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南北、中、日「新型コロナで同病相憐む」べき、北東アジアの新安保協力で

登録:2020-03-10 02:04 修正:2020-03-10 07:37

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が新型コロナウイルス(COVID-19)事態について親書をやり取りしたことで、南北による保健分野での協力の可能性に対する期待が高まっている。南北保健協力が具体化されれば、これを発展させた、南・北・中・日の4者が検疫や防疫の分野で力を合わせる北東アジア保健医療協力体系構想も可能性が見えてくる。北朝鮮の軍事的脅威に偏った伝統的な安保概念を乗り越え、感染症などを含む新たな安保概念が力を得るなど、安保認識も大きく変わりつつある。

 韓国政府は南北首脳の親書交換後、南北保健協力などの後続措置の可能性については慎重な態度を示した。統一部のチョ・へシル副報道官は6日の定例ブリーフィングで「様々な後続措置を準備するというより、COVID-19の状況や朝鮮半島情勢などの諸条件を総合的に考慮しつつ判断していくこととしたい」と述べた。北朝鮮支援を行う民間の諸団体も、先月初めに北朝鮮に対しCOVID-19について防疫協力の意思を伝えたが、反応がなかったという。

 国全体がCOVID-19と死闘を繰り広げている状況のため、すぐに南北保健協力を行うのは難しい。中国にマスクを援助したことで巻き起こった議論を考えれば、直ちに北朝鮮にマスクや診断キット、移動式陰圧病室などの医療物資を送ることは容易ではない。最近「北朝鮮にマスクを送った」というフェイクニュースが出回り、政府は「事実ではない」と釈明に追われている。

統一部のホームページに掲載されている「政府は今般の新型コロナに関して北朝鮮にマスクを援助した事実はありません」と書かれたカードニュース//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮はCOVID-19の拡散を防止するため、国境を閉じて国家非常事態を宣言し、総力を傾けている。北朝鮮は、公式にはまだCOVID-19の感染者は出ていないと発表しているが、真相はわからない。

 専門家たちの分析も食い違っている。本当にまだ感染者がいない可能性もある。専門家は、迅速な国境封鎖、予防医学を重視する社会主義医療の特性、地域間の移動規制が容易な北朝鮮の社会構造が、防疫と予防に有利だと説明する。一方、すでに感染者が発生しているという推定も軽視できない。北朝鮮経済が中国に多くを依存しているため完璧な朝中国境の封鎖が難しく、検査設備や診断キットなどが大幅に不足していて北朝鮮がCOVID-19検査をきちんと行えていないと見ているためだ。

北朝鮮の金正恩国務委員長が軍の合同攻撃訓練の様子を見守っている。朝鮮中央通信の先月28日の報道による。北朝鮮軍の兵士はみなマスクをしている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 COVID-19事態は中国への依存度が高い北朝鮮経済に深刻な打撃を与えている。中国とロシアの国境遮断が、北朝鮮が明言した「新しい道」の核心である朝中、朝ロ協力にも大きな障害となっている。北朝鮮はCOVID-19を「国家存亡の重大な政治問題」と規定した。こうした対応は「北朝鮮の保健医療がずさんなせい」とけなすべきことではない。

 米国ワシントンの民間団体「米国進歩センター」のマイケル・フックス先任研究員らは、6日に同センターのホームページに掲載した文章で、COVID-19が▽アジア域内の緊張▽外交、軍事準備態勢▽各国政府の安定性に大きな影響を及ぼすだろうと分析した。最近、韓国、中国、日本では、COVID-19への対応をめぐる混乱で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領、習近平主席、安倍晋三首相のリーダーシップが揺らいでいる。

 COVID-19事態により、感染症が安保上の現実的な脅威として急浮上している。軍そのものの直近の隔離者は8270人あまりにのぼる。国軍1個師団に迫る規模の兵力が動けない状態だ。在韓米軍も基地封鎖で対応している。チョン・ギョンドゥ国防部長官は先月28日、緊急主要指揮官会議を開き、「現時点を戦時に準ずるものと考え、あらゆる資源を投入せよ」と指示した。先月24日から軍は屋外訓練をすべて中止しており、今月から行われる予定だった韓米合同訓練も事実上取り消された。

