ユン・ソクヨル前検察総長が、野党「国民の力」の大統領候補予備選挙の討論会の際に、手のひらに漢字で「王」の字を書いていた事実が明らかになり、議論となっている。与党と野党内の対立候補らは「呪術的な意味があるのではないか」「時代錯誤的だ」と非難している。ユン前総長は3日、「支持者が、王のような勢いで自信を持って討論をうまくできるようにという応援の意味で書いてくれたもの」だと述べ、「呪術的な意味を込めているという話は憶測」だと説明した。ユン前総長側はハプニングだとして片付けているが、そのように軽くは済ませられないことだ。
まず、ユン前総長側の説明が二転三転しており、常識に合わない。問題が大きくなると、当初は5回目の討論会でだけ起きたことであるかのように説明したが、3、4回目の討論会でも同じ文字が手のひらに書かれているシーンが出てくると、話を変えた。「文字を消そうとしたが消えず、そのまま討論会に出た」という説明も、手のひらの文字が、討論会のたびに現れたり消えたりすることが繰り返されており、つじつまが合わない。消せなかったのではなく、少なくともユン前総長の黙認があったわけだ。初めから不適切だと考えていたとすれば、2回目からはたとえ支持者の要請だったとしても、丁寧に断るべきだったのではないか。
巫俗的な意味のある行為なのかどうかについては、まだ断言できない。ただし、ユン前総長は、8月のキム・ジョンイン元国民の力非常対策委員長との昼食でも占い師と同席した事実が明らかになったことがある。大統領選挙で巫俗についての非難が何度も出てくること自体が、政治の品位を損なうことだ。
何より、選挙戦の討論会は、民主主義政治の過程の中心である選挙において、重要な手続きのうちの一つだ。国民の前で大統領候補としての資質と政策を検証される公的な舞台だからだ。そのような場で、前近代的な統治を象徴する「王」の字を手のひらに書いて繰り返し露出したことは、国民に対する礼儀とはいえない。時代にふさわしくない統治観を持っているのではないかという疑問ばかりを呼び起こすだけだ。ユン前総長は「今の時世に王がどこにいるのか」と釈明したが、それならば、よりいっそう慎重でなければならないことだ。
ユン前総長側は行き過ぎた議論だという立場だが、本人はもちろん選挙の過程自体を戯画化する結果を生んだ点は否定できない。ユン前総長は、これまでにも多くの分野の政策に関する失言で批判され、一歩遅れて釈明したりしてきた。民主主義国家の大統領選に臨む政治家として、品位を損なう過ちをこれ以上繰り返さないでほしい。