ハン・ドクス大統領権限代行首相が8日、大統領指名枠の憲法裁判官の候補としてイ・ワンギュ法制処長とソウル高裁のハム・サンフン部長判事を奇襲的に指名したことで、権限代行の権限をめぐり法的、政治的に波紋が広がっている。とりわけイ・ワンギュ処長は、検察時代から尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の最側近とされている。尹錫悦を罷免した憲法裁にイ処長を入城させることについては、「内乱の共犯者に対する尹錫悦の遺訓統治」だとの批判が強い。
検察出身のイ・ワンギュ処長は、尹錫悦政権の発足とともに法制処長に任命された。尹前大統領と共に「検察主義者」である同氏は、法制処長任命後、国会などで検察の捜査権の縮小に強く反対する立場を表明してきた。また、国会の推薦した放送通信委員会の常任委員の任命拒否など尹前大統領が下した違憲かつ違法な決定に対して、判断を保留したり合憲的だとする有権解釈をしたりすることで、尹錫悦政権の盾の役割を自任してきた。
イ・ワンギュ処長は、12・3非常戒厳での動きに疑いの目が向けられている。国会による非常戒厳解除決議後、内乱に逆風が吹きはじめた昨年12月4日夕刻、イ・ワンギュ処長と当時のイ・サンミン行政安全部長官、パク・ソンジェ法務部長官、キム・ジュヒョン大統領室民情首席は、それ以前にも戒厳の謀議が複数回行われたソウル三清洞(サムチョンドン)の大統領の安全家屋(秘密維持のために使用する一般家屋)で秘密会合をおこなっている。会合の目的については具体的に明らかにしていないが、違憲かつ違法な戒厳宣布後の法律的対応策を議論した可能性が高い。
またイ・ワンギュ処長は、三清洞の安家会合後、突如として携帯電話を取り換えていたことが明らかになっている。国会で「証拠隠滅を試みたのではないか」と取り換えた理由を問われた際には、「不必要な誤解を受けたくなかった」という理解できない釈明をおこなっている。
昨年12月末、チェ・サンモク副首相が大統領権限代行を務めていた際に、チョン・ゲソン、チョ・ハンチャンの2人の憲法裁判官候補だけを選択的に任命したことに対し、国務会議に同席していたイ・ワンギュ処長が強く反発したことが明らかになってもいる。
政界と法曹界では12・3非常戒厳の前から、尹錫悦大統領は憲法裁判官の候補としてイ・ワンギュ処長を任命するだろうといううわさが流れていた。そのため、イ・ワンギュ処長の憲法裁判官候補への指名は、ハン・ドクス権限代行の独自の判断ではなく、尹錫悦または与党「国民の力」との合意の下で行われた「遺訓統治」の可能性があると、政界ではささやかれている。