別検事法に対する国務会議での再議要求案の議決についてのブリーフィングをおこなっている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 イ・ドウン広報首席は1964年に江原道洪川(ホンチョン)で生まれた。烏山(オサン)高校と延世大学政治外交学科を出て、ソウル新聞の記者となった。2017年にパン・ギムン前国連事務総長の報道官を務め、その後、文化日報の論説委員として復帰した。昨年2月に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の報道官に任命され、11月には広報首席に任命された。

 5日の臨時国務会議で特検法に対する再議要求権の行使が建議された直後、イ・グァンソプ秘書室長が説明に立った。特検法がなぜ誤っているのかを一つひとつ説明した。

 正しい内容もあるが、間違っている内容の方が多かった。「50億クラブ特検法はイ・ジェミョン代表を守ることが目的」だとの論理はただの詭弁(きべん)だ。

 「ドイツモーターズ特検もまた、12年前の結婚前のことで、文在寅(ムン・ジェイン)政権で2年間にわたり隅々まで捜査して起訴どころか呼出しもできなかった事件を二重に捜査することで、裁判を受ける関係者の人権を侵害するだけでなく…」

 この主張が正しいなら、検察がキム・ゴンヒ女史を不起訴にすればよい。検察は、これまでキム・ゴンヒ女史を呼出しもできなかったのではなく、しなかったと考えなければならない。検察が捜査をきちんと行っていないから、特検が必要なのだ。

 イ・グァンソプ室長は1961年生まれで、慶北高校とソウル大学経営学科を卒業。経験豊富な産業通商資源部の元官僚だ。尹錫悦大統領の政策企画首席、国政企画首席に任命された。大統領室の実力者とうわさされ、昨年11月には政策室長となった。そしてわずか1カ月で秘書室長になった。元経済官僚の政治ブリーフィングは見ていて恥ずかしくなる。

 法務部は5日、「野党単独で強行した違憲的な2件の特検法案に対する国会に対する再議要求、国務会議で議決」と題する6ページの報道資料を発表した。

 「総選挙を控えた時期に与野党協議もなしに巨大野党がファストトラックによって一方的に強行採決したこの法律案は、総選挙に影響を及ぼすための政争的立法」だと述べた。与党「国民の力」の報道担当者が出した論評をほうふつとさせる。

 法務部長官は検察事務の最高監督者として一般的に検事を指揮・監督し、具体的事件については検察総長のみを指揮・監督する閣僚だ。したがって法務部がこのような報道資料を出すことは、検察庁法の規定する「検事の政治的中立義務」に違反する危険性がある。いったい誰の指示で、なぜこのような資料を出したのだろうか。現在は空席となっている法務部長官の職務は、イ・ノゴン次官が代行している。

 イ・ノゴン次官は1969年に仁川(インチョン)で生まれ、永楽高校と延世大学法学部を出て検事になった。水原(スウォン)地検城南(ソンナム)支庁に勤務していた時代に尹錫悦検事と「カープール」をするなど、近しい間柄であることが知られている。

 尹錫悦大統領は釜山(プサン)万博誘致が失敗した直後、「万博誘致を総指揮し責任を担った大統領として、釜山市民をはじめ国民のみなさまを失望させたことは本当に申し訳ない」と自ら謝罪した。そして「これらはすべて私の力不足のせいだと思ってほしい」と述べた。「うまく指揮して誘致を引き出すことができなかったのは、大統領である私の力不足のせい」だと述べた。

 そう言っていた尹錫悦大統領が、キム・ゴンヒ女史に関する疑惑については口をつぐんでいる。部下たちを盾にして世論の矢面に立たせ、自分は卑怯にもその後ろに隠れている。なぜなのか。キム・ゴンヒ女史が怖いのだろうか。あらゆる報道機関がキム・ゴンヒ女史の問題をこのままにしてはならないと言っているが、その声は聞こえないのだろうか。

 大統領室と国民の力の中には、キム・ゴンヒ女史の疑惑を法に則って処理すべきだと尹錫悦大統領に進言する人物はひとりもいないのだろうか。尹錫悦大統領のもとにいるのは「奸臣」だけで、「忠臣」はいないのだろうか。知りたいものだ。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1123451.html韓国語原文入力:2024-01-08 16:08
訳D.K

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