サムスングループのイ・ビョンチョル会長は1983年2月8日、ホテルオークラ東京で、義理の親戚である中央日報のホン・ジンギ会長に国際電話をかけた。「誰が何と言おうと、サムスンは半導体事業に参入する。この事実を内外に公表してほしい」 (2・8東京宣言)。 数日後、現代グループのチョン・ジュヨン会長も(SKハイニックスの前身である)現代電子の設立を発表した。当時、米国と日本が支配していた半導体産業に参入することは、賭けに近いものだった。二人の傑出した経営者の決断が、韓国半導体神話の幕開けとなったのだ。
その舞台を整えたもう一人の主役も忘れてはならない。1981年に「半導体工業育成詳細計画」を策定するなど、韓国政府は国家主導の研究開発プロジェクト、大規模な低利融資、税制優遇などを通じて、半導体産業を全面的に支援した。
ここに一つの要素が加わった。1980年代、日本は米国を追い抜き、メモリ半導体市場の強豪として台頭していた。米国は日本製の半導体に高率の関税を課し始め、日本は1986年、ついにDRAMの対米輸出量と価格を制限し、米国製の半導体の輸入量を増やす内容の「米日半導体協定」を締結した。その直前に成立した「プラザ合意」と相まって「世界一の経済大国」としての米国の地位を脅かしていた日本の勢いをくじこうとする、米国の対日牽制戦略だった。1980年代、世界の半導体企業トップ10のうち6社が日本企業(日本電気、東芝、日立、富士通、三菱、松下)だったが、現在は1社も残っていない。日本の不在の場所は韓国が埋めた。
SKグループのチェ・テウォン会長は15日の記者懇談会で、「半導体価格が下がるのでは、あるいはさらに上がるのではと心配している」と述べた。チェ会長が懸念しているのは、半導体価格の上昇に伴い、パソコンや携帯電話などの価格も連動して上昇する「チップフレーション」だ。チェ会長は「チップフレーションが深刻化すれば、我々は間違いなく地政学に打ちのめされる(地政学的な打撃を受ける)」とし、「かつて日本も同様の経験をした。特に米国や中国が黙って見過ごさないだろう」と述べた。「日本も経験した」事態とは、米日半導体協定を指しているのだろう。もちろん、40年前とは状況が大きく異なる。当時は、安価で高品質な日本の半導体が、米国企業の生産した半導体を市場から追い出すことが問題だった。現在は、世界的に供給が逼迫し、価格が上昇していることが問題だ。
しかし、米国の立場からすれば、40年前も今も不安な点は同じだ。米国が外国の半導体や半導体生産設備に依存せざるを得ない状況が訪れるということだ。40年前、その外国が日本だったとすれば、現在は韓国と台湾だろう。半導体はすでに1980年代においても、原油と同様に戦略的に重要な産業だった。人工知能(AI)をめぐる争いが繰り広げられている今は言うまでもない。「半導体ナショナリズム」は世界的な現象だ。米国の結論は、残っている自国企業であるインテルとマイクロンを保護する一方で、サムスン電子やSKハイニックス、台湾のTSMCに対しては、米国に半導体工場を建設するよう圧力をかけることだ。
安全保障カード、関税、技術制裁など、米国が使えるてこは多岐にわたる。1980年代に自由貿易を擁護していたレーガン政権でさえ日本に報復関税を課したのだから、アメリカファーストを掲げるトランプ政権が使いこなせない武器などない。すでにラトニック米商務長官は1月、「メモリを作りたいと思うすべての企業には2つの選択肢がある。100%の関税を支払うか、米国で生産するかだ」と述べた。しばらく沈黙していたものの、9日に再び「サムスン電子とSKハイニックスを米国に呼び寄せ、生産施設を建設させたい」とも語った。すでにサムスン電子はファウンドリ工場を、SKハイニックスはパッケージング工場を建設中だが、それだけでは物足りないという意味だろう。
チェ会長は「(米国を含め)建てられるすべての場所に建ててみる方針だ」と述べた。半導体産業の構造的な長期好況が続くならば、龍仁(ヨンイン)にも、湖南(全羅道地域)にも、米国にも「仲良く」ファブを分けて建設できるかもしれない。しかし、半導体の需要がある瞬間途絶え、供給過剰局面が始まれば、韓国と米国の間でゼロサムゲームが繰り広げられる可能性もある。
AIへの投資ブームがいつまで続くか、どのような破壊的イノベーション技術が既存の半導体を無用の長物にしてしまうか、中国の半導体産業がどこまで追いついてくるかなど、韓国半導体業界が注視すべきリスク要因は一つや二つではないが、何よりも、衰退の気配にあってもなお自らの意志を貫く力と手段を持つ最強国の米国が、どのような切り札を握り、局面を揺るがすかを警戒しなければならない。
王道はない。技術的優位性を守るための努力を続けながら、慎重に前進し、環境の変化に合わせて戦略を立てていくしかない。この過程で、40年前もそうだったように、政府と企業は「二人三脚」のように連携して動かなければならない。「地政学に打ちのめされない」ためには、なおさらのことだ。