半年近く漂流を繰り返してきた610億ドル規模のウクライナへの軍事支援予算案が米国の上下院で可決され、支援は近く実現する態勢にある。この支援はロシア軍の波状攻撃で守勢に追い込まれたウクライナ軍を持ちこたえさせるには効果があるだろうが、戦況を覆すほどの解決策にはならない、との分析が優勢だ。
ウクライナ戦争はこのところ、ロシア軍の攻勢強化にもかかわらず、両軍いずれも画期的な勝機をつかめていない中、交渉の余地が見えない状況が続いている。
長期戦に対するロシアの楽観論をへし折るための西側の軍事支援が続く限り、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は交渉よりも戦争の継続を選択していくだろう。
また、ロシアとの不和で国境に常に不安を抱えるウクライナの安全保障に対して、米国や北大西洋条約機構(NATO)などが積極的でないということも、交渉を難しくしている要素だ。
さらに、両国の指導部が政治的破滅を覚悟することなしには領土問題で譲歩できないことも、戦争の長期化を予告している。
ウクライナ戦争が長期化していることで、韓ロ関係は今後も波乱続きになるとみられる。米国やNATOなどと協力しながら、同時に韓ロ関係を管理していくというのは、韓国にとって、まるで砂利道を走る車の中で針に糸を通すような難題だ。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は拡大抑止を骨子とする韓米同盟の強化と韓米日協力という外交的成果と共に、NATO+「アジア太平洋パートナー(AP4:韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド)」に積極的に参加するなど、大韓民国が自由民主主義陣営の責任ある中堅国であることを確固たるものにするという成果を上げた。
しかし、「すべての外交的成果は、その成功の中に将来の問題の種を内包している」という米国のジェームズ・ベイカー元国務長官の指摘を想起せざるを得ないことも、大韓民国の外交が直面している現実だ。ロシアと北朝鮮との軍事的密着は、北朝鮮からの兵器支援を切実に求めるロシアの苦しい事情が作用したため、ということは否定できない。しかし米国が「米英豪軍事同盟(AUKUS)」、「米日印豪戦略対話(QUAD)」、NATO+AP4などを主導することで、アジア太平洋地域で新たな安保ブロックを構築しつつあると疑ってきたロシアとしては、北朝鮮との軍事協力を通じて米国の拡大戦略をけん制するという側面もあることは看過しがたい。
さらに4月の米日首脳会談では、米国のインド太平洋地域の同盟構造が進化しつつあることがはっきりした。韓国としてはこの過程に参加せざるを得ないだろうし、その過程で韓国の役割に対する米国の期待と要求も高まっていくだろう。北朝鮮を依然として「第1の安保脅威」としている韓国の現実にあっては、また朝中ロ協力を警戒すべき韓国としては、韓米同盟の動力に従う注文に応じることは次第に困難になるだろう。
韓国と北朝鮮の鋭いにらみ合いが続く中、米国の同盟構図の再編と、それに対応するロシアの強硬な姿勢をみると、インド太平洋の新冷戦の境界が朝鮮半島に引かれる可能性が懸念される。1990年のドイツ統一とNATOの東進で、欧州の境界はドイツからポーランドとウクライナの国境へと移動した。NATOとロシアの境界に位置するウクライナが残酷な目にあっているのは偶然ではないのだ。韓国が韓米同盟を強化し、韓米日協力を強固にしつつ、同時にロシアとの関係の取り扱いに知恵を絞るべき理由はここにある。
韓国内部では、ロシアと北朝鮮との密着と、特に今年3月にロシアが国連の北朝鮮制裁委員会傘下の専門家パネルの任期延長案に拒否権を行使したことによって、ロシアに対する強硬論が力を得つつある。一部は、もはや韓国にはウクライナに対する殺傷兵器の支援をためらう理由はないと主張してもいる。
このようなロシアに対する扇動的な論調は、これまで米国やNATOなどの西側の圧力の中にあって、ウクライナに対する殺傷兵器の支援は行わないという基調を維持するなど、韓ロ関係の管理のために韓国が相当な意志を示してきたにもかかわらず、ロシアはそれに応じるというより、韓国の忍耐を試し続けている、という認識の自然な帰結だと言える。韓国がウクライナに対して殺傷兵器を支援したり、そのような意向をロシア側に示唆したりするのは、ロシアの行動を変化させるためだろう。しかし、韓国が強攻に出ればロシアの行動は変化するだろうという期待は虚しく、危険ですらある。韓国が強硬姿勢に転じれば、ロシアは行動を変化させるというより、非常に乱暴にそれに逆らおうとするだろう。外交的努力を尽くしてもいないのに、生半可に強硬カードを切るものではない。
ロシアとの関係を管理する実効的な措置がこれといってない中、その方策はモスクワではなくワシントンにあるかもしれない。世界戦略の構図を見ている米国と韓国の感じる朝鮮半島の緊張の密度の質には違いがありうる。韓国は、米国の世界戦略の中で、ともすれば見失われがちな韓国の切迫した安保の現実について米国の理解を高める一方、韓国にできることとできないことを明確にする必要がある。その過程で確保した余地が、韓国がロシアとの関係を管理していくうえで運用しうる外交空間であるはずだ。
韓国は、非常に複雑な外交の高次方程式を解かなければならないという困難な状況にある。「ビスマルクのように5つのボールを空中で回すジャグリングの才能を持たなかった」レオ・フォン・カプリヴィ首相は、結局ドイツを第1次世界大戦という災いへと導いた。韓国の外交当局には高度な外交力を発揮してくれることを期待する。
イ・ソクペ|元駐ロシア大使 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )