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報道に対し「国家反逆、死刑」…独裁がやってくる=韓国

登録:2023-09-26 09:08 修正:2023-10-03 07:14
[ハンギョレS]イ・スンハンのスルタン・オブ・ザ・TV 
露骨な言論弾圧 
 
ニュース打破のキム・マンベ録音ファイル報道 
大統領室「希代の大統領選挙政治工作」 
与党「大統領に対する名誉毀損」告訴 
検察特別捜査チームが大々的な捜査
イ・ドングァン放送通信委員長が18日、政府果川庁舎で行われた放送通信委員会の全体会議で発言している/聯合ニュース

 ニュース専門チャンネルのYTNは8月10日、「書ヒョン(ソヒョン)駅通り魔事件」を報道している最中に、アンカーの背景に当時はまだ放送通信委員長候補だったイ・ドングァン氏の写真を映し出すという放送事故を起こした。このリポートでイ候補の写真は「申し訳ないと言いながら妄想症状のチェ・ウォンジョン…サイコパス判断不可」という字幕とともに10秒ほど映し出された。YTNはニュースの最後にアンカーのコメントで「背景の画面が誤って放送されました。ご了承ください」と訂正した。

 イ候補からの抗議を受け、YTNは翌日の8月11日に「ニュースのグラフィックイメージのエラー事故について視聴者とイ・ドングァン候補に深い遺憾の意を伝える」とし、「来週中に『放送事故対策委員会』を開き、具体的な経緯と責任の所在、今後の再発防止策を議論する計画」だと表明した。「現在までの内部調査の結果、当時のニュース進行副調整室内のプロデューサーと技術スタッフとの意思疎通が円滑でなかったために発生した単純ミスと把握された。意図したものでは全くないことを確認した」というのがYTN側の釈明だった。

「イ・ドングァン背景事故」で家宅捜索試み

 イ候補はその釈明を受け入れなかった。放送通信委員長候補の指名後、YTNが候補者検証報道の観点から放送したリポートを「傷つけるためのもの」と規定し、YTNの報道基調は自身を傷つけることに重点を置いており、この放送事故も同じ意図があると主張したのだ。イ候補と関連し、子どもの校内暴力事件についての疑惑報道、配偶者による不正請託疑惑や不動産投機疑惑に関する報道が、あっという間に「検証」ではなく「傷つけ」とひとくくりにされ、YTN側が単なる技術的ミスだと明らかにした放送事故は「ミスではなく故意」を疑われた。イ候補は8月16日、YTNの関係者を相手取って3億ウォンの損害賠償請求訴訟を起こすとともに、関わった記者たちを名誉毀損で告訴した。

 担当者たちを呼び出して取り調べた警察は、告訴から1カ月後の9月19日、2人のYTN所属記者とグラフィック担当職員の携帯電話と住居地について強制捜索令状を申請した。YTNは「技術的ミスによる放送事故について、ジャーナリストに対して強制捜索まで試みるのは前例がない」とし、捜査権の乱用だと強く反発した。言論労組YTN支部のコ・ハンソク支部長も「調査過程で携帯電話の任意提出も要求せず、突如として強制捜索令状を申請した。法曹界でも前例がないと言っている暴力的な言論弾圧」だと主張した。19日夜、ソウル西部地検は麻浦(マポ)警察署が申請した強制捜索令状を差し戻した。

 令状が差し戻されたのだから一件落着か。そんなはずはない。イ・ドングァン候補は野党の反対にもかかわらず放送通信委員長に任命され、彼が起こした損害賠償訴訟と名誉毀損による告訴はそのままだ。そして、それより大きな事件がある。ソウル西部地検が麻浦警察署の強制捜索令状を差し戻す5日前の9月14日、ソウル中央地検の「大統領選挙介入世論操作事件」特別捜査チームは、ニュース打破とJTBCの事務所、さらにニュース打破のハン・サンジン記者とポン・ジウク記者(元JTBC記者)の自宅を家宅捜索した。この日の家宅捜索は、情報通信網法違反(名誉毀損)などの容疑で行われ、与党「国民の力」が提出した告発状で名誉毀損の当事者とされたのは尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領だ。

 大統領選挙を3日後に控えた2022年3月6日、ニュース打破は「火天大有」の大株主キム・マンベ氏とシン・ハンニム元言論労組委員長の会話の録音ファイルをシン元委員長から入手し、これを報道した。 2021年9月に親しい先輩後輩の関係として対面でなされたこの会話で、キム氏は釜山貯蓄銀行事件当時の主任検事だった尹錫悦大統領が、大庄洞(テジャンドン)の貸付ブローカーであるチョ・ウヒョンに対する捜査をもみ消したとする発言を行った。 検察はこの会話が虚偽インタビューであり、キム氏が大統領選挙に影響を及ぼす目的で虚偽インタビューを報道してほしいと要請すると共に、対価として1億6200万ウォン(約1800万円)をシン元委員長に送金したと判断している。 キム氏はインタビューの虚偽性を否定しており、シン元委員長は自身が受け取った金はインタビューに対する対価ではなく、自著の版権料だと主張している。

イ・ドングァン放送通信委員長(前列右から3人目)が19日、ソウル汝矣島の国会議員会館で行われた「フェイクニュース根絶立法請願緊急公聴会」で、国民の力の議員と手をつないでいる=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

