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[記者手帳]“不信”の向かい風の中、大統領府は平和に向けて進めるだろうか

登録:2020-06-20 06:22 修正:2020-06-20 08:02
キム・ユグン大統領府国家安保室第1次長が今月16日、北朝鮮の開城工団南北共同連絡事務所の爆破と関連し、大統領府記者クラブの春秋館で記者会見を行っている=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 進むべき道が見えません。もう機を逸したのでしょうか。引き返すにはあまりにも遠くまで来てしまったのでしょうか。それとも、道が見えないところで新たな道が切り開かれるのでしょうか。

 南北関係の話です。開城(ケソン)南北共同連絡事務所が文字通り、吹き飛ばされました。約2年前、4・27板門店南北首脳会談の成果として、南北の常時コミュニケーションの場だった建物が、映画のワンシーンのようにコンクリートの山と化しました。南北は激しい舌戦を繰り広げました。3回も会って白頭山(ペクトゥサン)の天地まで一緒に登った間柄で交わされる言葉にしては、聞くに堪えないものです。

 どこから間違ったのでしょう。時計を巻き戻してみると、実は南北関係は1年4カ月ほど前から止まっていました。昨年2月、ハノイ朝米首脳会談が物別れに終わったことで、南北は意味ある前進を成し遂げることができませんでした。昨年6月、板門店(パンムンジョム)で電撃的に南北米首脳会合が実現したものの、それはまさに“電撃”にとどまりました。ハノイ以降、北朝鮮は韓国に対する信頼を失ったようです。当時、非核化と朝米国交正常化に関する文大統領の仲裁案は、「ロシアスキャンダル」に追い込まれたドナルド・トランプ大統領と強硬派によって拒否され、北朝鮮はショックのあまり信頼の扉を閉ざしてしまいました。文大統領のショックと戸惑いも大きかったのです。ある政府の責任者は昨年、「事実上、南北間の有意義な連絡は途絶えた」と語りました。今月初め、北朝鮮が南北連絡網の断絶を公式宣言するずいぶん前のことです。

 その後、南北関係の活力は目に見えて弱まりました。南も北もなかなか共に何かを進めようとしませんでした。大統領府は米国に頼りました。ハノイの仲裁失敗の後遺症が大きかったためか、積極的に動こうとはしませんでした。「朝鮮半島の運転者論」(朝鮮半島問題は南北が主導する)の代わりに、「朝米交渉が優先」という発言を耳にする機会が多くなりました。窮余の一策のようでもあり、責任回避のようでもありました。南北関係において韓米が歩調を合わせようという名目で米国が主導した韓米作業部会が、拒否できないブレーキをかけたのかもしれませんが、時間が経つにつれてそのような状態に慣れていきました。着実に信頼を築くよりは、トランプ大統領率いる米国が“一発逆転”してくれることを期待していました。

 しかし、米国の利益は、北朝鮮の非核化よりも中国の浮上を牽制することにあったのでしょう。貿易紛争や華為(ファーウェイ)規制、新型コロナウイルス感染症の責任をめぐる攻撃などを見る限り、米国の目は中国に向いており、このような中国を牽制することにおいて北朝鮮は捨てがたいカードです。朝鮮半島、正確には北東アジア、より正確には中国の牽制のために北朝鮮を口実にする方が、米国にとっては望ましいのです。米国と関係を正常化させた北朝鮮は、核で問題を起こす北朝鮮よりも使えません。大統領府と政府は、しばし米国の国益と韓国の国益を同一視しすぎたのではないかと思います。

 韓国の大統領府と政府は度量が小さかったようです。文大統領は「易地思之」という言葉をよく使います。相手の立場に立って考えてみようということですが、南北関係においてはそれがあまり発揮できなかったのだと思います。最初の首脳会談の際、韓国の時刻に合わせて平壌の標準時間を30分繰り上げ、3回目の首脳脳会談の際、文大統領に15万人が集まった綾羅島5・1競技場での演説を認めたのは、いくらか差し引いても北朝鮮内部の負担が少なくなかったはずです。これを受け入れた北朝鮮の積極性に匹敵するほど大統領府と政府は切実だったのか、南北関係が氷のように冷めきってしまった今、振り返る必要があります。文大統領も「対応を誤った」と認めた北朝鮮へのビラ散布を早くから強く阻止できなかったことは、だからこそ悔やまれます。

 今、文大統領は戦争危機へと突き進んでいた2017年暮れよりもさらに悪化した状態で、南北関係の改善を図らなければなりません。少なくとも、南北の信頼度の面ではそうです。当時は北朝鮮に不確実ながらも韓国に対する“期待”がありましたが、今は“不信”という向かい風の中、進まなければなりません。大統領府は「道理をわきまえない無礼な言動」と北朝鮮の“言葉の爆弾”に対抗しましたが、文大統領の言葉通り、「くねくねと流れても最後には海へと向かう川の水のように」南北が進むべき方向は明らかです。文大統領が 6・15南北共同宣言20周年記念演説で、新しい提案を出す代わりに、「8千万同胞」の前で約束したことに触れ、合意精神を強調したことは、再び信頼の基本を固める意志を示めすためと思われます。

 南北関係は、道が途切れ、先が見えないところから道が切り開かれることがよくありました。3年前まではそうだったのです。文大統領の2017年ドイツ・ケルバー財団での演説が、南北関係を平昌(ピョンチャン)→板門店(パンムンジョム)→白頭山へと導くと予想した人はあまりいませんでした。文大統領の前に置かれた道も、ある意味単純です。絶えず岩を転がさなければならないシーシュポスと似たような宿命を背負っているのかもしれません。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ヨンチョル政治部記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/politics/bluehouse/950173.html韓国語原文入力:20-06-2002:30
訳H.J

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