<野党第一党の代表によるハンスト、逮捕同意案の可決、支持者によるデモ、拘束令状の請求と棄却。韓国で起きている極限の政治的対立は例外的な現象ではない。民主主義の守護者を自任してきた米国では3年前の暴動で議事堂が占拠され、前大統領が起訴までされている。相手方を「敵」とみなす敵対政治が横行している。民主主義の危機は覇権競争、戦争、インフレなどの多くの危機と重なり、生活不安を増大させる。「多重危機の時代:共存の道を求めて」をテーマに11日行われる「ハンギョレ・アジア未来フォーラム」に合わせ、危機の原因を探るとともに代案を模索する記事を掲載する。編集者>
解決の主体ではなく、むしろ疎外されている個人の絶望と怒りを政治が動員する時、政治的両極化が助長される。このような現象は、米国や韓国などの多くの国で民主主義の危機を招いている。何が問題なのか、共存のためには何をすればよいのかについて、全北大学のチョ・ウンジュ副教授、慶煕大学のキム・マングォン学術研究教授、国会未来研究院のパク・サンフン招聘研究委員の3人の学者が対談した。座談会は先月19日にハンギョレ経済社会研究院で行われた。
チョ・ウンジュ教授(以下、チョ):韓国社会と政治を語る時、苦しみと悲しみの感情がわく。社会が悪くなりつつあるという判断、あるいは良くなりそうもないという見通しが反映されている。
パク・サンフン研究委員(以下、パク):怒りや憤りを政治がさらに拡大するのではないかと警戒すべきだ。
キム・マングォン教授(以下、キム):国民の10.7%(ソウル大学のユ・ミョンスン教授による2019年の研究)が強いうっ憤をためている状態だ。ドイツは2.5%だ。若い人、単身世帯、非正規労働者、所得が少ないほど強い。正しいと信じる世界と現実との開きが大きい時に生じる一種の挫折から生まれた感情だ。それは国や社会の保護を受けられていないと感じた時に生まれるものだ。
パク:民主化以降、不平等化が非常に急速に進んだ。階層間の満足感の差も大きい。政党は、税金も払えず投票率も低い高齢者、単身世帯に対しては選挙運動もしない。彼らを代表する人もあまりいない。非正規労働者は2年ごとに(賃金についての団体交渉の時期に)社会的に排除される経験をする。このような領域で挫折感が強い。
キム:民主化はデジタル技術の発展とかみ合ったグローバル市場秩序の形成時期と軌を一にしている。それを利用できる人とできない人との格差が拡大した。各自が個人的に対応しなければならない現実が怒りと不平等、国や社会に対する信頼の喪失へとつながった。
チョ:かつては政治、労組、社会運動などの一種の集合的で組織化された過程を通じて状況をより良くできるという信念が存在した。今はそのような期待すら崩壊している。
パク:韓国は「結社」への参加率が低い。社会が自律的に解決する結束の構造が発展しなかった。その代わり、国家中心社会の特徴を持っている。結社が発展していれば別の方法で対立を解決し、当事者間の調整や協力が可能になるが、それができないから街頭に出なければならない構造だ。
キム:国家依存的な社会だが、人は保護されない社会だ。これは不平等を広く支持する能力主義と関係している。政治とシステムが自分を保護してくれるという信頼が弱い社会で現れる現象こそ、最後の盾のように生命保険と不動産に執着することだ。
チョ:民主化後の運動の活発化が結社につながらなかった。表出される怒りと憤りに含まれる要素を解釈し、政治的議題とすることができなかった。前回の大統領選挙では「20代男性」、「青年」が大きな話題となったが、怒りを「男超(男性の割合が高い)」コミュニティーで承認するというやり方にとどまった。政治がそのような感情に便乗しただけで、青年政策はまったく改善されていない。
キム:結社率の低さは労働者嫌悪とも関係している。労組加入率が低いものだから、加入した10~15%の人が特権集団になってしまっている。彼らが権利のために闘えば、政治は貴族労組だとして攻撃し、人々はこれに同調する。政治は彼らを攻撃することで、自分たちが受けるべき攻撃を転嫁する。
パク:韓国は国の持つ規律の力は強いが、国家が多様な社会政策を通じて人々の職業生活と所得生活の構造を再編するという面では非常に小さな国家だ。個人を左右するのは能力主義と呼ばれる市場メカニズムだ。政治とは政府を通じて社会や個人の経済的生活を変化させるものだが、国家の「所有権」を誰が握るのか、ということのみに関心が向けられる。
