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イ・ジュンソク候補、彼はなぜ「40代の尹錫悦」になったのか【寄稿】

登録:2025-05-30 10:16 修正:2025-05-31 08:19
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
野党「改革新党」のイ・ジュンソク大統領候補が27日、ソウル市麻浦区上岩洞の文化放送(MBC)のスタジオで開かれた政治分野の大統領選挙テレビ討論会の準備をしている=国会写真記者団//ハンギョレ新聞社

 大統領選の放送討論会をみていた私は、ある場面で、まるで電流に感電したかのような衝撃を受けた。野党「民主労働党」のクォン・ヨングク候補に対して、野党「改革新党」のイ・ジュンソク候補が投げかけた質問、性暴行を暗示する憎悪表現で構成されたその質問は、単なる突発的な言動ではなかった。それは、政治の仮面をかぶった精巧な憎悪の演出であり、大衆の怒りを狙った扇動だった。この場面は、政治がいかにして堕落するのかを赤裸々に示している。性暴行という重大な事案を、それも十分に検証されていない疑惑を公論の場に引き出してきて、相手候補を陰湿に暗示し、クォン・ヨングク候補にエサを投げ、イ・ジェミョン候補を釣ろうという手法は、きわめて「高度な」憎悪の技術だった。ジェンダー対立を刺激して反射利益を得ようとする冷笑的な計算まで読み取れるこの場面からは、「政治はこういうこともできるのか」という嘆きが出てくる。かつては経済民主化を声高に口にして、青年政治の希望のように注目された人物は、まさにその場面一つで、改革保守のアイデンティティを破壊してしまった。さらに驚くべきことは、その後の対応だった。イ・ジュンソク候補は討論直後にソーシャルメディアを通じて、「性的な嫌悪表現に対する基準を問うための質問だった」という詭弁を並べた。討論の場では攻撃し、放送外では弁解した。しかし、この両面的な態度が語るものは明らかだ。イ候補は決してこの問題について省察せず、今後も分裂と左右対立の政治をやめないと宣言したのだ。

 問題は、このような発言が、単なる論議を越えて、司法的判断の領域へ移りかねないことだ。選挙法と刑法の境界線でこの懸案が扱われる可能性があり、捜査機関の法理解釈次第では、イ・ジュンソク候補本人の政治生命にも影響を及ぼす可能性がある。今回の討論でもイ候補は例のごとく、自身の「被害物語」を持ち出した。年齢が若いため、政界で差別されてきたというのだ。しかし、これは事実と違う。イ候補は青年という理由だけで過度な注目を集めてきたし、政治的経験や組織運営能力とは無関係に、巨大政党の代表の座にまで上り詰めた。恩恵を享受しても自身を被害者として装うこの戦略は、政治の病理学的な側面を赤裸々に示している。この時点でわれわれが注目すべきことは、イ候補の年齢ではなくイ候補の態度だ。被害意識を膨らませ、自分の憐憫を政治戦略にして、その感情を正当化するために、他人を引き下ろす政治、それは最終的には、自己破壊に帰結せざるをえない。かつて代表の地位から追い出され、大邱(テグ)のキム グァンソク通りで改革保守を叫んだときには、そのような戦略はある程度は通用したが、いまでは説得力がない。このような戦略は、他でもない尹錫悦(ユン・ソクヨル)の道だ。被害意識が怒りとして爆発した昨年の内乱の夜に、われわれそれをみた。私は、この憎悪発言がただちにイ・ジュンソク候補の支持率下落につながるとは断言しない。むしろ、イ候補は、憎悪と差別の伝染性によって、より多くの支持層を結集する可能性もある。問題はその支持の性格だ。

 現時点でイ・ジュンソク候補を中心に結束する有権者は誰か。女性嫌悪と社会対立を日常の言語のように消費する一部の青年男性中心の勢力であり、極右コミュニティにおけるその歓呼の勢いは、さらに強まっている。イ候補は、その世界の歓呼を政治的正当性と勘違いしている。しかし、私は断固として言う。イ候補はすでに、自身が作った沼にはまり、その歓呼が消える日、イ候補はさらに深い深淵に沈むことになるだろう。クォン・ヨングク候補の言葉を借りるとすれば、「40代尹錫悦」が誕生した瞬間だ。憎悪を政治動力とする極右大衆運動の次の化身が、イ候補なのかもしれない。これは、競争を盲目的に信奉する韓国の教育制度の総体的な失敗を示している。

 しかし、別の流れも確実に存在している。この発言に怒った女性有権者と進歩市民社会が急速に結束しており、放送直後からイ・ジュンソク候補に対する告発と抗議が相次いでいる。弾劾局面で尹錫悦前大統領に向けられた広場の叫びが、今度はイ候補に向かうことになるのかもしれない。その世論は、単なる怒りを越えて、韓国社会の道徳感受性と政治倫理を試している。この事件は、憎悪がいかに危険なのかを、そして、われわれがどのような政治文化を選択すべきなのかを問うている。イ候補は、今後も責任を負うことはないだろう。イ候補はいつも通り、メディアか何かの責任にして歪曲して語り、自分の真意が伝えられなかったと主張するだろう。しかし、イ・ジュンソク候補に改めて問いたい。この破局の政治を本当に望んでいるのか。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1200181.html韓国語原文入力:2025-05-29 19:14
訳M.S