過去10年間に韓国は50カ国以上の国と自由貿易協定(FTA)を結んだ。その結果として暮らし向きは良くなったのか。FTAを締結するほど経済はさらに成長するとした政府。その成長率をすべて合わせたら、今どのくらいになるだろうか。なんと12.3%だ。韓国経済に本当に有益だったのか見直す時期に入っている。
米国、ヨーロッパそして中国のような巨大経済は、自分らを中心にした排他的FTAのブロックを作り、国家の利益を最大化することができる。米国が中国に対抗する環太平洋経済パートナー協定(TPP)を推進する理由でもある。しかし韓国経済は自己中心的な同盟を作るほどの巨大経済ではない。その一方で開放レベルは巨大経済圏より高い。輸入と輸出が総需要(総供給)に占める比率が36.2%(2012年基準)にもなる。その上、韓国ウォンは国際経済で広く通用することもなく、外国為替危機の管理が重要にならざるをえない。このような特性に適合した国際経済秩序は、排他的なFTAでなくすべての国との平等で安定した多者主義だ。
FTAの排他性が韓国経済に不利であることはすでに確認されている。米国と日本が主導するTPPが始まれば、米国は日本産自動車に関税特典を与えるだろう。米国が韓国とのFTAで韓国に付与した特典を日本にも分け与えることになるわけだ。そうなれば政府が韓米FTAで得たと宣伝した特典なるものは消え失せる。
FTAの特典はこのような一時的なものだが、その見返りとして差し出した譲歩は事実上永久に続く。なにより国民の安定した人生と直結する。多国籍の製薬会社が特許訴訟を提起すれば、後発薬品の市販許可を9カ月間自動的に中止する退行的制度を米国から輸入し、今月から施行しなければならないのが、その一つの事例だ。二酸化炭素の排出を抑える小型車に300万ウォン(約33万円)の補助金を与えようとた政策が、韓米FTAのために実現できなくなったのも同じだ。
法治経済の観点からすれば、FTAは民主主義を害すると指摘できる。国会は国民の多様な世論を取りまとめFTAに反映することができない。賛否投票をするだけだ。韓中FTAを見てみよう。中国発の重金属粒子状物質に苦しめられる韓国民の立場から韓中FTAの最も大きな争点は、中国の後れた環境法問題でなければならない。韓米FTAでも分かる通り、環境は国際通商規範の中心的議題だ。中国の微小粒子状物質(PM2.5)に伴う大気環境基準は国際基準の3分の1でしかない。その上、重金属を含む黄砂の原因である石炭と自動車の媒煙基準をまともに執行しない。
中国湖北省地域の鉄鋼企業が韓国に値段の安い形鋼と鉄筋を輸出できるのは、鉄鋼企業に環境基準をまともに適用しないためだ。韓中FTAには中国の重金属黄砂を減らす画期的な内容を含まなければならない。中国産食品に対する食品安全問題も同様だ。しかし、国会にはこうした国民の要求を韓中FTAに反映する方法がない。
中国企業に対し韓国の公共政策を国際仲裁に付託する権利を与える害をもたらす条項も見逃せない。韓中FTAはさらに退歩し、国際仲裁に市民が参加する制度さえない。ローンスターという私企業によって一国の金融政策が国際仲裁に付託され、その訴訟費用で今年まで219億5200万ウォン(約24億円)もの国税を使っているのにだ。韓中FTAは再交渉しなければならない。
FTAの10年の教訓は、安定して平等な多者主義経済秩序が韓国経済に必要だという点に尽きる。その枠組みのなかで国民の働き口を作り出し、所得を上げる韓国型FTAが可能なのか模索しなければならない。韓米FTAと韓中FTAの害をもたらす条項を除去する再協議こそが、韓国型FTAの試金石となる。
韓国語原文入力:2015.03.25 19:09