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告発教唆事件があらわにした「検察国家」韓国の素顔

登録:2024-02-19 10:05 修正:2024-02-19 10:40
ソン・ハニョン先任記者の「政治舞台裏」 
 
公捜処が起訴したソン・ジュンソン「有罪」 
検察に移牒されたキム・ウン「嫌疑なし」 
目こぼし、隠ぺい…権力独占の弊害 
既得権カルテル、公捜処を揺さぶる
大邱高等検察庁のソン・ジュンソン次長検事(検事長)が1月31日午前、ソウル瑞草区のソウル中央地裁で開かれた「告発教唆」事件の一審で懲役1年を言い渡された後、庁舎を後にしている/聯合ニュース

 「警察国家」という学術用語があります。国が権力を専制的に行使して国民の自由と権利を法的に保障していなかった17~18世紀欧州の絶対王政国家を意味します。今は、警察権を乱用して国民の生活を監視したり統制したりする国、というほどの意味で使われます。

 「検察国家」という用語があるのは韓国だけです。検事が国家権力を事実上掌握しているという意味です。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は元検事で、国民の力のハン・ドンフン非常対策委員長も元検事です。キム・ホンイル放送通信委員長も元検事で、イ・ボッキョン金融監督院長も元検事です。以前は政治家、専門家、経済官僚たちがおこなっていた仕事を元検事たちがしています。

 他国に検察国家という用語がないのはなぜでしょうか。韓国のように元検事が国家権力の要職を一度に掌握するようなことがあまりないからです。他国ではなぜ検事たちに国政を任せないのでしょうか。検事は犯罪の捜査、起訴、刑の執行を担う特定職公務員です。過去を裁断する人です。未来を予測し、国のビジョンを確立し、国政を管理するのがうまいはずがありません。尹大統領に対する職務評価がほぼ底辺水準であるのは単に個人的力量が不足しているからではなく、これまでの人生で検事しかしたことがないために国政には無能にならざるをえないからです。尹大統領の国政の無能さは、彼一人だけの責任ではありません。彼を大統領にした私たち全員の責任です。もしかしたら、私たちは古今東西に類を見ない政治的実験をしているのかもしれません。

不義と無能の「検察国家」

 検察国家は尹錫悦政権の5年で終わるのでしょうか。わかりません。ハン・ドンフン委員長が2027年の大統領選挙で当選すれば、検察国家は10年に延びえます。可能性はあまりない、ですって? クーデターで政権を握った全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)の両大統領が連続当選したという前例があります。

 検察国家が10年間続けば、大韓民国はどうなるのでしょうか。後進国として停滞するでしょう。検察国家は2つの致命的な弊害が免れえません。一つは、先ほどお話しした元検事の国政についての無能さです。もう一つは権力の独占です。万能の権力を掌握した検察は国家システムをまひさせるでしょう。

 先日、一審判決が下されたいわゆる「告発教唆」事件は、検察が権力を独占したらどのようなことが起きるのかを生々しく示した事例です。この事件は高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が捜査して起訴した事件です。公捜処がなかったら、検察が事件を隠ぺいしていたでしょう。

 事件の概要は単純です。2020年4月15日の第21代総選挙の直前にソン・ジュンソン最高検察庁捜査情報政策官(当時)が告発状を作成し、キム・ウン国会議員候補に渡すことにより、国民の力(当時は未来統合党)に告発するようけしかけたというものです。告発状には、尹錫悦検察総長夫妻とハン・ドンフン釜山(プサン)高等検察庁次長検事(元最高検察庁反腐敗強力部長)が名誉毀損の被害者として含まれていました。

 この事件は2021年9月の「ニュースバス」による暴露で世に出ました。捜査に着手した公捜処は、ソン・ジュンソン検事の拘束令状を2度請求しましたが、棄却されました。尹錫悦検察総長とハン・ドンフン検事長、捜査情報政策官室の2人の検事については容疑が見出せず、嫌疑なしとされました。公捜処の捜査意志と力量が弱過ぎたせいです。

 問題は検察でした。公捜処はキム・ウン議員を共犯者と考えていましたが、犯行当時は検事ではなかったため、キム・ウン議員の処理を検察に移牒しました。検察はキム・ウン議員を嫌疑なしとしました。ソン・ジュンソン検事は裁判中であるにもかかわらず、最高検察庁の監察で嫌疑なしとされました。2023年9月には検事長に昇進しています。もし公捜処が存在せず、ソン・ジュンソン検事長に対する捜査を検察が担っていたなら、当然にも嫌疑なしとされたはずです。韓国の検察は「他人より身内を大事にする組織」であり、「自分の家族をかばうことに本気な組織」だからです。ソン・ジュンソン検事長は未来統合党のキム・グァンニム前議員の婿です。公捜処がなかったら、ソン・ジュンソン検事長はいつか検察総長になったか、義父の七光りで政界に進出することもできたでしょう。

保守政党が公捜処に反対する理由

 公捜処は、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2019年12月に国会で「高位公職者犯罪捜査処の設置および運営に関する法律(公捜処法)」が可決されたことで作られた組織です。共に民主党を含む、いわゆる「4+1」が準連動型比例代表制の公職選挙法などと共に迅速処理案件に指定し、かろうじて可決させたものです。

