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韓国与党で戦術核配備求める声…現実とかけ離れた危険極まりない「核政治」

登録:2022-10-13 06:17 修正:2022-10-13 07:45
安全保障非常事態に政府与党が「安保の政治化」
北朝鮮の中距離ミサイル発射実験に対応し、爆撃訓練に乗り出した韓米空軍戦闘機が4日、飛行している=韓国国防部提供/ロイター・聯合ニュース

 北朝鮮が最近、核脅威を強め7回目の核実験の可能性を高めている中、韓国与党では韓国に戦術核を配備し抑止力を高めるべきという声があがっている。北朝鮮に強対強の戦略で立ち向かわなければならないという主張だ。しかし、戦術核の配備は朝鮮半島非核化の原則に反するうえ、米国の決定に左右されるという点で、実効性のある安全保障の代案にはなり得ないものとみられる。

 大統領室側は、尹大統領の発言が従来の立場と変わっておらず、ただ北朝鮮の7回目の核実験などを含め、様々な可能性を念頭に置いているという意味だと説明している。尹大統領は11日、「(戦術核の配備と関連し)韓国と米国の政府・民間の様々な意見に耳を傾け、検討してみる」と述べた。これについて、過去の核拡散防止条約(NPT)の順守を掲げ、戦術核の再配備に明確に反対してきた従来の立場とは異なるという指摘が相次いだ。戦術核は大都市全体を焦土化する戦略核より威力が小さい兵器で、通常20キロトン以下の核兵器を指す。

 与党「国民の力」は尹大統領の発言よりさらに一歩踏み込んだ。チョン・ジンソク非常対策委員長は12日、「北朝鮮が7回目の核実験を強行した場合、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に締結された9・19南北軍事合意はもちろん、1991年の『朝鮮半島非核化共同宣言』も破棄すべきだ」と主張した。

 しかし、戦術核の配備はそう簡単な問題ではない。まず、北朝鮮との非核化交渉の原則である朝鮮半島非核化に真っ向から反する。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は「戦術核の再配備は中国、ロシアの反発を招き、日本や台湾など北東アジアの核ドミノの雷管になりかねない」と指摘した。この30年間、朝鮮半島非核化共同宣言は、北朝鮮に非核化の履行と順守を求める準拠の役割を果たしてきた。国連など国際社会の対北朝鮮糾弾および制裁決議の際にも重要な根拠となった。韓国と米国は1991年、韓国からの戦術核兵器の撤収と1992年の韓米チームスピリット演習の中止と引き換えに、北朝鮮から南北基本合意書と朝鮮半島非核化共同宣言の採択、北朝鮮の国際核査察の受け入れを引き出した。また、韓国における戦術核の配備が北東アジアの核兵器競争の信号弾になる可能性もある。ヤン教授は「戦術核の再配備は日本、中国、ロシアの反発を招き、北東アジアの核軍拡競争につながりかねない」と語った。

北朝鮮の金正恩国務委員長は先月25日から今月9日まで、人民軍戦術核運用部・長距離砲兵部隊・空軍飛行隊の訓練を視察し、「敵と対話する内容もなく、またその必要性も感じない」と述べたと、朝鮮中央通信が10日付で報じた/聯合ニュース

 しかも戦術核は、韓国政府が望むと言って配備されるものではない。保有国である米国の決定に依存しなければならないが、米国は否定的な態度を示してきた。ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略疎通調整官は11日(現地時間)、戦術核の再配備問題について「我々の目標は完全かつ検証可能な朝鮮半島の非核化」だとして、慎重な姿勢を見せた。昨年9月にも、マーク・ランバート米国務省副次官補(韓日担当、当時)が「その公約を発表した人たちが米国の政策について分っていないことが驚きだ」とし、尹大統領の「米戦術核の配備および核共有」言及に反論した。戦術核は朝鮮半島に限った問題ではなく、米国の世界戦略にかかわる問題であるためだ。

 実際、約30年前の朝鮮半島の戦術核の撤収も、米国の世界戦略に基づいて行われた。ジョージ・ブッシュ米大統領は1991年9月28日、解体の危機に瀕したソ連の15の共和国に分散した核兵器が「ならず者国家」の手に渡ることを懸念し、急遽「全世界に配備された戦術核兵器の撤収および廃棄宣言」を発表した。1950年代にソ連を牽制するために配備された在韓米軍の戦術核兵器も当時撤収された。

 さらに、戦術核の運用方式が変化したことも、韓国に直接戦術核を配備すべき必要性を低下させる要因という分析もある。韓国軍関係者は「1991年当時、戦術核100個のうち砲兵用の核爆弾が40個だったため、在韓米軍に戦術核が配備されていたが、今は戦術核を戦闘機で運用している。有事の際、米国本土や米国領グアムから米空軍機を派遣できるため、国内に戦術核をあえて配備する必要はない」と述べた。

 たとえ戦術核が韓国国内に配備されたとしても、運用の主体は米国だ。一部は国内に戦術核を配備し、北大西洋条約機構(NATO)と同じ方式で韓米が核共有システムを作れば、我々が必要な時に戦術核を使えると期待している。しかし、NATOの場合も欧州内の戦術核の配備場所や数、目標物の打撃要件などは米国が決める。使用権限は米国が独占し、韓国は戦術核弾頭を航空機に積んで投下する任務を任される程度に過ぎない。

 悪化するウクライナ戦争の戦況も影響を及ぼしかねない。戦況が不利になったロシアがウクライナを相手に戦術核を使用する可能性を警告している中で、米国が韓国にまで戦術核を配備するのは難しいという分析だ。

 大統領室は戦術核配備の可能性に関する拡大解釈を避けた。大統領室関係者は「厳しい状況という認識は共有している」としながらも、「韓米同盟を軸に韓米日の強固な協力が、必ずしも戦術核の配備に向かうわけではない。核拡散防止条約を守るという意志が変わったわけではない」と述べた。

 外交安全保障担当の元高官は「安全保障に責任を持っている政府と与党は、具体的で組織的な外交安全保障政策を示さなければならない」とし、「与党が現実性に欠ける戦術核の再配備を強調するのは、対北朝鮮強硬策を通じて支持層を結集しようとする『安全保障の政治化』とみられる」と話した。

クォン・ヒョクチョル、キム・ミナ、オ・ヨンソ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/assembly/1062421.html韓国語原文入::2022-10-13 02:42
訳H.J

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