「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領か、イ・ジェミョン代表か」
ソウル江西区(カンソグ)の区長補欠選挙を翌日に控えた10日、与党「国民の力」と野党「共に民主党」は最後の現場での演説で、それぞれ「野党代表の使い走りではなく、本当の働き手を選んでほしい」(国民の力)、「投票で尹錫悦政権の暴走と無能を止めてほしい」(共に民主党)と訴えた。与野党が総力戦を展開する中、有権者50万人あまりの基礎自治体の首長補欠選挙が大統領選挙の「リターンマッチ」として行われる様相だ。来年4月に総選挙を控え、補欠選挙の敗者は深刻な打撃が避けられないという見通しが示されている。投票は11日午前6時から午後8時まで行われ、午後11時前後に当落が判明する見通し。
今回の江西区長補欠選挙は、たった1つの基礎自治体で行われるワンポイント選挙であるにもかかわらず、前例のない過熱ぶりを見せた。10日に国政監査が始まったにもかかわらず、この日夕方、与野党の指導部は江西区に集結し、最後の支持を訴えた。国民の力のキム・ギヒョン代表は、イ・ジェミョン代表が民主党のチン・ギョフン候補を戦略公認したことをあげつつ、「不正腐敗の疑いが持たれている胴体(イ代表)のアバターが区長になったら、とうてい国民に尊敬されはしない。不正腐敗は必ずえぐり出されるということを示してほしい」と声を強めた。一方、民主党のホン・イクピョ院内代表は、尹大統領に赦免され復権して出馬した国民の力のキム・テウ候補を批判しつつ、「今回の選挙は市民の力か傲慢な権力かを選択する選挙だ。チン候補が当選すれば、検察政治をやめて対話と協治の政治をせよという尹大統領への国民の警告になる」と述べた。
来年の総選挙への過程で行われる今回の補欠選挙は、結果によっては尹錫悦政権の国政運営基調はもちろん、総選挙の構図にも少なからぬ影響を及ぼすものとみられる。江西地域は2010年から連続して民主党所属の区長が当選してきたため、民主党の票田とされている。昨年の大統領選挙でイ・ジェミョン代表が敗北した際にも、江西地域でのイ代表の得票率は49.17%で、46.97%の尹大統領を上回った。しかし、尹大統領就任ムードの中で直後に行われた6月の地方選挙では、キム・テウ候補が民主党のキム・スンヒョン候補を51.30%対48.69%で抑えて当選した。麻谷(マゴク)を中心とした開発地域と禾谷洞(ファゴクトン)などを中心とした伝統的な野党優勢地域の民意が食い違っていると評価される。
そのため、単なる勝負の問題にとどまらず、得票差と投票率の意味をいずれも慎重に検討する必要があるというのが与野党の共通認識だ。民主党は得票率で10ポイント以上の差をつける「圧倒的勝利」を目指している。カギは投票率だ。野党は、投票率の低い再・補欠選挙では高齢層が結集するため、相対的に与党に有利な結果が出ると考えてきた。しかし、事前投票率が再・補欠選挙の過去最高値である22.64%を記録したことから、総投票率も伸びると期待している。得票率に15ポイント以上の差がついた場合は、「政権審判」の声が総選挙まで影響を与えるだろうというのが民主党側の見立てだ。同党の常任共同選挙対策委員長を務めるキム・ヨンホ議員はこの日、ハンギョレに「1票差で勝っても勝利は勝利だが、今回の補欠選挙の意味は国民の怒りを尹大統領に伝えることであるだけに、得票差が大きいほど『龍山(大統領室)』と与党にとっては痛いだろう。痛みが強ければ国政基調も変えられる」と述べた。
江西区は民主党の優勢地域であるとはいえ、大きな差をつけられて選挙に敗れれば、与党にとっては打撃が大きくならざるを得ない。国民の力は、表向きは「薄氷の勝負」を主張しているが、内心では「逆転勝ち」は難しいと考えているようだ。ある当選1回議員は「現場の雰囲気はそれほど良くはない」と述べつつ、2桁の差をつけられて敗北する見通しを慎重に示した。ある重鎮議員はハンギョレに「ここまで議員を総動員したのに大敗したら、大統領室が(キム候補の赦免を)決定し、党指導部がそのまま従ったことに対する批判の声があがるだろう」と述べた。