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違法な戒厳が繰り返されないようにするには【記者手帳】

登録:2025-01-31 00:34 修正:2025-01-31 07:07
イム・ジェヒ|イシューチーム記者
12・3内乱事態を捜査する共助捜査本部が尹錫悦大統領の逮捕を試みた1月15日午前、逮捕チームがソウル龍山区の大統領官邸内の第2阻止線を越えている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 報道機関への電気と水の供給の遮断が命じられていたとは。12月3日午後11時37分にイ・サンミン前行政安全部長官から、ハンギョレなどへの電気と水の供給の遮断に協力するよう電話で指示されたという国会証言(ホ・ソッコン消防庁長)には耳を疑った。電気が断たれれば、記事や写真を載せるサーバや新聞を印刷する輪転機の稼動が困難になっていたかもしれない。だが当直者以外には、あの日の夜に水がなくて困る人を思い浮かべるのは難しかった。もしかしたら電気と水の遮断指示は、報道機関を追い払いたいという意志の表れだったのではないか。

 証言がなされた13日、ソウル市麻浦区孔徳洞(マポグ・コンドクトン)を管轄する電気・水道事業所に電話をかけた。12・3内乱事態の前後に電気や水の供給を遮断したという記録は残っていなかった。かといって、よかったと言って水に流すわけにはいかなかった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は戦時や事変に準ずる国家非常事態ではない平日夜に非常戒厳を宣布し、軍と警察を動員した。けん制を受けない公権力のトップが、いかに容易に民主主義と法治主義を脅かしうるかを示した。いわんや電気や水を断つことなど造作もないだろう。

 「協力指示が下されたからといって実行できるわけではありません。強制撤去のような行政代執行の際にも要請は来ます。それでも冬にはすぐにはできません。寒波が来る可能性もあるわけで、生活はしなきゃいけないですからね」

 担当職員は、電気や水がどのように断たれるのか尋ねると、このように語った。電気や水を断てばどのような影響があるかを誰よりもよく知っているから、機械的に執行したりはしないということだ。いくら急な要請であっても事前に告知するという。上から急き立てられたとしても、第一線の現場で考えて慎重に決めれば、被害はいくらでも減らすことができる。

 内乱の試みが失敗した背景にも、現場で苦悩し、慎重だった人々がいた。陸軍特殊戦司令部の兵力を乗せたヘリは、飛行目的が分からないという理由で首都防衛司令部特殊作戦航空団から飛行承認が得られず、それで国会侵入が遅れた。中央選挙管理委員会のサーバを丸ごと持ち出せとの命令は、国軍防諜司令部の法務室長らの法務官が「適法な手続きに則って行われなければならない」との理由で反対したため失敗に終わった、という証言が国会でなされた。

 1月の尹大統領の逮捕の際も同様だった。裁判所が発付した逮捕状の執行は警護処内の強硬派の指示に阻まれ、一度は失敗に終わった。しかし、警護処の第一線の職員は2度目の執行の際、スクラムを組まず、共助捜査本部の人員による漢南洞(ハンナムドン)の官邸立ち入りに協力した。その結果、最悪の流血事態は防ぐことができた。命令に服従しないことによる不利益を甘んじて受け入れ、違法とより大きな被害を防ぐために立ち上がった人々がいたからこそ、それは実現したのだ。

 「軍人は命令に従わなければならない」(ヨ・インヒョン前防諜司令官)だとか、「法律に則って警護任務を遂行したもの」(キム・ソンフン大統領警護処次長)といった上官たちの態度には、ぞっとさせられる。第一線の現場において違法で不当な命令に従わないようにするためには、内乱を首謀した被告人を裁判にかけるだけでは足りない。

 不当な命令に異議を申し立て、ひいては拒否できるようにする手続きが必要だ。12・3内乱事態後の国会には、軍人が違法で不当な命令を拒否できるようにする「軍人の地位および服務に関する基本法(軍人服務基本法)」改正案が6件提出されている。違法戒厳から不当な電気・水の供給遮断に至るまでの一連の事態を繰り返させないための第一歩、ここから始めてみてはどうだろうか。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェヒ|イシューチーム記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1180090.html韓国語原文入力:2025-01-30 18:48
訳D.K

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