<文化放送>(MBC)の構成員が最近、相次いでセウォル号報道関連の声明を出した。文化放送の中でどんなことが起こっているのか、記者・PD(ディレクター)9人の話を聞いてみた。実名が明らかになれば人事上の不利益を受ける可能性が高いので、匿名で伝える。
「奇跡に近いことです。これも容易じゃありませんでした」
MBCのある中堅記者は、MBC記者121人がこの12日に発表した対国民謝罪の声明についてこう述べた。外では<韓国放送>(KBS)の記者たちの反省の後を追ったに過ぎないとする人が多いが、この程度でも大変なことだと言った。
この声明では、パク・サンフ全国部長が7日の<MBCニュースデスク>で、民間潜水士の死がまるで失踪者家族たちの“性急さ”のために起きた事のように扱ったことがきっかけとなった。これまでセウォル号の報道について積もっていた不満が爆発したのだ。一人二人の記者が掲示板に実名による批判を載せ始め、結局、声明書が作られた。中堅クラスの記者は「全世界でどのメディアが大型災害の被害者家族を非難し説教する報道をしたことがあるか。“報道惨事”という話まで出た。本当に目を覆いたくなるような状況だった」と述べた。
懲戒を覚悟したという。「国民の関心が薄れた頃、おそらくW杯の時くらいになるでしょうが、今回の声明と関連して会社側の懲戒が行なわれると思います。みんな覚悟しています。」実際、会社側は14日にストの前歴のある入社14年、15年目の記者二人に対し、ソウル以外の地域に人事発令を出した。セウォル号報道批判の拡大を防ぐための“見せしめ的報復人事”という話が社内に出回った。
“潜水士の死”ニュースデスク報道時に
まるで失踪者家族の性急さのせいのように扱う
「内部では報道惨事という言葉まで出た」
2年前のスト以後、数十人の解雇・停職
アン・グァンハン社長、イ・ジンスク報道本部長など
偏向報道の主役たちはその後一気に昇進
「狙い撃ち的懲戒が乱舞し“恐怖政治”広がる」
構成員たちは“国民の応援”を切に要請
2012年の長期ストの時とは全く異なる様相だ。声明書一枚出すのに“懲戒覚悟”や“奇跡”という言葉が出てくる状況だ。記者たちは今のMBCは“狙い撃ち的懲戒処分”が横行する"恐怖政治"が展開されていると言っている。「いま会社の中では、タバコを吸う時でさえ自分の考えを簡単に口に出せません。いつ、どのようにして報道局から追い出されるか分かりませんから。」(K記者) 「私たちの間では、『楚漢志(チョハンチ)』のハンシン(韓信)が股の下をくぐる恥辱に耐えながら後日を期したという「胯下之辱」の故事を反芻しています。」(N記者)
朴槿恵(パク・クネ)政府下のMBCは“キム・ジェチョル(前社長)シーズン2”に再編されたという評価を受けている。アン・グァンハン社長は2012年の170日も続いたストライキ当時、副社長兼人事委員長として大量懲戒の先頭に立った張本人だ。“キム・ジェチョルの口”と呼ばれたイ・ジンスク広報局長は報道本部長になった。
不公正報道論議も絶えることがなかった。中国政府がソウル市公務員スパイ事件の証拠書類が偽物であると通報したというニュースは、当日<KBS(韓国放送)><SBS>では報じられたが、MBCのニュースからは外された。チェ・ドンウク元検察総長の内偵に大統領府が介入した情況が発見されたというニュースも同様だった。T記者は「政治部や法曹界など主要な出入り先には会社に近い立場の記者、または社内での地位が脆弱な試用記者や経歴記者が大勢配置されている」と述べた。
時事・教養制作局でも偏向性がうかがえる。事故発生から1ヵ月間、KBSは<追跡60分>で2回など計5回にわたってセウォル号の調査報道をしたが、MBCは事件初期の2回だけだった。SBSの番組<それが知りたい>のセウォル号深層報道は、再放送の視聴率が本放送より高い8.3%(ニールセン・コリア)を記録している。MBCのあるPDは「家族たちが大統領府に行進を試みるなど政府批判へと進む様相を見せるや、制作指示が一斉に覆された」と言った。幹部たちは「他の番組との差別性が見出せないため」と、指示撤回の理由を説明したという。
最近会社側は、記者やPDたちをさらに片隅に追いやっている。スト代替人材として試用記者およびPDを20人余りと経歴記者30人余りを採用したにもかかわらず、現在はデスク級の記者たちを新たに採用している。T記者は「正しい意見を言う記者たちがにらまれて懲戒を食らい外郭に回されると、親経営陣の記者たちが席を確保する足場になる。自分の声を上げることが次第に難しくなっている」と語った。これについて会社の広報室関係者は「中堅経歴記者の採用は、能力ある人材を開放的に採用しようという趣旨だ」と述べた。労組によれば、2012年の長期スト以後、現在まで解雇8人、停職52人、待機・教育発令や不当異動96人など、懲戒者が160人余りに上る。
このような中で、MBCの視聴率も危うくなっている。2012年には首都圏基準年間視聴率(占有率)が地上波4チャンネルのうち最下位の6.9%(14.2%、TNmS)を記録した。 2013年に7.5%(16%)で2位に上がったが、一部の芸能番組とドラマのおかげだ。メインニュースの視聴率はセウォル号事故の直前に3~4%台まで落ちた。あるドラマ局のPDは「MBCは今、時代劇と三流ドラマだけやってるという感じだ」として「ニュースの正常化なしに、前後の時間に三流ドラマだけくっつけて視聴率を上げようとする情けない戦略に過ぎない」と指摘した。
15日で解雇695日目を迎えたチェ・スンホPDはフェイスブックに「MBCは国民の財産であり、まだその中にいる放送人の多くは、まともな放送を作ろうとしている」と書いて、国民の声援を求めた。ある記者は「声明発表を知らせる記事の下に“どうせ期待もしていなかった”という書き込みを見た。とても心が痛んだ。国民の声援を要請したいけれども、とても口に出せない」と語った。
キム・ヒョシル、ナム・ジウン記者 trans@hani.co.kr