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20年以上自殺率1位の韓国…また1年が過ぎた【寄稿】

登録:2025-12-26 09:30 修正:2025-12-29 06:50
[ナ・ジョンホの大丈夫じゃなくても大丈夫]自殺防止に背を向けた国 
 
ナ・ジョンホ|米国精神科専門医
イラストレーション=キム・イェウォン//ハンギョレ新聞社

 「わが国の自殺率はどうしてこんなに高いんですか?」

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が公開の国務会議で問いを投げかけてから6カ月が過ぎた。新たに就任した国の最高指導者が公開の席上で韓国の自殺問題に正面から言及したことから、「今度は変わるのではないか」という期待があった。自殺はもはや個人の悲劇だと考えてばかりはいられない「国が責任を持って扱うべき公衆保健の問題」だとの認識が、ついに反映されるだろうという期待だ。

 しかし6カ月が過ぎた今、その期待は失望に変わった。政策の方向性は見えず、実行のスピードは遅く、責任の主体もはっきりしない。このままでは、2026年も2025年と大差ない1年になる可能性が高い。だから、歯がゆく切迫した気持ちで、今年の最後のコラムをこのテーマで締めくくりたいと思う。

 韓国が経済協力開発機構(OECD)の加盟国中、自殺率で1位だという汚名を着せられてから、22年という歳月が流れた。その長い年月の間、どの政権もきちんと対応したとはみなしがたい。あげくの果てに10年ほど前、韓国の自殺率の高まりを懸念したOECDの諮問団が訪韓し、メンタルヘルスのインフラの拡充を要求したが、政策的変化は起きなかった。ついに市民たちが最近、国会前で1人デモを行い、「命を全うしましょう」という自発的な市民運動を始めたが、制度と予算の裏付けがないという現実の壁は今も高いままだ。政界の関心は一時的な言及にとどまり、実際の政策の変化にはつながっていない。

 一部の人たちは、自殺率の高さを「社会の構造的な問題」でのみ説明し、経済が改善して暮らしやすい世の中になれば自然と自殺率も低下するはずだと語る。一見妥当そうにみえる主張だ。しかし、これは事実とは程遠い話だ。世界のどこにも、メンタルヘルスのインフラを構築せず、国が積極的に介入することなしに、自殺率が自然と有意に低下した例はない。逆に、国が直接介入して長期的、体系的に自殺防止政策に投資してきた国々(フィンランド、日本、英国など)は例外なく成果をあげている。

 日本はその代表例だ。一時は韓国の自殺率の2倍以上を記録し、1980年代から90年代にかけて自殺共和国と呼ばれていた日本は、2006年に首相と国会の主導で自殺防止を国の最重要課題に設定し、大々的な政策を実行した。救急メンタルヘルスシステムの構築と地域社会を基盤とするメンタルヘルスシステムの拡充、報道ガイドラインの強化、過労死・失業・債務問題に対する早期介入、中央政府と地方自治体の明確な役割分担が同時に行われた。その結果、日本の自殺は過去20年間で約40%減少し、昨年は1978年以降で最低を記録した。近年は青少年の自殺率の高まりを受けてこども家族庁を新設するとともに、自治体ごとに学際的なメンタルヘルス緊急対応チームを置いている。一方、韓国が自殺防止に投入する予算は、日本のいち自治体である東京都の自殺防止予算の10分の1ほどに過ぎない。来年の自殺防止予算は28億ウォン増額されたが、絶対的な規模が小さ過ぎる中、このような小規模な増額では自殺率を実質的に下げることは難しい。

 先日、両親と姉を失ったある20代の若者がSNSに死を暗示する投稿をし、数千人のネチズンの慰めと通報のおかげで救助されたことが報道された。冷たいとばかり思っていた社会の中で、韓国社会に今も連帯と善意が生きていることを確認させてくれる、実に美しい話だった。しかし、このような「奇跡のような構造」は、国の不在を埋めることはできない。

 韓国の「109自殺防止相談電話」で実際に対応している人材は、全国で約140人に過ぎない。5千万人を対象に運営されている国のカウンセリング網の規模だとは信じがたい数だ。しかも、少し前までは100人で運営されていた。10月になってようやく40人増員されたのだ。このような人手不足のせいで、自殺リスクが最も高い夜間には、電話をかけても対応してもらえる確率は40%にとどまる。自殺を試みている人に24時間対応する圏域メンタル救急センターも、予算が足りず人手不足に苦しんでいる。助けが最も切実に求められる瞬間に助けてもらえないシステムをそのままにしておいて、果たして韓国政府は自殺防止に本気だと言えるだろうか。

 最近発表されたOECDの報告書は、自殺問題を悪化させる主な要因として、メンタルヘルスの治療環境のぜい弱さを指摘している。韓国は、精神疾患で入院した患者が退院後1年以内に自殺で死亡するリスクが、比較対象国の平均の2倍を超えていた。自殺未遂者の情報をメンタルヘルス福祉センターと自殺防止センターにも共有させる法が成立したが、人材と資源の不足のせいで、多くの高危険群の患者が地域社会で継続的な治療や管理を受けられず、相変わらず危険の中に放置されている。

 先日、国会自殺防止フォーラムが主催する「国会自殺防止大賞」授賞式が行われた。しかし、それを見守る私の心情は複雑だった。国会自殺防止フォーラムに参加する国会議員は32人。国会議員の10%ほどに過ぎない。自殺問題は依然として政治の中心議題ではないということを、端的に示している。

 2025年は韓国が対外的に目覚ましい成果を収めた年だった。韓流は世界の文化のひとつの軸となり、韓国を訪れる観光客の数も過去最多を記録した。しかし、国際社会において韓国に言及する際について回る長年のレッテルは、今も「自殺率1位の国」だ。経済的、文化的成功と国民の命の保護とのこのはっきりとした対比は、いったい何を意味するのだろうか。

 私は、一国の自殺率は、その国を率いる人々が国民の命にどのように向き合っているかを示す最も正直な指標だと思う。今、この文章を書いている約2時間の間にも、統計的には3人ほどの国民が自ら命を絶っている。これは単なる数字ではなく、誰かの子ども、親、友人であるかもしれない一人ひとりの国民だ。

 保健福祉部は2029年までに、現在は10万人当たり29.1人の自殺率を19.4人まで下げると発表している。しかし、明確な目標設定と責任主体、破格の政策と予算なしに、この数字が達成される可能性はない。自殺防止の国政の最重要課題への格上げ、メンタルヘルスおよび自殺防止の予算と人材の数倍拡充、自殺防止庁の設立によって、失敗した時に責任を問う構造を作らなければならない。

 OECDで自殺率1位という汚名を30年に延ばすのか。2026年の終わりに再び同じ問いを繰り返さないようにするためにも、今この瞬間、国は答えなければならない。

//ハンギョレ新聞社

ナ・ジョンホ|米国の精神科専門医、中毒精神科の専門医。痛みを告白したら、弱みを利用するのではなく共感し、その痛みを包み込む社会を夢見る。著書に『ニューヨークの精神科医の人間図書館』、『もし私があの時、私の話を聞いてくれていたなら』がある。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1236222.html韓国語原文入力:2025-12-23 18:39
訳D.K

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