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年齢・国境・プラットフォームを越え境界を斬った『鬼滅の刃』

登録:2021-05-17 05:22 修正:2021-05-17 08:44
[土曜版]マンガ路 
『鬼滅の刃』
『鬼滅の刃』の主人公の炭治郎。背に鬼になった妹を背負っている=『鬼滅の刃』日本語版ウェブサイトよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

「(質疑したのが)江田さんですから、私も『全集中の呼吸』で答弁させていただく」

 昨年11月2日。菅義偉首相の言葉に、国会の衆議院予算委員会に参加した官僚や議員らは「まさか」と耳を疑う表情だった。首相が国会の答弁でマンガ『鬼滅の刃』の主人公の竈門炭治郎が超人的な能力を発揮するときに唱える「全集中の呼吸」という表現を使ったからだ。韓国で例えるならば、チョン・セギュン首相が国会での対政府質問でアニメ『シンビアパート』の主人公のチェ・ガンリムのように「封印の刃」と叫ぶようなものだ。トップクラスの興行収入を記録している『鬼滅の刃』が、日本で単なる人気マンガの水準を越え、社会的な現象で広がっていることを端的に示した場面だ。

 話の内容は比較的単純だ。大正時代(1912~1926年)に秘密組織の鬼殺隊に入った主人公の炭治郎が、人を食う鬼と彼らの首領の鬼舞辻無惨を打ち破るという話だ。炭治郎は鬼の襲撃で家族が抹殺された状況で、半ば鬼に変わった妹の禰豆子を人間に戻すために死闘する。

 歴史的な実空間とファンタジーを絶妙に組み合わせたうえに、不屈の闘志を持つ魅力的なキャラクター、スピーディーな展開、派手なアクションと絵柄、家族愛や逆境を踏みしめる成長ストーリーなど、ヒットの要素が満載だという評価を得ている。一方、韓国では、旭日旗の形のような炭治郎のイヤリングや、日帝強占期(日本の植民地時代)に当たる大正時代を舞台にしたことなどが議論を呼んだりもした。しかし、日本での『鬼滅の刃』の人気は想像を超える。2016年の単行本第1巻から昨年12月の最終巻となる23巻までの累計発行部数(紙・電子本合計)は1億5000万冊を超えた。日本出版科学研究所は、昨年の日本のコミック市場が25年ぶりに最高額(6126億円)を記録した主な原因の一つに『鬼滅の刃』のヒットを挙げている。昨年は日本の書店での本の販売量が急増したが、メディアは「『鬼滅の刃』を買いに読者が書店を訪れたのが影響した」と解説するほどだ。

 いわゆる一つのコンテンツを多くのプラットフォームで売る「メディアミックス」でも、驚くべき成績を出している。劇場版アニメ『鬼滅の刃:無限列車編』も、昨年10月の公開後、10日時点で観客2980万人、興行収入399億円を記録した。これまでの最高記録である宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2002年・316億円)を大きく引き離した。

 115円の『鬼滅の刃』缶コーヒー28種セットが5600円で中古取引されるなど、オタクを相手にした「オタクノミックス」でも強大な影響力を発揮している。先月までは、主人公を描いた原画の全国巡回展示会まで開かれた。最近になり、名前や年齢、性別などの正体の一部がようやく知られることになった原作者の吾峠呼世晴氏が、新型コロナの克服を応援するために炭治郎と妹の禰豆子を登場させた絵も、爆発的な人気を呼んでいる。

 3月、日本の文化庁は原作者の吾峠呼世晴氏に芸術選奨文部科学大臣新人賞を授与し、「マンガとアニメを軸に社会現象と化した本作は、メディア芸術分野の歴史にふさわしい厚みと現在性を兼ね備えている」と評価した。日本のサブカル専門ライターの河村鳴紘氏も「(『鬼滅の刃』の事例のように)70歳から小学生までが同じ作品名を口にするというのも、なかなかない話であります。そして本当の意味での『社会現象化』というものがどれだけのパワーを持つか『鬼滅の刃』は教えてくれました」と説明した。

 さらに驚くべきことは、「鬼滅の刃シンドローム」が日本だけに留まらないということだ。劇場版『鬼滅の刃』は先月23日に北米の映画館約1600館で公開され、公開1週目の週末の3日間(23~25日)で2114万ドル(約23億円)を記録した。北米で上映された外国映画では史上最高のオープニング記録だ。上映2週目にはいきなり興行収入1位となった。反日不買運動の雰囲気が残っている韓国でも、『鬼滅の刃』だけは例外として扱われている。教保文庫の週間ベストセラーによると、マンガ本『鬼滅の刃』最終巻(23巻)は先月の発売後、過去4週間連続で総合部門1位を維持している。マンガ本が教保文庫の総合販売1位になったのは、2014年の『ミセン-未生-』(ユン・テホ作)以来7年ぶりだ。

 1月、韓国で公開された劇場版アニメも、12日時点で韓国の観客196万人を動員し、ユン・ヨジョン出演の『ミナリ』(109万人)を追い抜き、今年の興行収入第2位となっている。20~30代のMZ世代と女性が特に熱狂している点も目を引く。教保文庫が分析した『鬼滅の刃』購買層は、20~30代が55.6%、女性が68.1%に達する。文化評論家のソン・サンミン氏は「善が悪を打ち破る単純明瞭な内容が、何もできない新型コロナの状況にも負けないという共感を引き出したのだろう」とし、「韓国の20~30代の反応が強いのは『反日感情はある程度は持っているが、自分が惹かれたものは好きになる』という世代の特性が反映されたものとみられる」と解説した。

ホン・ソクチェ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/995326.html韓国語原文入力:2021-05-15 09:42
訳M.S

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