数日前、中国のポータルで「慈光閣 廃食用油」がリアルタイム検索ランキングで上位に掲載された。「慈光閣というのはレストランか?この店は大変なことになったな」と思ったが、違った。元々は宮殿の一部であり、今は首相が専用に使う接見場所だという。そのような高級な施設で廃食用油?
わけがわからずもっと調べてみたところ、その慈光閣ではないという。中国共産党国家機関工作委員会が発行している雑誌、つまり官営メディアの名前だ。謎はいっそう深まる。官営メディアの雑誌『慈光閣』がどうして廃食用油を使ったと悪口を言われるようになったのか。
あえて言えば先に挑発したのは『慈光閣』側だ。4日、同メディアのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)微博(Weibo)アカウントは昨年、「ラップ・オブ・チャイナ」の優勝者で人気を集めているピージー・ワン(PG One)を相手に批判的な文を掲載した。彼の歌の一曲が、青少年の麻薬の使用をあおり女性を卑下するという指摘があるので公人として法を守る責任ある態度を示せという内容だった。『慈光閣』の後を継いで『新華網』、『中国婦女報』、『法制日報』などの官営メディアの微博のアカウントが批判に賛同した。
ピージー・ワン自らが何らかの反応を示したのではなかった。だが、彼のファンが興奮した。一部のファンはグループチャットで対策会議を行った。
「慈光閣?フランチャイズの食堂のようだけど? 私の故郷の家の近くに一軒あったようだ。とても有名だ」
「それを聞くと私も見たかもしれない。この町にもある」
「衛生問題を告発しよう。ゴキブリを数匹を放って」
「食堂の暗黒歴史を集めて各種掲示板にあげることにしよう」
「さっき検索ランキング操作の企業数カ所に連絡して、明日の午後3時ごろに『慈光閣 廃食用油』検索語をあげることにしました。皆さんも参加してください」
そうして『慈光閣 廃食用油』は7日、リアルタイム検索ランキングで上位に上がることになり、多くの人々は当惑した。話がさらに面白くなったのはここからだ。この日の夜、『慈光閣』の微博アカウントがユーモアを交え再び登場した。
「慈光閣廃食用油が検索語の上位に入ったって? こういう否定的な世論はどうすればいいでしょうか。 全部消してしまいましょうか。批判がもっと激しくなったら?見なかったふりをしましょうか。それでは黙認することになるでしょう?私は下の階のレストラン慈光閣に隠れてぶるぶる震えています」。そして、可愛いパンダが手足を集めて座りうなだれている写真を掲載した。
『新華網』アカウントが自分を「新華少与管」と名乗り、口をはさんだ。「胸が痛む!百年店舗の慈光閣がまさか廃食用油を使ったとは!大きな店が人をだまして法は眼中にもない典型的な姿だ」。とうとう北京市公安局の微博アカウントである「平安北京」も一言加えた。「北京市公安局環境・食品・薬品・旅行安全総代は食薬品と関連して法を破った犯罪行為を許しません」
その後、これ以上このことが話題に上らないのを見ると、ヒップホップ歌手の歌の歌詞の議論はこっけいに締めくくられるムードだ。偶然にも実際の名前が『慈光閣』であるホテルやレストランは、ちょっと濡れ衣を着せられるはめになったが。
目立ったのは、官営メディアが珍しく見せた軽快な態度だった。官営メディアは「党のメディアは党の集合的な宣伝者、扇動者、組織者である。党の路線と方針と政策を正確に宣伝しなければならない」という命題のもと、主に厳粛で重いイメージで刻まれてきたからだ。
インターネットとSNSに進出し、読者とのコミュニケーションに取り組むようすから、中国官営メディアの変化の可能性も考えるようになる。このように胎動したさまざまな形態が、さまざまな声につながる可能性もあるだろうか。当局の言論統制の技術の発展と官営メディアの変化はどっちが早いだろうか。中国社会の変化を判断する新たなものさしが登場する風景だ。