チョ:理念対立がなさすぎる社会だ。あるのは陣営対立だけ。韓国社会をどの方向へと導いていくべきかの答えを示さずに、個人的好き嫌いばかりを語る。
パク:二大政党体制で大きな理念的論争がなされたことがない。違いがほとんどない。昨日の大統領と今日の大統領が争い、未来の大統領が誰になるかを中心に政治が回る。理念なき最高権力の所有権をめぐる争いは、あらゆる場所を分裂させる恐れがある。
キム:親日、従北は理念ではなく陣営対立を表現する用語だ。植民地と分断の経験は、両極化の別の要素と結合してたやすく社会を分裂させうる。
パク:政党同士で理念的対立と呼んでいるものは、実は反理念だ。無理やり相手を嫌悪するために用いられる要素だ。政治勢力の名前が福祉派、成長派ではなく、親文(文在寅支持派)、親ミョン(イ・ジェミョン支持派)などの、誰と親しいのかで付けられるのは恥ずかしいことだ。理念対立がどれほど虚構的かを劇的に示すのは「共産全体主義」(尹錫悦大統領の発言)だ。これは仮想の敵を作って戦うものだ。
キム:左派と右派ではなく極右派と右派がいる。韓国の二大政党制には、相手を正当なライバルとして認め合う文化がない。また、制度的権利を慎重に行使するという自制力もない。
パク:両党は何をめぐって争っているのか分からない。両者とも与党である時は与党らしく、野党である時は野党らしい。今、民主党は労働問題に積極的だが、政権党であった時はそうではなかった。互いに敵対することに問題の原因があるのであって、二大政党制そのものの問題ではない。
チョ:不平等の拡大を緩和するための制度的介入の面では、両党とも非常に弱い。コロナ禍当時の、生活の悪化を防ぐための政府の財政支援は、世界的に最も少ない水準だった。韓国の市場主義が国家主義と結合して問題を生み出している。
パク:表では福祉を語りながら、議会に最も多く出すのは減税法案だ。
チョ:不平等を軽減するための国の代表的な努力は税と労組だ。韓国はいずれもできていない。国の保護なき世の中で自分を守るには利益の最大化しかない。押し出された人々は努力しない怠け者にされる。彼らは嫌悪され、軽蔑される。能力主義は常に努力主義に変容する。
パク:トランプ現象は米国の下層の不満をあらわにした。一方、韓国の両極化では何があったのか。SNSは教育を受けた中産層の声ばかりだ。
チョ:韓国の政治の両極化はトランプ現象よりも悪い。トランプには正確に代弁する集団がある。彼らの感情を引き出して政治的支持へと結びつけ、彼らをいかなる形であれ政治的に組織化するものとして作用した。それをポピュリズムが持つ肯定的な面として評価した時、韓国にはそのようなものもない。
パク:米国政治にも二大政党体制を作動させるための一種のガードレールがある。韓国にもあった。国会には法を守らないことよりも先例や規範を守らないことを恥とする伝統があった。そのようなものの多くが崩壊した。国会法どおりにやってさえいればよいと思っている。以前は交渉で問題を解決しようとした。今は誰をよりうまく攻撃するかで支持者に評価される構造だ。よく戦ったかではなく、規範をきちんと守りつつ意味ある戦いをしたかを評価してほしい。
自陣営を批判することも必要だ。少なくとも民主陣営には自己批判が必要だ。それをやらないから陣営問題が増幅する。米国は共和党が両極化を引き起こしたが、韓国は民主党がその鍵を握っている。
チョ:巨悪と戦うという構造にとどまることなく、長い目で対立をみるべきだ。ろうそくデモ以降、怒りと憤り、敵対主義政治がなぜこのように増幅したのか、ろうそくが残したものは何なのかを振り返ってみるべきだ。
キム:分裂した社会ほど、問題を解決する際には理性よりも直観的理解や感性的土台のようなものが重視される。政党が陣営へと分離されることで対立構造が拡大するとともに、「共通感覚」が消え去った。民主化後、保守勢力はこのようにかたくなではなかった。以前の保守勢力は常に政治経験があった。しかし今作られた勢力は政治経験がない。政治規範なしに自分の経験の中で行動している。
パク:民主党はかつての民主党ではないし、国民の力もかつての保守党ではない。保守の特徴は、組織基盤がしっかりしていて品位があるというものだった。保守はそれを失い、アウトサイド(外郭)にいた勢力が政党を掌握した。民主党も同じだ。
パク・サンフン研究委員は過去に市民団体「政治発展所」の学校長を務めた。著書に『嫌悪する民主主義』などがある。チョ・ウンジュ教授は社会変動や不平等などを専攻。著書に『家族と統治』などがある。キム・マングォン教授は政治哲学を専攻。著書に『ホモジャスティス』などがある。