本文に移動

[コラム]キム・ゴンヒ女史が大統領なのか

登録:2023-12-09 06:43 修正:2024-01-27 08:32
キム・ゴンヒ女史が昨年9月13日、チェ・ジェヨン牧師からプレゼントされたディオールのバッグが入った紙袋を前にチェ牧師と話している。右側はチェ牧師が「プレゼント提供意思」をあらかじめ示したカカオトークメッセージ=「ソウルの声」の動画より//ハンギョレ新聞社

 高価なブランドバッグを受け取った大統領夫人の行為は法律違反なのかどうか。小学校の算数のようなこの問題が、動画の公開から10日が過ぎてもなお甲論乙駁の対象になるのはコメディだ。

 「キム・ヨンラン法(不正請託及び金品授受の禁止に関する法律)違反に間違いない」。尹錫悦(ユン・ソクヨル) 大統領の特捜部時代の同僚や先輩後輩6人に聞いたが、同じ回答が返ってきた。「ドンピシャだ」。尹大統領夫妻と親交の深い人さえきっぱりと言い切った。

 キム女史は夫が就任した後の昨年9月13日、チェ・ジェヨン牧師という人から300万ウォン(約33万円)の「ディオール」のバッグをプレゼントされた。キム・ヨンラン法の適用対象である「公職者の配偶者」として、「同一人に1回100万ウォン(約11万円)または1年300万ウォンを超過する金品」を受け取ったのだ。処罰条項には「3年以下の懲役、3千万ウォン(約330万円)以下の罰金」が明示されている。さらにキム女史はバックを用意したというチェ牧師の「提供意思」を示すメッセンジャーアプリのメッセージを読んでから、訪問を許可した。うっかり受け取ってしまったという言い訳は通じない。断っていないし、返したという話も聞こえない。

 これはキム女史だけで終わる問題ではない。自分の配偶者が、授受が禁止された金品を受け取った事実を知った公職者には、直ちに書面報告、返還または返還を促す義務が発生する。「遅滞なく」履行するよう法によって定められている。それを履行しなかった場合は、配偶者と同じように処罰される。キム女史の場合、履行義務を負うのは尹大統領だ。そのため、大統領が収賄の事実をいつ知ったのか、知ってから法的義務を履行したのかが重要だ。たとえ以前は知らなかったとしても、今回公開された動画まで知らないとは言えないため、尹大統領がどのように行動したかは必ず確認されなければならない。

 しかし、大統領室はこれまで沈黙と無対応を貫いている。キム・ヨンラン法の主務機関である国民権益委員会は、キム女史に対する報告があったかどうかを尋ねられると「(それについては)言えない」と回答した。「朝鮮第一剣」の異名を持つハン・ドンフン法務部長官は、動画が公開されたにもかかわらず、「内容についてよく知らない」とごまかした。キム女史ではなく、大統領室の他の公職者の夫人が同じ行為をしても、このような対応を取っただろうか。

昨年7月、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した尹錫悦大統領が、キム・ゴンヒ女史と宿舎の近くを散歩している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 公職綱紀秘書官室の監察は基本だ。権益委が職権調査に乗り出す可能性もある。ともすれば、施行令を直して「など」の範囲をむやみに拡大する政府のことだから、「業務調査に必要な実態調査など」(キム・ヨンラン法)に基づけば、できないわけがない。検察と警察の捜査もいくらでも可能だ。しかし、何も起きていない。キム女史がまるで任期中に不訴追特権を享受する大統領になったかのようだ。

 一方では、とんでもない擁護論まで登場している。「毒樹の果実」の主張が代表的だ。バックの収受(果実)はユーチューブチャンネル「ソウルの声」の仕掛けた罠(毒樹)に陥った結果なので、それ自体で原因無効だと主張する。ならば、これはどうだろうか。有名ウェブトゥーン作家の息子を虐待した疑いで検察が裁判に付したある特殊学校教師に対する有力な証拠は、子どもの両親が「こっそり録音」した音声ファイルだ。これも毒樹の果実なのか。いわゆる「チェ・スンシルゲート」で処罰の決定的証拠はチェ氏のタブレットPCから出てきた。ある放送局の記者がチェ氏の許可なしで持ち出し、放送で流した。これもやはり毒樹の果実なのか。本来、毒樹の果実は検警など「捜査機関」の違法な証拠収集行為を禁じる刑事司法の原則だ。報道機関の取材倫理とは接点がない。にもかかわらず、この二つを混ぜて大衆の混乱を誘導するのに躍起になっている。

 大統領も、キム女史も今は力が強い。今回はうやむやにしてやり過ごせるかもしれない。しかし、結局何事もなかったことにはならない。今回の収賄の公訴時効は5年、尹大統領が任期を終えて4カ月後の2027年9月までは捜査と処分が可能だ。万が一、検察がそれまで故意に放置すれば職務遺棄になる。

 「A前検事長をはじめ、これまで女史の問題を取り上げた人は一人も例外なく大統領に捨てられた。誰があえて猫の首に鈴をつけようとするだろうか」。尹大統領の昔の同僚たちは心配と懸念の言葉を続けた。「大統領が離婚する覚悟でもしない限り、女史の問題は解決できないだろう」 「あんなことが今回だけだろうか。バックも深刻だが、金融委員人事について請託する通話内容を聞いたという伝言のほうがショッキングだった」「『南北問題に私が乗り出すつもりだ』というキム女史の発言は何なのか」

 尹大統領も知っているはずの中国法家の古典「韓非子」に「八姦(八術)」篇がある。最高権力者が警戒しなければならない周辺の8つの危険を挙げ、「同床」、すなわち一つ布団で寝る配偶者を第一に挙げた。2千年前の洞察が現実だとは、ぞっとするほど驚くべきことだ。

//ハンギョレ新聞社
カン・ヒチョル|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1119548.html韓国語原文入力:2023-12-08 17:55
訳H.J

関連記事