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[対談]強制動員の遺骨発掘、40年にわたり韓日市民社会が取り組んできた理由

登録:2019-12-14 03:14 修正:2019-12-14 07:26
行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団は12日午後、ソウルの貞洞1928アートセンターで、社団法人「平和の踏み石」と共催で『日帝強制動員犠牲の記憶と追悼そして帰還の意義』と題した文化行事を開いた=キム・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 日本による強制動員被害者の遺骨を発掘し返還する事業は、韓日政府の徹底した無関心の中、両国の宗教・市民社会の努力によって40年にわたり続いている。その中心には北海道にある「一乗寺」の住職、殿平善彦さん(73)とチョン・ビョンホ漢陽大学文化人類学科教授(「平和の踏み石」理事長)がいる。彼らは2015年に朝鮮人の遺骨115柱を奉じて、「北海道→東京→京都→広島→下関」を経て韓国釜山(プサン)に到着した。朝鮮人労働者たちが釜山から関釜連絡船に乗って北海道まで連行された航路を逆にたどり、70年ぶりに故国に「帰郷」したのだった。

 行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団は12日午後、ソウルの貞洞(チョンドン)1928アートセンターで、社団法人「平和の踏み石」と共催で『日帝強制動員犠牲の記憶と追悼そして帰還の意義』をテーマに文化行事を開いた。この日、殿平さんとチョン教授は、強制動員被害者の遺骨発掘と奉還事業に込められた意味などについて対談を行った。東アジア学の権威で国際的な市民運動家のマーク・セルダン米コーネル大学教授も参加した。彼らは、日本政府と企業が強制動員被害者問題を解決するよう圧力をかけるために、国際的に連帯すべきと述べた。韓国政府も1965年の韓日請求権協定、2015年の慰安婦合意などを通じて歴史問題を隠ぺいしてきた共犯者という批判も出た。

強制動員被害者の遺骨発掘、なぜ始めたのか?

殿平:私が強制動員被害者の遺骨問題に初めて接したのは40年前だ。1976年に北海道でも奥地とされる朱鞠内ダムの工事現場近くにある寺で朝鮮人の位牌を見た。今日も持ってきている。ファン・ビョンマン、昭和18年(1943年)9月10日と書かれている。ファンさんがダム工事の過程で死亡したという位牌だった。寺で他の位牌も見つけた。この人たちはどこから来たのか、どうしてこうなったのかと思った。この人たちは山の中に埋葬されていた。このままではいけないと思い、遺骨発掘などの作業を始めた。

チョン・ビョンホ:1989年の秋だった。日本の保育所の調査など、米国の大学の学位論文のために北海道を訪れた。田舎の小さなお寺で保育園を経営している住職に会った。その方が殿平さんだ。いろんな話をしていたら、山奥のダム工事現場に強制的に連れてこられた朝鮮人が多く犠牲になったという事実を聞いた。10年前から茂みに埋められていた遺骨を探して、仏式で火葬して回収していると。「犠牲になった方々の遺族を訪ねて遺骨を届けたい」と言う。殿平さんと朝鮮人が埋葬されているという森に行ったが、墓地には見えなかった。そのまま放置されている状態だった。10年にわたり、犠牲になった人たちを慰めてきたという住職を見て感動した。ただ学者としては、住職の遺骨発掘のやり方にもどかしさもあった。真心を込めて祭祀をやってはいたが、遺骨が語る多くのことをくみ取れてはいなかったからだ。何歳なのか、どのように怪我をしたのか、科学的に発掘すれば分かる情報だった。米国で学業を終えて韓国に戻り、教授になったら学生たちとまた来ると住職と約束をした。10年後の1997年7月に専門家、大学生、ボランティアの活動家と共に住職を訪ねた。その時から20年にわたって、夏と冬に韓日でワークショップを開催し、遺骨発掘、遺族調査、歴史現場の探訪などを行っている。

殿平:1982年に韓国に初めて行った。慶尚道、忠清道を回って直接遺族を訪ね歩いた。遺骨を返せば遺族は喜ぶだろうと思った。しかし、最初は遺族が私を見るとすごく怒った。「うちの父、祖父を連れて行って何の補償もせず、謝罪もせず、何を考えて来たのか」という。当時、衝撃が大きかった。私たちは彼らの恨みと怒りを全く知らなかったと思った。安倍首相は1965年の韓日請求権協定で、強制動員などのすべての問題は解決されたという。しかし、私が出会った韓国人たちの現実は何も解決していなかった。

2015年、釜山東区の釜山国際旅客ターミナル。北海道での強制労働の犠牲者の遺骨が70年ぶりに帰還し、入国ロビーに入場する様子=釜山/キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

反人道的犯罪、権力当局者の合意で覆い隠すことできぬ

マーク・セルダン:日本軍慰安婦と強制動員被害者は、歴史で最も重要な問題だ。2つのことを話したい。ひとつは、遺骨発掘、奉還事業は韓日民衆が連帯し、平和を模索する草の根運動だということ。しかし、日本政府は変わっていない。下からの変化が可能なのか知りたい。もう一つは国際性だ。慰安婦、強制動員は、韓日だけの問題ではない。強制労働だけを見ても、中国や台湾などを含めた国際的な連帯が可能だ。

