陸軍28師団のユン一等兵(21)が死亡する直前、国家人権委員会が家族から「殴打の疑いがある」との陳情を受け、死亡直後2日間にわたり現場調査をしていながら、却下処分していた事実が明らかになった。人権委は、ユン一等兵死亡事件の波紋が広がった8月4日になって、「28師団事件に対する職権調査を検討する」と明らかにしていた。
6日の『ハンギョレ』による取材の結果、先任兵らの集団暴行でユン一等兵が意識不明状態に陥った4月6日夕方、整形外科医であるユン一等兵の親戚が人権委に陳情を出した。「ユン一等兵が部隊員たちと一緒に食事中に突然意識不明状態になった。病院へ搬送されたが、状態が悪い。体中に傷跡と青あざが発見された」という内容だった。
人権委は正式に陳情を受理した後、4月14~15日になって現場調査に向かった。28師団憲兵隊捜査記録を見ると、軍当局はユン一等兵が倒れて意識を失った4月6日から加害者の供述を収集し初め、ユン一等兵が死亡した7日にはすでに目撃者たちから十分な供述を確保していた。また、傷害致死容疑で加害者らを拘束した9日には、1か月以上にわたりむごい暴行や苛酷行為が続いていたという具体的な陳述まで確保していた。
しかし、現場調査に出かけた人権委の調査官は、捜査を担当した憲兵隊の責任者、事故当時の勤務者や目撃者、指揮系統などを調査した後、「事件の明確な捜査と事後処理を要請」するにとどまった。人権委は6月、「加害兵士たちの裁判が進行中で、幹部たちが重懲戒処分を受けた事案であり、家族たちに事件の経過と軍の措置などを説明したところ、それを受け入れてこれ以上人権委の調査を望まないと言った」として、ユン一等兵の事件を「調査中に解決された」事案と見て陳情を却下した。
「うちの息子はなぜ死んで帰ってきたんですか」。6日午前、ソウル龍山(ヨンサン)区の国防部前で開かれた「軍隊内暴力糾弾及び死亡した軍人の名誉回復を要求する記者会見」で、軍隊内死亡事故の被害者遺族たちが犠牲者の写真を見せながら涙を拭っている。ニューシス
しかし、加害兵士たちの裁判を傍聴した人は、「軍は遺族が捜査記録の閲覧を要求しても見せず、現場検証に敢えて参加しなくてもいいと言って遺族を安心するように言った。このような状況で、遺族たちは軍を信じてユン一等兵の死を受け入れた状況だった」と述べた。何があったのか実情を知りえなかった遺族たちの「調査は必要ない」という言葉に、人権委がそのまま従ったわけだ。
人権委が‘解決’済みと結論を下したユン一等兵の事件は、却下決定後40日余り経った先月31日、人権団体により残酷な真相が暴露された。すると人権委は、3か月前に再発防止対策を勧告した陸軍6師団の医務隊暴行事件を4日になって遅れて公表し、「28師団事件に対する職権調査も検討する」と言い出した。
国家人権委員会のこうしたやり方は、同委員会の‘ヒョン・ビョンチョル委員長体制’では珍しくない。人権団体関係者らは、2009年にヒョン委員長が就任して以来、軍や検察、警察など国家機関の人権侵害に対する職権調査はまともに行われていないと指摘する。
チェ・ウリ、チン・ミョンソン記者 ecowoori@hani.co.kr