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「北朝鮮のアイドル」キム・ジュエ…「白頭血統」を持ち上げたのは米国だ

登録:2023-02-20 11:07 修正:2023-10-16 09:25
[ハンギョレS]ソ・ジェジョンの「ひとつの半島・ひとつの世界」 
韓米オーダーメード型抑止戦略が生んだ反作用 
「政権終末」の脅威に対抗する抗戦アイコン
北朝鮮人民軍創建日(建軍節)75周年行事が開かれた8日、金正恩国務委員長が娘のジュエさん(右)とともに軍事パレードを眺めている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 「尊敬するお子さま」キム・ジュエを持ち上げたのは米国だ。キム・ジュエは「オーダーメード型抑止戦略」が生んだアイドルだからだ。突拍子もないことを言っていると思うだろうか?一つずつ解いてみよう。

 韓米軍事同盟の基本的な目標は抑止と勝利だ。保有する軍事力の恐るべき破壊力を誇示し、北朝鮮が戦争を恐れるようにすることが主な目標だ。万が一戦争を始めたら元手も取れず損をするばかりだから、最初から考えもするな、と脅しをかけている。にもかかわらず抑止に失敗して戦争が始まった場合、この軍事力を実際に稼動して勝利を収めるということだ。

 ここで要となる兵器体系は、米国の核兵器だ。北朝鮮が米国を核兵器で攻撃すれば、米国はそれよりも激しい核報復を行うという威嚇が抑止の要だ。この抑止を韓国まで拡大したものが「拡大抑止」だ。米国が必要とすれば核兵器を使用しうると脅し、北朝鮮が韓国を攻撃できないよう抑止の領域を拡大したのだ。

韓米「オーダーメード型抑止」が向かうところ

 では、どうすれば北朝鮮が攻撃を考えることもできないほど脅威を与えることができるのか。韓米同盟が見つけた答えが「オーダーメード型抑止戦略」だ。北朝鮮の最も痛い部分に核軍事力の焦点を当てるということだ。そうして「政権の終末」がオーダーメード型抑止の指向点になった。北朝鮮は政権の安全保障を最も重要視しているため、政権の終末を脅かされることが最大の弱みだということだ。米国の核態勢検討報告書が「政権の終末」を公言したのはそのような理由からだ。論理的な整合性を備えた核戦略と評価できる。

 しかし、このような論理的整合性は、平和と安定をもたらすことはできない。なぜなら、オーダーメード型抑止戦略は一方的な論理であるのに対し、国際関係は相互的な関係だからだ。韓国と米国は自国の安全を保障するためにオーダーメード型抑止を駆使するが、この戦略が作動するためには、北朝鮮が米国の核兵力を恐れなければならない。北朝鮮の恐怖心がオーダーメード型抑止戦略の必須条件なのだ。韓国と米国の安全保障は、北朝鮮の不安を必要とする。しかし、不安を強いられる国はこれに対応せざるを得ない。だからこそ北朝鮮は軍事力を現代化し、核武装力を強化している。

 こうなると北朝鮮の安全保障は韓国と米国の不安になる。「私の安全保障はあなたの不安」という相互性を、米国の国際政治学者ジョン・ハーツは「安保ジレンマ」と命名した。「我々は我々の安全を保障しようとしているだけなのに、なぜあなたは我々を絶えず不安にさせるのか」と、互いに指差しする。「我々は平和を好むが、あなたは好戦的だ」。このジレンマを認識することさえできず、その中でもがいていると、軍拡競争は終わりが見えなくなる。これが朝鮮半島の姿だ。

