原文入力:2011/09/16 09:45(4345字)
イ・ジョングク記者
感情労働者の涙
←イラストレーション/ユ・アヨン
あなたのご両親が亡くなっても笑わなければならないとしたら?
一般人としては想像だに難しいことだ。だが、こういう状況に置かれている人々がいる。ほかならぬ‘感情労働者’だ。 ‘感情労働’(emotional labor)という単語は米国の社会学者 ラッセル ホックシールドが著書<管理される心:人間感情の商品>で書き初めて世間に知られた。感情労働は本来の感情は隠し職業上他の表情と身振りをしなければならない状況を称する。 美容業、コールセンター、販売職、カジノ ディーラー、スチュワーデスなどがこれに該当する。 韓国ではまだ統計上‘感情労働者’の項目が別になく、販売・サービス職従事者統計を根拠に630万人余りの感情労働者がいると推定している。
ちょっと見には感情労働者は華麗に見える。労働をする場所がホテル、デパート、カジノのような消費の上層を占める空間であるためだ。 だが、こういう華麗さの裏面に‘蝕まれた心’が存在するということが専門家たちの指摘だ。
今回の‘低い声’ではカジノ ディーラー、デパート販売職に従事する女性感情労働者の声を聞いてみた。 彼らは "中が腐る一歩手前" とし鬱憤を晴らした。以下の記事はインタビューを土台に独白再構成されたものだ。名前は全て仮名だ。
#特級ホテル カジノディーラー キム・ジョンミン氏
こんにちは。 私はソウルにある特級ホテルのカジノでディーラーとして仕事をしているキム・ジョンミンといいます。 年齢は28才で経歴5年目です。 初めて入社した時は私の特技である中国語を思う存分活用できるという夢を膨らませていました。しかし、教育を受けた時から何か変でした。基礎的なディーラー技術を習ってからは継続的に‘忍耐’教育を受けました。 会社では "無条件に我慢しろ" とばかり言いました。"カジノという所はお金を得る人より失う人々が多いので、顧客が怒るのは当然だ" と言いながらです。教育を終えて現場に投入されると、なぜこらえなければならないのか実感できました。悪口くらいは基本ですよ。お金を失った顧客がテーブルを叩き、ののしり、乱暴を働いてもじっとしているほかはありませんでした。そのように教育を受けたからです。 韓国のお金で最大8千万ウォンまでベッティングが可能ないわゆる‘大口’顧客たちにはより一層気を遣わざるを得ません。実際ディーラーに何の罪がありますか。自分たちが失敗してお金を失ったのに、なぜ私たちが災いをみな受けなければならないのですか。
"お金を失い、なぜ八つ当たりするの
灰皿投げるのは止めてください
各種疾病にうつ病まで…
あと5年やったら辞めます"
私たちはタバコの煙にも無防備に露出しています。勤務が終われば喉に痰がいっぱいです。賭博する人々はなぜタバコをあんなにたくさん吸うんでしょうか。自然にテーブル上の灰皿も多くならざるをえません。ところで灰皿が最近、陶磁器からプラスチック製に変わりました。お客さんが腹が立てば投げるからです。よく知っている後輩はお客さんの投げた灰皿に当たって病院で治療を受けたこともあります。本当に生命の脅威を感じる程度まで達して初めてプラスチック灰皿に変えたんですよ。
顧客たちの暴力はそれでも耐えることができます。あまりにひどければ保安要員が制止したりするからです。でも、外国人が自分たちの言語でするセクハラは本当に我慢できません。私たちが聞き取れないだろうと思って、あらゆるわい談をならべます。私たちはみな分かっていますね。 ほとんど全員が外国語を特技として選ばれた人々なのに、それが分からないと思いますか? ア、考えただけで怒りがこみあげてきます。
勤務環境も劣悪です。朝6時~午後2時、午後2時~夜10時、夜10時~朝6時、このように3交代で回ります。一回時間が指定されれば2ヶ月連続で勤めます。深夜班になれば2ヶ月間 何をして暮らすのか、ぼんやりしています。一日8時間勤務で良いですって? 中間に昼休みもありません。ご飯を10分で食べなければなりません。そのためかディーラーたちの大部分が神経性胃腸病を持っています。ここに一日中立っていると首・腰・膝が全て良くありません。太陽の光を見られずに屋内生活だけする結果、うつ病症状も出てきます。精神科診療を受けている同僚も多いのです。私も3年目になって、からだが壊れていくのが感じられましたよ。 風邪を引くとなかなか治りません。名節ですって? 外国人対象カジノなので国内の名節とは関係ありません。ストレス解消はどのようにするかですか? 大部分は‘お酒’です。不規則な勤務時間のせいで友人たちと会うことも難しく、仕事を終えて同僚たちとお酒を飲むのがストレス解消の全てです。からだはもっと壊れることですね。本当に、私はぴったり5年だけ働いて辞めます。ぴったり5年だけ。
←デパートが‘顧客便宜’を前面に出すほどデパート労働者の労働強度は強くなる。‘華麗さの象徴’であるデパートを注意深く覗いて見れば感情労働に苦しめられ、満足な休憩室一つとしてない労働環境で仕事をする労働者が見える。 <ハンギョレ21>ユン・ウンシク記者