 公捜処は市民社会の宿願でした。1996年に参与連帯が高位公職者不正捜査処の新設を含む腐敗防止法の制定を初めて請願しました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は2002年の大統領選挙で、高級公職者不正捜査処の設置を公約しました。盧武鉉政権は2004年11月、「公職腐敗捜査処の設置に関する法律案」を国会に提出しました。その後も民主党と進歩政党の多くの議員が、国会に同じ法案を粘り強く提出してきました。公捜処設置の最大の大義名分と目的は、検察改革でした。捜査権と起訴権を独占する検察が既得権勢力と癒着した状態では民主主義は根付きえない、という切迫感からのものでした。

 文在寅前大統領も2017年の大統領選挙の直前に『大韓民国が問う』という自著で次のように述べています。

 「現在、検察が持っている捜査権と起訴権を分離し、捜査権は警察へ、起訴権は検察へと分離調整することこそ、最も早く改革できる部分です」

 「それが完全に実現するまでは、高位公職者が捜査を受ける機関が一時的に必要です」

 「高位公職者だけでなく、大統領や大統領の側近をも調査できる独立した高位公職者不正捜査処がなければなりません」

 公捜処はこのように市民社会と民主党、廬武鉉元大統領と文在寅前大統領の念願によって作られた機関です。名前が高位公職者不正捜査処から高位公職者犯罪捜査処に変わったに過ぎません。

 でも、少しおかしくありませんか? 公捜処の導入議論は1996年に始まっています。一体どうしてこんなにも長い時間がかかったのでしょうか。盧武鉉元大統領が法案を提出した2004年11月は、開かれたウリ党が絶対多数の議席を持っていた時期でした。にもかかわらず法案は可決されませんでした。なぜでしょうか。ハンナラ党が反対したからです。ハンナラ党-セヌリ党-自由韓国党-未来統合党と続くいわゆる保守政党は、公捜処の設置に強く反対してきました。2004年の第17代総選挙でハンナラ党は、高位公職者不正調査処の設置を公約しています。しかし、総選挙が終わると態度を180度変えて「高位公職者不正調査処新設推進計画白紙撤回要求決議案」を発議しました。野党弾圧が懸念される、というのが大義名分でした。

 いわゆる保守政党が公捜処の設置に反対した本当の理由は何なのでしょうか。それは、保守既得権勢力と検察カルテルが「グル」だから、というものです。どういう意味か、ですって? 韓国の検察の高位職出身者は、ほとんどが保守既得権勢力の一員です。保守既得権勢力の価値観は「権力と金」です。検察が捜査権と起訴権を握り続けてこそ、検察の高位職出身者は退任後も優遇され、大金を稼ぐことができるのです。公捜処が作られれば、検察の権限が分散されます。これこそ、保守既得権勢力と検察カルテルが公捜処の設置に強く反対する理由です。

 2019年に国会の迅速処理案件に指定された公捜処法に、ファン・ギョアン代表とナ・ギョンウォン院内代表が率いていた自由韓国党があれほど強く反対した理由も、まさにそこにあります。ファン・ギョアン代表は当時の光化門での集会で、公捜処をナチスドイツの秘密警察ゲシュタポに例えて、「絶対に認めてはならない」と述べています。なぜでしょうか。公捜処は保守既得権勢力と検察カルテルの利益を侵害するからです。

パク・ピョンソク国会議長(中央)と共に民主党のパク・ホングン院内代表(左)、国民の力のクォン・ソンドン院内代表が2022年4月22日午後、国会で「検察の捜査-起訴権分離」法案についての国会議長仲裁案に合意後、署名を終えた合意文を掲げている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

尹錫悦、ハン・ドンフンと「告発教唆」の真実

 みなさんは、2022年4月22日に国民の力のクォン・ソンドン院内代表と民主党のパク・ホングン院内代表が、パク・ピョンソク国会議長の仲裁で検察改革案に合意したことを覚えていますか。尹錫悦当選者時代です。合意案の骨子は、検察の直接捜査権と起訴権は分離するものの、直接捜査権も重大犯罪捜査庁の発足までは一時的に維持する、というものでした。

 尹当選者は事前に報告を受けていました。合意案を受け入れたのです。国民の力の議員総会もこれを追認しました。しかし、前現職の検事たちと保守メディアが強く反発すると、尹当選者はこっそりと立場を変えました。イ・ジュンソク代表とハン・ドンフン法務部長官候補を前面に押し立て、国民の力の議員総会の結論をひっくり返してしまったのです。保守既得権勢力と検察カルテルは、大統領当選者や与党の院内代表よりもはるかに強い力を持っていたのです。

次期公捜処長選びの過程で公捜処長職務代行が辞意を示したことを伝える2024年2月13日付ハンギョレ//ハンギョレ新聞社

 このところ次期公捜処長候補の選定をめぐって繰り広げられている騒動も同様です。「公捜処は怪物機関」だとして公捜処廃止論を主張してきた国民権益委員会のキム・テギュ副委員長を、与党が公捜処長の候補に立てることに固執する背景には、何があるのでしょうか。公捜処を無力化したいという意図があると考えなければなりません。だからこそです。何としてでも公捜処をきちんとよみがえらせなければなりません。

 まとめます。告発教唆事件の全容はまだ明らかになっていません。最高検察庁の捜査情報政策官は検察総長の指示に従って動く職です。「検察総長の目と耳」と呼ばれています。したがって、告発教唆の頂点に尹錫悦検察総長がいたことを疑うことこそ合理的な推論です。当時のハン・ドンフン検事長の介入の有無も明らかにしなければなりません。一審判決後、市民団体と民主党は尹大統領とハン委員長を公捜処に告発しました。さあ、再出発です。真実を永遠に隠しておくことはできません。みなさんはどうお考えですか?

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1128736.html韓国語原文入力:2024-02-18 07:30
訳D.K

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