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国連軍司令部はなぜ「野党ユン候補の軍服でのDMZ訪問」を問題視したのか

登録:2021-12-27 06:48 修正:2021-12-27 08:07
役割拡大に向け存在感示す意図 
DMZの管轄権強調するためとの分析も
国民の力のユン・ソクヨル大統領選候補が今月20日、江原道鉄原郡の陸軍第3師団白骨部隊前方観測所を訪問している。青色の国連旗と太極旗が掲げられているが、国連旗は国連軍司令部の施設であり管轄区域であることを意味する=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 在韓国連軍司令部が、軍服姿で非武装地帯(DMZ)を訪れた国民の力のユン・ソクヨル大統領選候補に対し、「停戦協定違反」と指摘したことをめぐり、様々な分析が飛び交っている。国連軍司令部は21日、ホームページに「今回の事件の根本原因を把握し、停戦協定に違反する行為が再発しないよう真相調査を行う」という報道資料を掲載したが、波紋が広がったことを受け、翌日削除した。

 これに先立ち、ユン候補は20日、戦闘服の上着に「憲兵MP」の腕章をつけ、江原道鉄原(チョルウォン)の最前線部隊である陸軍第3師団白骨部隊前線観測所(OP)などを訪れた。国連軍司令部は、民間人のユン候補が軍服を着たことは停戦協定違反だと主張した。戦闘員だけが迷彩服や憲兵の腕章を含む独特の表示を着用できるが、民間人に軍服を着せて危険にさらしたというのだ。

国民の力のユン・ソクヨル大統領選候補が今月20日、江原道鉄原郡の陸軍第3師団白骨部隊前線観測所(OP)を訪れ、ソン・シク師団長の説明を聞きながら前線地域を眺めている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 しかし、このような服装で非武装地帯を訪れた政治家はユン候補が初めてではない。国連軍司令部がなぜ特にユン候補の服装を問題視したのかという疑問の声があがるのもそのためだ。国連軍司令部側は特別な意図を持って報道資料を発表したわけではなく、メディアの質問に答えただけだと説明した。21日に最初の報道が出てから、メディアの問い合わせが相次ぎ、迅速に回答するためにホームページとフェイスブックに報道資料の形で回答した、通常の「公報活動」だという説明だ。国連軍司令部側は、以前も民間人が戦闘服姿でDMZに出入りすることについて、公文の形で規定違反を告知したと説明した。

 しかし、国連軍司令部の取材を担当する国防部担当記者の多くは「国連軍司令部のホームページの報道資料を見て今回のことを知った」という反応を示した。また、記者団の質問に答えるため、国連軍司令部がフェイスブックとホームページに報道資料を掲載するのも珍しいことだ。国連軍司令部の今回の「報道資料対応」は、これまで持続的な問題提起にもかかわらず、韓国軍が改善しなかったため、積もった不満を表わしたものという分析もある。国連軍司令部は報道資料で、国連軍司令官が非武装地帯(DMZ)の南側地域の民間行政と救護について責任を持ち、軍人と民間人による非武装地帯への接近を統制するという停戦協定第10条の内容を詳しく強調した。ユン・ソクヨル候補が訪問した観測所は、南方限界線の北側の非武装地帯内にあり、国連軍司令部の管轄地域だという。停戦協定は軍事境界線(休戦ライン)の南北にそれぞれ2キロメートルずつ4キロメートルの非武装地帯を設定し、軍事境界線南側2キロメートルに南方限界線がある。非武装地帯では、停戦協定通りなら非武装を守らなければならないが、休戦直後から南北が先を争ってここに要塞や陣地、観測所を設け、武装した軍人が駐留している。

 国連軍司令部が「非武装地帯の管轄権を確認する」レベルを超え、存在感を示すことが狙いだという分析もある。在韓国連軍司令部は、朝鮮戦争勃発直後の1950年7月に東京で創設され、1957年7月にソウル龍山(ヨンサン)基地に移転して以来、現在も維持されている。国連軍司令部は朝鮮戦争の遂行者であり、停戦協定に署名した者として、停戦協定の履行に対する法的地位を持っている。国連軍司令官は在韓米軍司令官が兼職する。ポール・ラカメラ米陸軍大将は韓米連合司令官まで兼職し、状況によって司令官の3つの帽子のうち必要なものを選んでかぶる。司令官だけでなく、多くの参謀たちも、国連軍司令部、韓米連合軍司令部、在韓米軍司令部の参謀の職責を兼任していた。国連軍司令部は、国連軍司令部警備大隊(板門店JSA警備部隊)と国連軍司令部儀仗隊を除けば、兵力がほとんどない。

