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尹大統領の「歴史退行」はニューライト史観と「そっくり」

登録:2023-09-07 08:16 修正:2023-09-07 10:10
尹錫悦大統領が1日、ソウル瑞草区の国立外交院で開かれた国立外交院60周年記念式の会場に入場している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 最近の尹錫悦大統領の「イデオロギー政治」宣言と歴史逆行の試みの強まりの中、このような姿勢はニューライトの世界観と軌を一にしているとの評価が示されている。政府が強い意志を示す李承晩(イ・スンマン)元大統領の再評価、親日の前歴のあるペク・ソンヨプ将軍の「持ち上げ」、北朝鮮との交流や協力ではなく北朝鮮の人権問題に関心を傾けていることなども同じ脈絡にあるものだ。

 尹大統領の最近の発言は「自由」、「反国家勢力」などのイデオロギーと敵対の単語であふれている。「共産全体主義勢力は常に民主主義運動家、人権運動家、進歩主義行動家に偽装し、虚偽扇動と下品で破倫的な工作を事としてきた」(先月15日の光復節祝詞)、「最も重要なのが理念」(先月28日の国民の力の研さん会)、「共産全体主義勢力と日和見主義的追従勢力が反日感情を扇動している」(今月1日の国立外交院60周年記念式)など、時と場所を問わずイデオロギー的メッセージを吐き出している。

 このようなアプローチは過去のニューライトの認識と非常に似ている。もともとニューライトは、米国や欧州などで1960年代から進歩的、脱権威主義的な社会変化の反作用として拡大した路線だ。だが韓国政治では主に、転向した主体思想派など民族解放(NL)系の運動家出身者を中心として、2000年前後に注目されるようになった。固く信じてきた信念を変えたせいで、彼らは概して北朝鮮の体制とそれに友好的な勢力に非常に否定的かつ敵対的だ。「旬を過ぎたイデオロギーからは脱すべきだ」と主張するが、むしろより極右的な様相を呈したりもする。

 尹大統領が就任時から強調してきた「自由民主主義」も、ニューライト学者たちが李明博(イ・ミョンバク)政権時代に公論の場に持ち込んだことで生命を得た単語だ。ニューライトは、「自由民主主義」は世界的に普遍的で優秀な体制であり、対立する北朝鮮から国を守り経済成長を成し遂げるための基礎となったと主張する。ニューライト系の韓国現代史学会は2011年、このような論理で、小中高の新たな歴史教科書で「民主主義」は「自由民主主義」と表記すべきだという主張を貫徹した。学界からは「概念が曖昧だ」、「憲法からも根拠が見出せない」という批判が相次いだ。そのため文在寅(ムン・ジェイン)政権の発足後、この単語は教科書から消えたが、新政権は昨年、2025年の教科書で再び自由民主主義を用いることを決めた。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代にニューライト全国連合、自由主義連帯、時代精神、正しい社会市民会議、韓半島先進化財団などを発足させて全面的な勢力化に乗り出したニューライトの大半は、2007年の大統領選挙で李明博候補を支持し、その後、政界や大統領府、経済界などに進出して勢いに乗った。2012年の総選挙では大挙落選、公認漏れとなったが、朴槿恵(パク・クネ)政権時代に国定教科書推進に「すべてをかける」ことで組織力のピークに達した。その後、文在寅政権時代に集団的勢力としては力を失ったが、尹錫悦政権で要職に起用されている。

 例えば、7月に就任したキム・ヨンホ統一部長官はかつて、ニューライト学者たちのシンクタンク「ニューライトシンクネット」の運営委員長を務め、2005年に発足したニューライト歴史団体「教科書フォーラム」で活動したという前歴を持つ。真実・和解のための過去事整理委員会のキム・グァンドン委員長は、2008年にニューライト代案教科書の韓国近現代史の執筆に加わっており、大統領所属の国家教育委員会のイ・ベヨン委員長は朴槿恵政権時代に歴史教科書の国定化を推進した人物だ。

 イ・ドングァン放送通信委員長は東亜日報の政治部長だった2004年に書いたコラムで、「ニューライトの問題意識は、急進的な路線が自由民主主義と市場経済の憲法精神を傷つけているということから発している」とし、ニューライトを保守政治の代案として提示した。経済社会労働委員会のキム・ムンス委員長は、労働運動家から極右政治家へと180度転じた人物で、ニューライト陣営から「ニューライトの標本」という評価を受けている。韓国教育放送公社(EBS)のカン・ギュヒョン理事(明知大学教授)は朴槿恵政権時代に歴史国定教科書編さん審議委員を務めており、かつては洪範図(ホン・ボムド)将軍のソ連共産党での活動を「反民族的」と評していた。

 このような人事は政府の反共主義的な政策や意思決定にも影響を及ぼすとみられる。統一部が統一を念頭に置いた交流・協力機能を捨て去り、北朝鮮の人権問題を重視する方向へと組織を改編したのは、キム・ヨンホ統一部長官の起用と無関係ではないと分析される。近ごろ政府が強行している陸軍士官学校からの洪範図将軍の胸像の移転を主導したのは、朴槿恵政権時代に現代史の国定教科書の執筆に加わった同校のニューライト系のナ・ジョンナム教授だ。

 3月に行われた日帝強占期の強制動員被害者に対する第三者弁済方式の発表と、それに続く日本との関係改善の土台にも、ニューライトの主張してきた植民地近代化論があるという解釈が支配的だ。新冷戦構図が固まった国際情勢の下では日米との密着は不可避だとの説明のみで、社会的合意の過程がまったくない独断的決定だった。「反共主義」を掲げつつ政府に向けられた批判をまとめて罵倒する国家観、合理的保守すら背を向ける独断的な態度と無理な歴史観が反映された政策の流れを見れば、今後「8・15建国記念日主張」や歴史教科書論争も再発すると予想する人も少なくない。

 政治学者たちは、尹大統領が体制対決に集中する国政運営のあり方を変える可能性は低いと思われると指摘する。慶煕大学フマニタスカレッジのキム・ユンチョル教授(政治学)はハンギョレに「尹大統領は強い右派、保守的イデオロギー性向に頼って政治力を発揮すべきだと決心したようだ。これこそニューライトが結集することになった背景」だとし、「反共保守、守旧側の傾向をあらわにするとともに、イデオロギー政治を展開しつつ内外で体制対決ばかりに没頭しているものだから、確執ばかりを誘発する政治になっている」と指摘した。聖公会大学民主主義研究所のキム・ヒョンチョル研究教授(政治学)は、「尹大統領の偏向的イデオロギー過剰と検察などの司直機関の動員を通じた権威主義的姿勢は、李明博政権時代より強力な独断的政権運営を行うという意志の表れであると解釈される」と述べた。

キム・ミナ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1107466.html韓国語原文入力:2023-09-07 05:00
訳D.K

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