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[寄稿]バイデン政権の国家安全保障戦略が成功するには

登録:2021-03-16 06:25 修正:2021-03-16 07:13
1日、米国のジョー・バイデン大統領がワシントンのホワイトハウスでメキシコのロペスオブラドール大統領とテレビ電話会談を行う様子を、アントニー・ブリンケン国務長官が見守っている=ワシントン/AP・聯合ニュース

 3日に米国のジョー・バイデン政権が発表した国家安全保障戦略の暫定指針と、同日アントニー・ブリンケン国務長官が提示した8大外交課題は、複雑な思いを浮かばせる。民主主義の再建、同盟の復元、外交への復帰、国際協力の増進など、あらゆる美辞麗句で装われているが、冷徹な現実認識と実行可能な戦略マップが欠けているという印象を受ける。

 何より、米国が行いたいことと可能なことを混同しているようだ。米国の力の源である民主主義的な価値と制度を国内から再建するという構想は必須なことで、米国自らが行えることだ。しかし、様々な超国家的な脅威、中国とロシアが提起する挑戦、イランや北朝鮮問題などをいかに解決するのかについては不確実だ。いくら細かくみても、バイデン政権が提示したソリューションはただ一つだけだ。トランプ前大統領が破壊した「同盟という資産」を活用し、対応するということだ。しかし、北大西洋条約機構(NATO)、オーストラリア、日本、韓国などバイデン政権が名指しした重要な同盟国の利害関係と立場が、米国と一致することはあり得ない。直近でも、バイデン政権が発足した2021年初頭に、欧州連合(EU)は中国と7年も長引いていた投資協定を妥結し、米国の癇に障ったことがある。結局、同盟国の協力なしにはバイデン政権は何もできないということだ。

 民主主義や人権など価値外交を全面に出した点も懸念を生じさせる。米国の力が圧倒的に強い時は、国際社会に公共財を提供し、価値外交が包容的な性格を帯びることもある。しかし、現在のように米国のリーダーシップが弱まった時期には、過度な自己確信と明確な善悪の区分は傲慢な態度に帰結するのが常だ。今は、米国は攻勢的な価値外交を前面に出すより、むしろ現実主義的な認識と実用主義的なアプローチが必要な時期だ。最近の韓国の対北朝鮮ビラ禁止法の採択について米国の官民の一部でみられた傲慢な態度が、朝鮮半島非核化や他の東アジアの懸案で繰り返されるなら、戦略的な競争国とはもちろん、同盟国の間でも破裂音を出す可能性が高い。

 一方、バイデン政権の国家安全保障戦略指針で印象的な点の一つは、対外政策と国内政策の伝統的な区分を捨て、国家安全保障戦略を国内政策と連携した点だ。選挙期間のスローガンだった「中流階級のための外交政策」の延長線上で、対外政策の目標は一部の特権層ではなく中流階級と労働者などすべての米国人の生活の増進だという点を再確認している。他の見方をすればトランピズムの遺産ともいえるが、安全保障戦略を共同体の構成員の生活と連携させようとする試みは、ポピュリズムだと罵倒されることにはなり得ず、健全なものだ。

 私たちも、外交を一部のエリートだけの高次元的で抽象的な領域のアジェンダではなく、国民が共感できる日常的なアジェンダに設定しようとする努力が必要だ。国内政治的な支持を得られない対外政策は、米国でも韓国でも推進動力を得るのは難しい。例えば、韓米同盟の価値を無条件に神聖視するのではなく、国民が実感し共感することを可能にしなければならないのだ。

 現時点では暫定的な骨格だけが提示されたようなので、バイデン政権の新たな国家安全保障戦略が朝鮮半島と東アジアにどう投影されるかは、もう少し時間をおいて見守らなければならないだろう。ただし、同盟という資産が中心的な戦略手段だというならば、バイデン政権は東アジアのリンチピン(核心軸)である韓国の声にもう少し耳を傾けなければならない。

 ひとまず、長期間の対立を引き起こしていた防衛費分担交渉は区切りがついた。しかし、さらに重要なカギは非核化交渉と南北関係の進展だ。韓国は、北朝鮮の核の脅威の最大の利害当事国であり、また、北朝鮮に対する情報が最も豊かな国であり、北朝鮮の行動パターンと意図を最も正確に判断できる国家だ。朝鮮半島問題に関するかぎり、バイデン政権は同盟国である韓国に“アウトソーシング”してもいい。17日に訪韓すブリンケン国務長官とオースティン国防長官が非武装地帯(DMZ)の現場を訪問して朝鮮半島の安全保障の現実を体感し、北朝鮮核問題と南北関係など、少なくとも朝鮮半島の懸案に関するかぎり、同盟国である韓国の声を傾聴することを勧める。

//ハンギョレ新聞社

キム・ソンベ|国家安全保障戦略研究院首席研究委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/986740.html韓国語原文入力:2021-03-15 06:48
訳M.S

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