尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が2日、「統一部は北朝鮮支援部ではない」として、統一部の役割の変化を重ねて強調したことについて、法に規定された統一部の固有業務を無視したものだとする批判が出ている。朝鮮半島の平和管理の観点からも危険な発想だとする指摘も提起されている。
尹大統領はこの日、「統一部は対北朝鮮支援部のような役割を果たしてきたが、それではいけない。いまや統一部が変わる時が来た」と述べた。対北朝鮮強硬論者である誠信女子大学のキム・ヨンホ教授(64、政治外交学)を統一部長官候補に指名したことに続き、統一部の性格と機能を北朝鮮への圧力に変えるという意向を明確にしたのだ。
統一部は今後、南北対話や交流・協力よりも、国際社会に北朝鮮の人権問題を告発し、改善を促す業務などに注力するものとみられる。尹大統領は4月5日、外交・安全保障分野の国政課題点検会議で、「北朝鮮住民が受けている人権蹂躙(じゅうりん)の実状を国内外に広く知らしめることが最も重要であり、国家の安全保障を守ること」だと強調した。統一部長官候補のキム・ヨンホ教授も先月30日、「これまでの南北間の合意を選別的に考慮していくことが必要だ」としたうえで、「北朝鮮の人権問題はきわめて深刻だ」と述べた。尹大統領が、統一部次官には外交部出身のムン・スンヒョン駐タイ大使(59)を起用し、北朝鮮人権問題を含む国内外の人権分野を研究した韓信大学のキム・スギョン教授(社会福祉学)を大統領室統一秘書官に起用した点も、同様にこうした分析を裏付けている。
統一部という省庁の性格と機能を完全に変えようとするシグナルだという解釈も出ている。尹大統領は「力による平和」を語り、前政権の対北朝鮮政策を「屈従的」だと全面否定している。尹大統領は先月28日、自由総連盟の創立記念行事で、文在寅(ムン・ジェイン)政権に対して、「反国家勢力は、北朝鮮の共産集団に対する国連安全保障理事会の制裁を解除してほしいと要請するかと思えば、国連司令部の解体に直結する終戦宣言を唱えていた」と猛非難した。5年ぶりに改正した尹錫悦政権の国家安全保障戦略書では、終戦宣言と平和協定に関する内容はすべて抜けていた。3月には『北朝鮮人権報告書』を初めて公開して発刊し、北朝鮮の人権問題を国際社会に広く知らしめ、北朝鮮に対する圧力の手段とした。
「統一部機能転換」を要求する尹大統領の態度は、南北対話や交流・協力など法に明記された統一部固有の業務領域を否定する違法な発想だとする指摘もある。政府組織法では、「統一部長官は、統一および南北対話・交流・協力に関する政策の樹立、統一教育、その他統一に関する事務を掌握する」とされている。南北交流協力支援協会のカン・ヨンシク元会長は「南北が敵対関係にあっても、軍事でなく政治・社会的な側面から平和な南北関係を管理し、必要な対話のモメンタムを維持するのが統一部の役割」だとしたうえで、「大統領は、一方の陣営にだけ耳を傾け、統一部を北朝鮮を圧迫するための実務的な機構程度にみているようだ」と述べた。
尹大統領の認識は、統一部の時代的な役割変化にも合わない。統一部は、1970年代は北朝鮮の情勢分析や北朝鮮の思想攻勢への対応などに重点を置き、1980年代には政策機能を導入し、2000年以降は交流・協力や南北対話などに役割と業務が拡大した。北朝鮮の動向分析や対応、北朝鮮人権問題に関連する業務などに重点を置けとする要求は、50年前の統一部に戻れというような主張であるわけだ。
北韓大学院大学のヤン・ムジン総長は「尹大統領が統一部を『北朝鮮支援部』と呼ぶのは、『北朝鮮に与えすぎ』という先入観をそのまま示している。北朝鮮に、食糧や医薬品、さらには、朝鮮戦争で戦死した米軍人の遺体の発掘と送還に対して現金を支援した米国務省も北朝鮮支援部の役割をしていると言ってさげすむのか、自問自答してみる必要がある」とした。