セウォル号事故の一般人生存者イ・ヨンジュン氏(40代・仮名)は、自分には「心的外傷後ストレス障害」(PTSD、トラウマ)がないと思っていた。だから事故直後、病院に18日ほど入院したが、直ちに仕事に復帰した。しかし、そうではなかった。昨年12月から、小さな音でも胸が苦しくなって息が詰まり、事故当時の場面が何度も浮かぶようになり、まともに日常生活を送れなかった。典型的な心的外傷後ストレス障害の症状である。4日間も眠れず、薬を飲んだら、2日間も寝込んでしまうこともあった。定時に出勤できない日が増えた。結局2月初めに辞職を進められた。イ氏は23日、ハンギョレとの通話で「代行運転や掃除もしてみたが、それさえも続けるのが難しい。経済的に役に立つわけでもないし、息子、娘にも申し訳なくて、心理療法は考えたこともない」と話した。
イ氏が住んでいる地域でセウォル号被害者(生存者・遺族)の心理療法に参加しているある精神衛生社会福祉士は、「セウォル号被災者の方々に連絡して、相談や治療を受けにいらっしゃるようにいうと、『生計はどうすればいいのか』と非難する方もいる。イ氏も相談・治療が必要だが、なかなか説得できない」と語った。
19日、済州島(ジェジュド)に住んでいるセウォル号生存者キム氏の自傷行為のニュースは、セウォル号事故から1年が経とうとするにもかかわらず、まだ苦痛から抜け出せない被害者の辛酸な生活を表わしている。政府は昨年5月、生存者・遺族が集まっている京畿道安山(アンサン)に「安山精神衛生トラウマセンター」(鞍山全心センター)を開院し、心理カウンセリングや治療などを支援している。しかし、他の地域に散らばった生存者と遺族は積極的な管理対象から外れている。
保健福祉部は、事故直後のセウォル号から救助された一般人乗船者と犠牲者の家族などを対象に、広域単位で家庭訪問や電話を通じた「訪問心理支援サービス」を提供すると発表した。しかし、「対象者が積極的ではない」という理由でうやむやになっている。 45人のセウォル号被害者が居住する仁川(インチョン)広域市は、昨年までの訪問事業を行っていたが、今年は中断した。仁川市役所の関係者は「多くの犠牲者が回復し、これ以上は訪問を望んでいないからだ。しかし、必要に応じていつでも相談支援を受けられる」と述べた。
済州島にもセウォル号生存者24人が居住しているが、精神衛生増進センター、セウォル号被害者相談所など心理支援がバラバラに運営されているうえに、安山よりプログラムが多様でないため、キム・ドンス氏を含む5人の生存者は、総合的な治療が可能な安山に行き来しながら、相談・治療などを受けている。済州道庁の関係者は、「安山で音楽・美術治療などの様々なプログラムを経験した方の中で、そのようなプログラムを望む方に限定し、交通費を補助している」と述べた。
専門家たちは、セウォル号生存者などが継続的な相談・治療を受けられるように、周りの人や地域社会が積極的に助けるべきだと助言する。チョ・イニ大韓小児青少年精神医学会災害特任委員会理事は、「安山に住んでいない大人の生存者は、時間が経つにつれ世界の関心から遠ざかっており、何よりも生活の負担のせいでトラウマ治療を受けない恐れが非常に大きい。しかし、潜在的なトラウマが解決しない場合、時間が経ってからでも自責の念などで苦しむ可能性がある。政府と地方自治体が継続的な支援システムを備えて生存者が相談や治療を受けるように誘導しなければならない」と述べた。済州ヨンガン病院セウォル号被害者相談所に勤務する職員は、「アルコール中毒などで仕事を出来ない方は相談さえ受けないので、心配だ。相談所の中で勤務するだけではなく、積極的に家庭訪問でもしなければならないが、私どもも非常勤兼職なので、その余力なく、残念だ」と話した。
韓国語原文入力: 2015.03.23 20:43