講義室はがらんとしていた。5日午前、釜山(プサン)にある仁済大学医学部の建物の廊下では、すぐ隣の釜山ペク病院に業務のため立ち寄った医師や職員だけが時々行き来していた。仁済大学医学部は1月20日、医学科3~4年生の授業を始めたが、この日大学には1年が過ぎても持ち主のいない机と名札のついたロッカーだけが置かれていた。
■学生のいない医学部
「例年なら、この時期は学校が賑わっていたはずです。本科(医学科)の学生たちは病院実習に入る前に予防接種をして確認を受けるために行政室を出入りしたり、一学年に100人程度はいるので、二学年だけだとしても学生たちが200人は行ったり来たりしますから」。この日会った職員は1年以上解決策を見つけられない医療界と政府の対立に「困っている」と語った。
17日の教育部などの説明によると、ほとんどの医学部は臨床実習などを考慮し、本科3~4年生を対象に1月末から2月初めに授業を始める(注:韓国の医学部では入学から2年間を「予科1~2年生」、3~6年間を「本科1~4年生」とする)。2月中旬から末頃に本科1~2年生、早い場合は予科2年生まで授業が始まり、3月には予科1~2年生が始業となる。しかし、今年は40大学の医学部のうち、仁済大学とソウル大学、慶北大学、チャ医科学大学の4校だけが早期に授業を始めており、これらの医学部でも戻ってきた学生は少数で、正常な授業が行われていない。
仁済大学医学部では、休学を続けた場合除籍される可能性のある学生が50人余りに達しており、1月に一部の学生たちが復学の意思を示したが、医師と医学部生のオンラインコミュニティで名簿が共有されたことで、一部の学生が復学をあきらめた。授業に参加している学生は一桁に過ぎない。
5日午後、やっと仁済大学医学部3年の学生たちに会うことができた。討論や実習などのために用意された30余りの小グループ討議室のうち、明かりがついているのは彼らが授業を受けている1室のみだった。小グループの討議室には患者を模擬診察できるベッドと学生たちが討論できる机が6、7台置かれていた。臨床実習に入る前に患者たちとコミュニケーションを取って問題解決能力を育てる、標準化患者を活用した実習授業がちょうと終わったところだった。学生たちはインタビューの要請に難色を示した。それぞれの理由で復帰したが、多くの学生が休学しているなか、意見を言うのが難しいようだった。
最大野党「共に民主党」のコ・ミンジョン議員が公開した資料によると、慶煕大学、延世大学、嶺南大学なども今月中に授業を始める予定だという。しかしこれらの大学も、授業が正常に行われるのは難しい状況であることが分かった。首都圏以外の地域のある医学部の教授は「学生たちが復帰の意思を明らかにしていないため、授業が可能なのかは分からない」と語った。実際、慶尚国立大学の場合、医学部3・4年生の授業を今月17日から始める予定だったが、3月4日に延期した。全体の82.5%である33カ所の医学部は3月に授業を開始することを目指している。
■休学中の医学部生も「途方に暮れる」
一部授業が始まったにもかかわらずがらんとした大学の姿は、本格的に授業が始まる3月以降も変わらない可能性がある。授業開始まで1カ月を切った時点で、医学部生の大半は依然として大学に戻る兆しを見せていない。最近ハンギョレのインタビューに応じた複数の医学部生たちは、復帰するかどうかを悩みながらも、前提条件を掲げた。
医学部生のオンラインコミュニティでは、復学した医学部生に対して「休学闘争」から離脱したとして非難を浴びせる様子がよく見られる。復学を見送った人たちはアルバイトや旅行などでこの1年を過ごしたが、もどかしさを感じると打ち明けた。首都圏以外の地域の私立大学医学部生のAさんは「休学が1年以上続くとは思わなかった」とし、「医療現場が不可逆的に壊れているのに、政府はあまり関心がないようで(もどかしい)」と語った。ソウル大学医学部の学生Bさんも、「対策もなく(休学が)長引くのではないか、途方に暮れている」と話した。首都圏の私立大学医学部生のCさんは、「このような長い闘いがどんな意味があるのか、いつまで続けなければならないのか」と疑問に思っていると語った。
にもかかわらず復学しない理由として、彼らは政府の謝罪がないうえ、必須医療パッケージと医学部定員の増員で始まった医療改革に同意できないという点を挙げた。首都圏以外の地域の私立大学医学部生のDさんは「必須医療を生かすためには、医療伝達体系を変えるなど、患者が地域内で完結した治療を受けられるシステムを作らなければならないのに、政府は現実とかけ離れた診療報酬引き上げ案などを出すだけで、必須医療医師を養成するためのきちんとした案を示さなかった」と指摘した。Bさんは「政府は増員の背景として他のOECD国家と比較して医師数が少ないと主張しているが、医師数が『少ない』のは客観的な問題だが、『足りる』か『足りない』かは主観的領域だと思う。どれだけ必要なのかという価値判断を通じて不足している理由を探さなければならないのに、(政府はそれについて)きちんと説明できていない」とし、「科学の領域を政治の領域で解決しようとした」と指摘した。
■教育部は原則ばかりを強調
1月、教育部は「2026学年度医学部定員原点協議」の立場を明らかにし、2025学年度医学部教育対策も2月初めまでに用意すると発表した。しかし、2月中旬の現在まで対策は示されていない。大学別の状況に合わせた「オーダーメード型対策」を立てるという大きな構想だけで、具体的な内容に関する発表は先送りされている。
ただし、教育部がこれから発表する計画は「復帰」に重きが置かれているものとみられる。授業をさらに先送りすれば、より大きな後遺症が押し寄せかねないという理由からだ。教育部の関係者は「学生たちが(多数の反対を)押し切って復学するのは難しいことは分かっている。しかし、今年は学事日程の柔軟化ガイドラインのようなものがない。2026年度の定員が確定しなくても、学生たちは早く帰ってくるべきだと考えている」と語った。
このような教育部の態度について、首都圏以外の地域の大学医学部の学長は「学校ごとに事情が異なるが、授業が80年代の水準に戻らないようにするためには、従来の教育方式と異なる画期的な方式まで念頭に置かなければならない」とし、「教育部は具体的な代案を提示せず、原則ばかりを強調している」と話した。