COVID-19防疫に乗り出した首都防衛司令部の消毒車両がソウル市内の道路を消毒している。国防部はCOVID-19を「戦時に準じた状況」と見て、可能な限りのあらゆる資源を投入して対応している//ハンギョレ新聞社

 国際社会は、感染症や気候変動などを新たな安保(新安保)上の脅威と規定し、対策作りを求めてきた。新安保とは、軍事的脅威という従来の伝統的安保概念と区別するために作られた概念だ。

 新型インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)などの新たな感染症が登場したことを受け、米国など多くの国では、感染症を単なる公衆保健上の問題としてではなく、新たな安保上の脅威と認識している。公衆保健と国家安保を統合した「保健安保」という用語が登場している。

 米国は2014年のエボラ事態では、ホワイトハウスの国家安保会議(NSC)で常設の国際保健安保チームを稼働した。2014年12月、国際社会はSARS、エボラなどの新型感染症が各国の社会の安全、安保問題に直結するという認識を共有し、世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)という国際協力体系を作った。ここには米国主導で28の国、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、世界動物保健機関(OIE)などの保健国際機関が参加している。

 伝統的な安保と新安保では、概念と対処方法に大きな違いがある。伝統的な安保は、脅威となる外部勢力を敵と考える「対決と葛藤の構造」に基づいている。伝統的な安保は国内で十分に備え、国境の外から加えられる軍事的脅威に立ち向かう。

 これとは違い、新安保の脅威は国境を越えてくる。COVID-19事態で示された通り、ウイルスは国籍や国境を問わない。新安保の脅威に対処するには国家間の協力が必要であり「協力と共生の構造」から出発しなければならない。

 専門家は、南、北、中、日の北東アジアレベルでの感染症共同対応策についての論議を提案する。統一保健医療学会のキム・シンゴン理事長(高麗大学安岩病院内分泌内科)は今月2日、高麗大医療院が公開した映像の中で、南北はコロナ危機を共同の利益と共同の危険を管理していくための機会とすべきだと主張した。「朝鮮半島という、22万平方キロという非常に狭い土地において、その半分が健康でないともう一方も健康にはなれない。南北が膝を突き合わせて、危険な状況と災害を共同管理するシステムとルートを作らなければならない。それが結局は、南北の生命を生かすことになる」。キム・シンゴン理事長は、東西ドイツが統一前に保健医療協定などを結んで公式のシステムを作ったケースを例に挙げている。

 統一研究院長を務めたクァク・テファン米イースタンケンタッキー大学名誉教授は、最近のメディアへの寄稿で、米、中、日、南、北の5カ国が参加する「COVID-19北東アジア地域協力国際会議」を韓国政府の主導で開くことを提案した。COVID-19防疫の国際協力を機に南北、朝米、米中、韓中、韓日の信頼関係が構築されれば、究極的には朝鮮半島の平和-非核化プロセスも進展するだろうとの期待を示した。

 開城(ケソン)工業地区支援財団のキム・ジンヒャン理事長は最近、COVID-19の防疫物資を開城工業団地で生産しようと提案した。キム・ジンヒャン理事長は「世界各国がマスク、防護服などが足りず困っている。開城工業団地でマスクメーカー(約50社)と衛生防護服を大量生産できる縫製業者(64社)を稼動すれば、国内需要だけでなく、世界需要までまかなえる」と主張する。キム理事長は、COVID-19の国際的な拡散状況を考えると、国連安保理制裁委員会などで国際社会を説得して「開城工団の稼動による防疫物資の生産」が可能と予想している。

ハンギョレ平和研究所所長 クォン・ヒョクチョル

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/931720.html韓国語原文入力:2020-03-09 10:40
訳D.K

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