 いまや朝鮮半島のもがきは危険な臨界線に接近している。戦争中に臨時に引いた軍事境界線上を、「抑止という脅威」が、「安保という不安」が、随時行き来している。そのレベルは高まり続けている。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は3軸体系でも足りず4軸体系を追求し、「プラスアルファ」にまで言及ている。北朝鮮が攻撃をする前に「先制打撃」し、北朝鮮のミサイルは弾着する前に空中で破壊し、北朝鮮に大量報復を浴びせ政権の終末をもたらすという3つの軸でも足りないという。北朝鮮のミサイル発射を事前に不能化させる「第4の軸」を模索している。北朝鮮核問題は政権問題であるため、「斬首作戦」だけでは足りず、「北朝鮮の民主化」が根本的な解決策だと、与党「国民の力」の北朝鮮核危機対応特別委員会は公論化している。

 金正恩(キム・ジョンウン)政権も強力に対応している。大韓民国のどこでも打撃できる兵器体系を披露し、韓国のミサイル防衛を無力化させるミサイルと弾頭を誇示している。韓国の先制打撃が作動する前に、より先制的にミサイルを発射できるよう機動性と隠匿性を改良し、発射準備の時間を短縮している。これでも不安なため「戦術核兵器」で韓国を打撃できるようにし、「戦術核運用部隊」を今月9日の軍事パレードで披露した。「国家の重要な戦略的対象への致命的な軍事的攻撃が敢行されたり差し迫ったと判断される場合」、核兵器を使用できるという法まで制定した。

 このように見れば、南北がデカルコマニーのように見えるが、実は公正ではない対比だ。米国務省は2019年に韓国の国防費が440億ドルだったのに比べ、北朝鮮は43億ドルを国防費として支出したと評価した。少なくとも国防費において、韓国は北朝鮮より10倍以上使っている。さらに国務省は、北朝鮮の国内総生産は162億ドルと推算している。つまり、北朝鮮が総動員態勢で経済活動を100%軍事活動に集中しても、韓国の国防費に追いつくことは不可能だということだ。さらに韓国は米国と同盟を結んでおり、「敵基地攻撃」能力を追求する日本と軍事協力を強化している。

 特に米国は、「オーダーメード型抑止」を実現するために非核兵器と核兵器の両方を動員し、北朝鮮が脅威を感じるよう絶えず努力している。尹錫悦政権のように米国の「拡大抑止」に不信を示唆すれば、米国は北朝鮮に対する脅威を強化しなければならないという圧迫を受ける。最近になって米国の軍事活動が活発になったのもそのためだ。核兵器を実際に使用できるよう作戦計画を更新し、核兵器を随時韓国と近隣で誇示し、独自に、または韓国と合同で、または韓日米共同で軍事訓練を実施する。バイデン政権は金正恩政権を終わらせる能力だけでなく、その意志も十分に持っていると誇示する。

「キム・ジュエ」は北朝鮮の対抗戦略の一つ

 しかし、米国の抑止は北朝鮮の不安だ。抑止の強化は不安を強める。北朝鮮はさらに強く対応する。「敵対勢力に朝鮮民主主義人民共和国との軍事的対決が破滅を招くことを明確に認識」させることを目的とした「核武力政策について」の法令を採択する。「核兵器またはその他の大量殺戮兵器の攻撃が敢行された、あるいは差し迫ったと判断された場合」核兵器を使用できると明文化する。全米を打撃できる「怪物核ミサイル」でも不安なため、固体燃料を装着した大陸間弾道ミサイルを軍事パレードで登場させ「戦略ミサイル部隊」を披露する。「惑星のすべての悪と不義の勢力を一掃する」能力と意志を誇示する。

 「キム・ジュエ」は北朝鮮のこのような対抗戦略の一環だ。韓米同盟が金正恩政権の終末を狙っているため、「金正恩を決死護衛」するだろうが、万が一の際には「白頭血統を決死保衛」して戦い続けて勝つ、ということだ。8日の人民軍軍事パレードで、軍人たちは「金正恩決死護衛」「白頭血統決死保衛」「祖国統一」などのスローガンを叫んだ。「オーダーメード型抑止」に対する、北朝鮮の答えだ。

ソ・ジェジョン|日本国際基督教大学政治・国際関係学科教授

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1080249.html韓国語原文入力:2023-02-19 22:14
訳C.M

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