江原道鉄原の非武装地帯近くの表示板には「非武装地帯は国連軍司令部管轄」と書かれている。非武装地帯の管轄権は国連軍司令部に、管理権は韓国軍にある=クォン・ヒョクチョル記者//ハンギョレ新聞社

 米国は、国連軍司令部の任務を、停戦協定の管理を越えて全般的な朝鮮半島危機管理へと拡張しようとしている。米国は2014年から国連軍司令部の再活性化(強化)プログラムで、国連軍司令部の組織と人材、機能を着実に拡大している。 これにより国連軍司令部の勤務者が30~40人から2~3倍に増えた。在韓米軍参謀長が兼職していた国連軍司令部参謀長に別途の米軍将軍を任命し、米軍が担当していた国連軍司令部副司令官をカナダとオーストラリア、英国出身の3つ星将軍が務めている。多国籍軍事機関に強化するなど、国連軍司令部独自の作戦の役割が強化されている。米国が韓国軍に戦時作戦統制権を移管した後、国連軍司令部を通じて韓国軍を統制するための準備作業を進めているのではないかという懸念の声もあがっている。

 こうした懸念は、2018年の3回にわたる南北首脳会談後、頻繁になった南北交流協力と軍事的信頼構築の動きを、米国(国連軍司令部)が非武装地帯の管轄権を掲げて統制し、調節しているのではないかという議論につながった。南北関係の進展に対し、米国がスピード調節して介入する手段として国連軍司令部が作動しているという問題意識だ。実際、国連軍司令部の非武装地帯管轄権が韓国の主権と衝突し、このような問題意識はさらに高まった。

 2018年9月の平壌(ピョンヤン)共同宣言合意事項である非武装地帯監視警戒所(GP)の撤収と、鉄道-道路連結事業などに対し、国連軍司令部は「GPの撤収は国連軍司令部の判断を経て決めるべきだ」と主張し、議論を呼んだ。2018年8月には韓国政府が北朝鮮側の京義線鉄道の調査のため軍事境界線の通過を申請したが、許可が下りず、4・27南北首脳会談の主要合意事項だった京義線、東海線鉄道の現代化事業ははじめから難航した。2000年の6・15南北共同宣言により、南北が京義線と東海線の鉄道連結事業を推進した際も、国連軍司令部が韓国政府に対し「非武装地帯出入り承認手続きを踏むべき」として、ブレーキをかけた。

2016年6月、最前線の非武装地帯(DMZ)監視警戒所(GP)に青色の国連旗と太極旗が掲げられている。国連旗は、GPが国連軍司令部の施設であり管轄区域であることを意味する=陸軍本部ホームページより//ハンギョレ新聞社

 2019年8月、キム・ヨンチョル統一部長官(当時)が非武装地帯の唯一の民間人居住地である大成洞(テソンドン)村を訪問しようとしたが、国連軍司令部が同行取材陣の訪問を許可せず、キム長官は訪問をあきらめた。2019年6月に訪韓したドイツ政府代表団が江原道高城(コソン)の「8・29保存GP」を訪問しようとしたが、国連軍司令部が安全上の理由で非武装地帯の通過を許可せず、実現しなかった。

 現在、非武装地帯には韓国の主権が及ばない。国連軍司令部の許可がなければ、大統領も、国防長官も、合同参謀議長も、非武装地帯に入ることができない。このため、専門家たちは非武装地帯の管轄権の一部または全部を韓国合同参謀が引き受ける案を積極的に模索する必要があると提案してきた。2019年から韓国政府も、非武装地帯の訪問を軍事目的と非軍事目的に分けて非軍事目的の出入り許可権限問題を簡素化するため、国連軍司令部と協議を行っている。これについて国連軍司令部は、「韓国が非武装地帯の出入り手続きを守らない事例が多い」として対抗しているという。こうした背景を踏まえ、「軍服姿のユン・ソクヨル」をめぐるハプニングを、韓国と国連軍司令部の背後にいる米軍との間で繰り広げられている神経戦とみる人もいる。

クォン・ヒョクチョル記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1024742.html韓国語原文入力:2021-12-26 17:06
訳H.J

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