米国の科学ジャーナリストのシャンカール・ヴェダンタム氏は、『隠れた脳』(Hidden Brain)というタイトルの著書で、「意識的な脳」と対比される「隠れた脳」という概念を新たに示した。私たちが意識はできないが私たちを操っている様々な影響力、すなわち、無意識、潜在意識、暗示性のような概念を包括する言葉だ。
意識的な脳は、合理的で、慎重で、分析的だ。これと異なり隠れた脳は、日常的で、平凡で、反復的なことを行うために心の近道を使う。子どもが世間に広まった偏見や偏向をすぐに学習するのは、隠れた脳の作用だ。意識的な脳がそれを統制する能力を持つようになり、人は「大人」になる。
ところが、意識的な脳が統制力を十分に発揮できない場合がある。一つ目は、「圧迫感」に苦しめられる時だ。人々の関心が集中している政治家が演説の途中で荒唐無稽な話を吐きだすのが、そのような事例だ。二つ目は、高齢者が極めて疲れた時だ。年をとった高齢の患者は、朝より午後に理由のない言い争いをする可能性が3倍も高いという研究がある。そのような場合には、「糖分」を摂取することが統制力を維持するのに大きく役立つという。
口を開けば失言する政治家は、なぜそうなのだろうか。日本の麻生太郎副総理は「(少子高齢化は女性が)子どもを産まないのが問題だ」「セクハラ罪という罪はない」など数多くの失言を吐きだし、「失言録」があるほどだ。米国のドナルド・トランプ前大統領は麻生氏を凌駕する。二人の共通点は、自分の言葉に非難が浴びせられても、「私が何か間違ったことでも言ったか」と繰り返し述べるという点だ。彼らは、似たような考えを持つ人々の支持を引きだすために、自分の偏見をわざと示しているようだ。したがって、これらは「意図的な失言」に分類する必要がある。
ユン・ソクヨル前検察総長は、大統領選挙に参加してから、不用意な言葉で何回も非難された。「歪曲」「歪曲して伝わった」と対応するところをみると、失言の議論で得るものより損失の方が大きいと判断しているようだ。しかし、よく考えてみると、同じ考えを持つ人々に積極的に共感していることを伝えようとした話が多い。圧迫感に苦しめられたり疲れて口が滑って出た失言(a slip of the tongue)ではない。言葉の戦略をどう修正するのかは分からないが、「飴」で処方するのは難しいようだ。