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[寄稿]“安全-生命国家”の新しい枠組みを

登録:2020-04-21 21:26 修正:2020-04-22 07:22

 韓国の財政規模は過去よりはるかに大きくなり、防疫の成功で韓国の一部産業は大きく成長する可能性が高まった。

 しかも欧州などの福祉国家でも防疫で大きな弱点をあらわした状態であり、市場主義、グローバリゼーション、そして新自由主義そのものが挑戦を受けているので、韓国は特定国家をモデルとするよりは自らモデルを構築しなければならない立場に立たされた。

 個人あるいは国家にとって、機会は自在に訪れはしない。機会は自ら作り出すということではあるが、戦争や災害を契機に運命のように訪れもする。今、韓国は社会経済秩序を再構造化する大きな機会を迎えた。文在寅(ムン・ジェイン)政府の効果的対処、多くの医療関係者とボランティアメンバーの献身の結果だが、新型コロナウイルスを効果的に統制することにより韓国の国家地位が大きく高まった。そのうえ、4・15総選挙で執権与党が180議席を獲得するという驚くべき成果を上げた。今こそ国家の基本方向を新たに設定し、脆弱なセーフティネットと社会政策の枠組みを新しく構築する絶好の機会だ。

 韓国は1987年の民主化直後、そして金大中政府の登場と外国為替危機直後の成長主義・家族福祉社会体制の変化を試みる機会があった。しかし87年の民主化はグローバリゼーションと新自由主義の波に洗われ公共福祉の拡大で難関に直面し、1997年の外国為替危機は財閥依存・労働排除の政治経済秩序の枠組みを再構築できる契機だったが、国際通貨基金(IMF)や国際金融資本の巨大な圧力に対抗して主権国家の政策を構想する余裕がなかった。

 しかし、国家不渡りの巨大な危機の中で、金大中政府が国民基礎生活保障法を作り、4大保険体制を自ら完成したことは高く評価するに値する。民主化以後の初の民主政府なので、その程度の社会政策も可能だった。しかし、そうした政策も、決壊した堤防に突っ張り棒をかます程度の防御的なものであったし、社会崩壊を防ぐための最小限のものだった。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による大災難で、種々のサービス産業が崩壊の危機に陥り、大量失業事態が本格化しつつある今は、外国為替危機当時と状況が非常に似ている。しかし、その時とは違い災難は世界的であるために、輸出の道が詰まり、韓国の力だけでこの経済災難状況を突破することは難しい。しかし、韓国の財政規模は過去よりはるかに大きくなっており、防疫の成功で韓国の一部産業は大きく成長する可能性が高まった。しかも欧州などの福祉国家でも防疫で大きな弱点をあらわした状態であり、市場主義、グローバリゼーション、そして新自由主義そのものが挑戦を受けているので、韓国は特定国家をモデルとするよりは自らモデルを構築しなければならない立場に立たされた。

 大災難はいつも社会の自己反省の機会であり、新たなシステムを構築する良い機会だ。英国は、第2次大戦の砲煙に覆われた時期に国民に最小限の暮らしを保障するという福祉国家のビジョン(ベバリッジ報告書)を打ち立て、米国のルーズベルトも大恐慌と第2次大戦の惨禍で経済が総体的に崩壊した時に福祉体制の枠組みを作った。今の新型コロナ大災難は事実上の戦争だ。数日前の米国内の一日の死亡者数は、イラク戦争での米軍人の死亡者に匹敵するほどであり、引き取り手のない遺体がゴミのように扱われ島に埋められている。今、米国と欧州が反市場、反自由主義的な国家介入政策を相次いで出しても反論できる市場主義者はいない。

 現在の新型コロナによる人為的災難は、人間の無差別的自然破壊に起因しているが、近くは米国の事例が見せるように医療の営利化と公共性の失踪が招いたものだ。もちろんイタリアやフランスの事例に見られるように、社会支出、とりわけ公共医療支出自体が危険に対する安全弁ではなく、医療の公的所有が公共性を保障してくれるものでもない。公共支出において、これらの国に比べてはるかに遅れている韓国が、政府と民間の適切な協力、透明性、信頼、市民参加などの社会的資源を動員して今まで防疫に成功したことは、既存の先進福祉国家に対して根本的な質問を投げかけている。

 政府は今は足元の火を消すために財政支出を拡大し、解雇の防止に最善を尽くさなければならない。しかし、深刻な労働の両極化と不安定労働者層、先日のコールセンターの事例で見たように距離を置くこと(ソーシャル・ディスタンシング)が不可能な大量の労働者層、過度な特殊雇用職労働者と零細自営業者など、韓国社会内部の構造的恥部はまもなく爆弾となってさく烈するだろう。それでも付け焼刃的な処方に留まっていてはならず、こうした“問題”を基盤に大きな家を作るための“構想”を立てなければならない。

 組織労働と進歩政党の力が微々たる韓国が、一日で先進福祉国家になることは難しいが、今の国内外の良い環境は大きな政治資本だ。政府は都市中産層を念頭に置き、教育投資・不動産投資・家族福祉の道を誘導してきた開発主義時代の政策路線を捨て、自発的連帯、市民参加の民主的公共性の自治を広めるべきで、労働親和的な公共福祉を構築しなければならない。“安全-生命国家”が21世紀の先進国だ。

//ハンギョレ新聞社
キム・ドンチュン聖公会大学NGO大学院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/941430.html韓国語原文入力:2020-04-21 19:10
訳J.S

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