朴槿恵時代には与党が告発することはなかった

 ニュース打破は、シン元委員長とキム氏の金銭取引については知らなかったが、報道の決定過程で2人の金銭取引は全く影響を及ぼしていないと釈明した。取材元と金銭取引をしたことはジャーナリズムの倫理上決して容認できないとし、公式謝罪した。そして、どのように「キム・マンベ音声ファイル」を報道することになったのかの経緯を詳細に明らかにしつつ、キム氏とシン元委員長の72分におよぶ録音ファイルの原本を編集なしにすべて公開した。本当にこの会話が「事前に企画された虚偽インタビューによる大統領選挙への介入」なのか、自ら聞いて判断してほしいという意味からのものだった。

 与党と大統領室はこの釈明を受け入れなかった。大統領室は「希代の大統領選挙政治工作」と評した。政権与党が自ら告発状を提出し、報道機関と記者の自宅に対する家宅捜索が同時多発的に行われた。「大統領に対する名誉毀損で報道機関に対して家宅捜索」という前例のない事態を前にして、多くのジャーナリストが驚がくした。もちろん、似たような事例が全くなかったわけではない。2014年8月、産経新聞ソウル支局長の加藤達也記者は、セウォル号事件の当日に朴槿恵(パク・クネ)大統領がチョン・ユンフェと密会していたのではないかという疑惑にもとづいた記事を書いた。これに対し保守団体が加藤支局長と、その記事を韓国語に翻訳した外国メディア翻訳専門メディア「ニュースプロ」を、大統領に対する名誉毀損で告発し、検察はニュースプロの翻訳記者の自宅を家宅捜索した。それでもこの時は、保守団体を通じた迂回(うかい)告発だった。与党や大統領府のような「生きた権力」が自ら動くのは言論弾圧だということに対する最小限の認知が残っていたのだ。

 ニュース打破の報道はジャーナリズム倫理に忠実だったのか。そうだとは言いがたい。録音ファイルを入手した後に、当時は国民の力の大統領候補だった尹錫悦氏の陣営に連絡して立場を問い、反論権を保障したのも事実だが、シン元委員長がキム氏と金品取引を行っていたことを把握できないまま報道したことに対する批判は避けられない。だが、権力者たちが「希代の大統領選挙政治工作」と述べつつ、あらかじめこの事案をどうみるべきかガイドラインを投げかけ、検察がそれに沿って報道機関に対する家宅捜索を行うというのは、露骨な言論弾圧だ。権力を監視するという責務のある報道機関を、権力が自分の好みに合わせて引っかき回したら、世の中に自らの責務を遂行する報道機関が存在しうるだろうか。

政権獲得後に言うことが変わった

 2021年8月に、共に民主党による言論仲裁法(言論仲裁および被害救済などに関する法律)改正推進に対して、「政権に対する報道機関の健全な批判にくつわをはめる現代版の焚書坑儒」と述べて反対した国民の力のキム・ギヒョン代表(当時は院内代表)は、9月7日にはニュース打破に対して「死刑に処さなければならないほどの国家反逆罪」と強く批判した。野党だった時には言論の自由を叫んでいた人々が、与党になった瞬間にメディアを手なずけ、飼いならそうとする。国民の力のチャン・ジェウォン議員も、イ・ドングァン放送通信委員長に「フェイクニュースを故意に企画し、シナリオを書いて行動するメディアに対しては、廃刊を考えなければならない。なくしてしまわなければならない」と述べ、イ委員長は「それこそまさにワンストライク・アウトの最終段階」だ言って相づちを打つ。これこそ「報道機関の健全な批判にくつわをはめる現代版の焚書坑儒」でなくて何なのか。

 国民の力のホ・ウナ議員は2021年7月29日、当時与党だった共に民主党が発議した言論仲裁法改正案について、SNSに次のように投稿している。

 「2018年にパク・クァンオン議員が発議した『フェイクニュース処罰法』について、放通委が作成した検討意見を公開します。『言論仲裁委や裁判所、選管で事実ではないと判断されたり、報道機関が訂正報道を通じて事実ではないと認めた情報も、客観的事実を判断する基準ではなく、虚偽と判断された情報も事実だと分かるケースも発生する可能性があるため、偽情報と規定するのは慎重でなければならない』という内容です。(中略)『何が真実なのか?』というのは数千年間、私たち人類が解けていない哲学的論題です。民主党は真実に謙虚になる必要があります」

 「フェイクニュース処罰」を取り上げるにあたり、何がフェイクニュースなのかを誰がどのように規定するのかと問うているのだ。2022年4月15日には、国民の力は言論仲裁法改正案の即時廃棄を求める公式論評も発表している。

 「報道機関に損害額の最大5倍に達する懲罰的損害賠償をさせる言論仲裁法改正案は、直ちに廃棄すべきだ。民主党の言論仲裁法改正案は言論の自由を侵害し、報道に対する検閲を引き起こす、時代に逆行する悪法だ。米国務省の人権報告書でも『言論悪法』と規定されており、世界のメディアの懸念と批判も強い。誰よりも言論の自由を主張していた民主党が、言論弾圧のための悪法を党論として採択したということに、強い遺憾を表明する。『すべての国民は言論・出版の自由と集会・結社の自由を持つ』。民主党が胸に深く刻むべき憲法の条文だ」

 誰よりも政権の言論弾圧を批判し、言論の自由をこのように強調していた国民の力は、今や政権与党となり、まだその故意性や悪意が立証されてもいない報道に対して「死刑」、「国家反逆」、「廃刊」を口にしている。何がフェイクニュースなのか恣意的に規定する権能を独占すること、これこそが独裁ではないのか。

イ・スンハン|テレビコラムニスト

気が付いたらテレビを見ることが生業になっていた、町のありふれた物書き。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/media/1109797.html韓国語原文入力:2023-09-24 10:00
訳D.K

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