#デパート 有名ブランド化粧品売場職員 イ・ミョンジン氏
私はイ・ミョンジンといいます。今年35才です。ある外国有名化粧品ブランドの販売社員としてデパートを巡りながら通って17年間勤めました。元々は陸軍士官学校に行きたいと思っていた気の強い女子高生でした。高等学校を卒業する頃に父が倒れました。 やむを得ず生計のために飛び込みました。先生の紹介で国内化粧品ブランドのデパート販売員として就職しました。私が熱心に働いたようです。およそ2年ほど仕事をしたところ、外国ブランドからスカウト提案がきました。その時から今までこちらで仕事をしています。17年間どうだったかって? 私の中がみな腐っちゃいましたよ。こちらの平均勤務期間が3~5年にしかならないのです。みな出て行きます。 私のように10年を越す長期勤務者と新入社員だけがいる計算です。中間がいないのです。
“パンフレットを引き裂いて顔に投げ付け
トラブルが起きたと言って喉首つかまえ
土下座して謝れとまで…
家族だと考えてみて下さい”
そのはずです。 私もこれまで何度も泣き喚いて辞めようとしましたよ。でも生きていくことがそんなにたやすいものではありません。そうするうちに17年が流れましたね。 私たちは一日に12時間程度 勤めます。デパートのドアが開く前から 閉じて整理する時間まで合わせればその程度になります。日曜祝日? エイ、そんなものがあるわけないでしょう。日曜祝日がデパートの稼ぎどきでしょう。週5日制? それはどこの国の制度でしょうか? 有名ブランド化粧品だから給与も高いかですって? 私たちは給与の30~40%がインセンティブです。化粧品をたくさん売ったか、売れないかによって給与が決まります。販売が低調な月は給与が少ないだけでなく、デパートから担当職員の交替要求までしてきます。毎月実績が出てくる度にビクビクですね。
私は他の感情労働者たちも尊重します。でも、デパート化粧品売場の職員たちほど哀歓がある感情労働者もないようです。他のショッピングとは違って、化粧品を買いに来られる顧客はとても鋭敏になっています。大部分が皮膚トラブルのために苦労されたり、老化現象によるシワのために機嫌を損ねた女性の方が多いのです。こうした方々を対象に化粧品を売らなければならないため、どんなに苦労するでしょうか。
デパート売り場はサンプル贈呈行事をたくさんします。パンフレットが発送されて当日になれば大騷ぎになります。限定数量なのですぐ品切れになるのは当然ですね。顧客はそのことに抗議します。パンフレットをビリビリに破って顔に投げつけます。紙で頬を打たれる気持ち、わかりますか? それに対して私たちは“申し訳ありません、お客様”と言うほかはありません。本社では‘ミステリーショッパー’(職員親切度を検査するための偽装顧客)をいつも入れてきます。 顧客が入ってきて出て行くまで、マニュアルどおりにしなければ、徹底的にチェックして人事考課に反映させます。だから‘無限服従’するほかはありません。
私は全ての災難に遇いました。暴力団員が恋人にあげる化粧品を買っていってトラブルが出たとして、私の喉首をつかんで引っ張っていったこともあります。あるお客さんは土下座して謝れば許してやると大騒ぎをするなかで、実際にひざまずいたこともありますよ。ア、本当にその時のことを考えただけで涙が出ますね。3年前ぐらいには流産しました。ストレスのためでした。お腹の中で死んだ子供を産婦人科でかき出しました。そして3日後には出勤しました。職員がいないというからどうしようもありません。血を流しながらずっと勤務しました。それに耐えて今はマネジャーになりましたが、マネジャーになると一層顔色を伺うしかなくなりました。‘甲’であるデパートの言いなりになるほかはありません。デパートの化粧品チーム長が突然会食でも招集すれば、すべての化粧品コーナーのマネジャーが一ヶ所に集まります。そこで俗称‘妓生役’をするほかはありません。お酌をして、2次会に行って歌を一緒に歌ってですね。なぜそうすると思いますか? 本社人事評価項目に‘デパートとの関係’という項目があります。簡単に言えば、うまくやれということでしょう。 それでも化粧品チーム会食くらいは理解できます。なぜ私たちと関連もない経理部会食に呼ぶんでしょう? 「今、経理部長がいるので来てください」と電話で言って切るのです。行かないで済むと思いますか? 私が以前に仕事をしたデパートでは、あるチーム長がそのような会食の席でセクハラをして辞表を出したこともあります。
最後に言いたいことがあります。お客さんの皆さん、皆さんが真に尊重されたいならば、デパート職員たちのことも尊重して下さい。自分の家族がそこで仕事をすると考えてみて下さい。心からお願い申し上げます。
イ・ジョングク記者 jglee@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/496316.html 訳J.S