昨年春、ソウル市内デパートの免税店で店舗管理者として働いていた40代前半のパク・インジャ氏(仮名)は、ある顧客とのトラブルを経験した。顧客が化粧品を買っては返品することを繰り返しているうち、再購入ができなくなると、ひどい言葉づかいや罵声を浴びせ、販売台の広告板を蹴って売り場の物品が壊れたこともあった。その顧客は、数日間ずっと店を訪れたり電話をかけたりしてパク氏を呼び出してきたが、上司はパク氏にその顧客の応対を任せ続けた。ついにパク氏は、他の人に会うと深刻な不安を感じるなど、パニック障害を経験した。勤労福祉公団は「業務上のストレスによる一時的な不安障害」という医師の診断書をもとに、パク氏が申請した労働災害(労災)を認め、2カ月間の療養を承認した。
パク氏のように、働く過程で「感情労働」に悩まされたり、暴言・ストレスによるうつ病、パニック障害などの精神疾患が、労災として認められる割合が最近大きく増えたことが分かった。シム・サンジョン正義党議員が勤労福祉公団から提出してもらって22日に公開した「精神疾患労災申請と判定件数」資料によると、様々な精神疾患を理由に労災を申請した労働者は、2010年89人から昨年137人に増え、これが認められる比率も23.6%(21人)から34.3%(47人)に増加した。(表参照)
産業構造の高度化に伴い、サービス業の比重が徐々に高まる傾向と関連して、物理的な被害だけでなく、精神疾患も働く過程で生じる可能性があるという認識が広がったことによる変化だ。最近は、職場内のセクハラ被害者やお客様の暴言・暴行被害を受けた労働者に対し、使用者の不適切な対応によってうつ病が発症した場合なども、労災として認められる傾向にある。
しかし、外国に比べ、精神疾患を理由に労災を申請したり、認められる人がまだ少数にとどまっているというのが、専門家たちの指摘だ。労働環境と健康関連の社会団体である「仕事と健康」のハン・イニム事務局長は「日本は韓国より労働者数は2倍多いが、精神疾患に関連する労災申請件数は25倍に達する」とし「労働者が、仕事が原因で落ち込んでたり、不安を感じているのに、労災かどうかわからない場合や、精神科的問題は隠そうとする韓国社会の特性が、(労災申請を躊躇する)背景にあると思われる」と指摘した。
精神疾患の予防対策を強化する一方、精神疾患は労災と認められるのが困難な国内の制度を改善しなければならないという声も高まっている。シム・サンジョン議員は「まだ仕事上の精神疾患を事前に予防し、発症した場合、加害者を処罰するようにする方法が用意されていない」とし「業務上の精神的なストレスが原因となって発生した病気も労災として認められるように、具体化した法律改正案を真剣に検討しなければならない」と語った。
韓国語原文入力: 2015-04-22 20:51