殿平:強制動員の被害者に対しては日本政府と企業に責任がある。彼らがやらなければ根本的な解決は難しい。日本の市民が安倍政権に対して、この問題を解決するよう要求する責任がある。しかし、市民領域でできることをしていくことも重要だ。深い謝罪の気持ちで遺骨を返すことで、深い謝罪と和解、心と心を結びつけることは私たちがしなければならない。国益を考える政府、利益を考える企業は容易ではないだろう。韓国がうらやましい。私たちは100万人でデモをするのは不可能だ。私たちがどこまでできるか分からないが、頑張りたい。

チョン:遺骨発掘事業で最も重要なのは、人と人との出会いだ。韓日の若者が多く参加した。韓日の大学生が交流を通じて忘れていた歴史問題を振り返り、理解し、解決しようと努力した。延べ人数1500人あまりで20年だ。その学生たちが成長して自分の役目を果たしている。また、セルダン教授が指摘したように、国際的な問題へと広げることが重要だと思う。日本はアジアの人々が問題を指摘すると非難と受け止める。西欧と国際社会が声をあげれば批判と考え、重く受け止める。アジアに対する強制労働、反人道的行為は、戦後裁判などで十分に問われず、国際社会も無視してきた。私たちも、慰安婦、強制動員被害者などを韓日の問題に狭めず、人類普遍の問題と認識しなければならない。他のアジア被害国家と手を結ばなければならない。

セルダン:韓日市民社会の連帯も重要だが、政府と企業の責任も明確に問わなければならない。謝罪し、賠償・補償しなければならない。このような原則を守ってはじめて、解決策に近づくことができる。

チョン:日本政府の責任ばかりを問うているが、韓国政府もそこから自由ではない。1965年の韓日請求権協定などは全国民が反対したのに推し進めた。強制労働の犠牲者も生きていた戦後20年後のその当時、きちっと真相究明が行われていれば、負傷した人は治療も受けることができたはず。しかし、協定によってすべてが覆い隠された。韓国政府も強制動員問題を隠蔽した共犯者だと思う。反省しないから2015年の慰安婦合意にまで至ったのだ。強制動員の加害者は日本なのに、被害者である韓国が守勢に追い込まれるような状況まで作っている。しかし、責任を負う人は誰もいない。問題の原因を作って70年以上続いている歴史的責任は、両国政府が負わなければならない。国際的連帯を通じて、反人道的犯罪は権力当局者同士の合意では覆い隠すことはできないということを知らしめねばならない。アジア市民が戦争犯罪を審判する市民法廷を作ることを提案する。

殿平:強制動員の被害者に対する基本的な責任は、日本政府と日本国民にある。歴史的責任についてもっと深く自覚しなければならないと思うが、申し訳ないことに日本国民の中で共有されていない。さらに努力する。国連などで国際的な問題に広げようということに共感する。

「北海道の強制動員犠牲者を追悼する展示館を再建しよう」

 「韓国の市民社会にも参加をお願いしたい。強制労働関連の唯一の資料館である『笹の墓標展示館』を守っていくことを決心した。再建のために募金を行っている」。対談を行った殿平さんが最後に強調した。展示館に何が起こったのだろうか。

 殿平さんが語った「笹の墓標展示館」は、北海道の朱鞠内ダムのそばにある建物だ。「笹で覆われた墓」という意味を持つここは、最初は「光顕寺」という寺だった。強制動員の労働者が亡くなると、葬儀を行う前にここに遺体を安置したという。今は展示館に変わり、朱鞠内での強制動員の犠牲者に関するさまざまな資料と位牌がある。戦争が続いていた1930年代末から1940年代初め、朱鞠内では鉄道と水力発電ダムを作る土木工事があった。朝鮮、中国から連れてこられた労働者が劣悪な環境で厳しい労働に苦しみ、寒さや栄養不足などで死んでいった。光顕寺は、彼らの無念の魂を慰めた唯一の場所でもあった。

 展示館は1997年から毎年韓国や日本などの青年たちが集い、遺骨発掘や討論を行っている「東アジアの平和のための共同ワークショップ」を開く場所でもある。北海道の強制動員被害者の遺骨発掘・奉還の象徴のような場所だ。その展示館が、今年初めの大雪で傾いた。

 「朱鞠内は日本で最も雪が降る地域だ。雪が非常に重くて展示館が少し傾いた。あきらめようとも考えたが、多くの人があきらめるなと言った」。殿平さんは展示館再建のために奔走している。殿平さんは「この寺を再建すれば、長年にわたって築いてきた関係を断ち切ることなく、さらに育んでいけると思う」と語った。今年8月にはNHKで展示館の危機が報道されてもいる。

キム・ソヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/920768.html韓国語原文入力:2019-12-13 15:50
訳D.K

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