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尹錫悦政権の放送掌握リレーの終着点【コラム】

登録:2024-07-04 05:36 修正:2024-07-04 10:52
イ・ジョンギュ|ジャーナリズム責務室長
6月28日午前、全国言論労働組合所属のジャーナリストたちと言論掌握阻止共同行動の活動家たちが、京畿道果川市の政府果川庁舎で韓国放送(KBS)など公共放送役員選任計画案を2人体制で議決した放送通信委員会を糾弾している=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 イ・ドングァン前放送通信委員長は昨年11月末、「中央日報」のインタビューでこのように語った。

 「たとえ百歩譲って私が辞めても、第2、第3のイ・ドングァンが出てくるだろう」

 「辞任」シナリオに関する質問に答える過程で出た発言だ。当時は国会で野党「共に民主党」の主導でイ前委員長弾劾訴追が進められていた。イ前委員長は結局、弾劾訴追案が本会議で表決される前日に突如辞意を表明した。

 マスコミのインタビューで、「結論から言えば、そのような(自ら辞任を選ぶ)ことはない」と豪語したイ前委員長が、「百歩譲った」理由を推測するのはそれほど難しいことではない。弾劾による放送通信委員会がまひする事態を避けることで、放送掌握の手綱を引き締めるべきだという政権の意中に忠実に従ったとしか考えられない。

 イ前委員長は実際に辞任当日の記者会見で、「私が辞任したのは国と大統領に対する衷情」のためだと述べた。そして「マスコミ正常化の列車はこれからも走り続ける」とも語った。

 数日後に「第2のイ・ドングァン」が姿を現した。キム・ホンイル国民権益委員長(当時)だ。キム・ホンイルとは誰なのか。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「最も尊敬する先輩検事」に挙げた人物だ。先の大統領選挙では、尹錫悦候補の選挙キャンプで政治工作真相究明特別委員長としても活動した。そして、権益委員長になってわずか5カ月で放通委員長候補に指名された。放送掌握のための「選手交代」という言葉のほかに、何の説明が必要だろうか。もっとも尹大統領にとっては「言論掌握技術者」イ・ドングァンに代わる「リリーフ」として、彼ほどの人物は探せなかっただろう。

 イ前委員長が「2人体制」運営で弾劾訴追されたにもかかわらず、キム委員長は就任後74件の案件をイ・サンイン副委員長と二人きりで議決した。その案件の中には、「YTN」の筆頭株主の変更承認(民営化)も含まれている。

 「第2のイ・ドングァン」として放通委に入ってきたキム委員長は、退陣の時も「イ・ドングァンの道」に従った。野党の度重なる警告にもかかわらず、「2人体制」で文化放送(MBC)など公共放送の理事陣の入れ替えに踏み切り、結局、弾劾案が発議された。国会で弾劾案が表決される直前に自ら辞任したのも酷似している。尹大統領はさぞかし心強いだろう。弾劾を恐れず「大統領の放送」を献呈するため、犬馬の労を尽くす忠臣が2人もそばにいるからだ。

 今度は「第3のイ・ドングァン」が登場する番だ。キム前委員長が公共放送掌握のための「理事陣入れ替え計画」を議決してから辞任したので、後任者は政権寄りの人物を指名し、理事会の席に座らせるだけで済む。お馴染みすぎて退屈極まりないレパートリーだ。尹錫悦政権がハン・サンヒョク放通委員長を追い出した後、委員長職務代行を務めたキム・ヒョジェ放通委員もそうだった。3カ月にわたり、あらゆる力業で公共放送から野党寄りの理事たちを間引きする任務を果たし、後任のイ・ドングァン委員長にバトンを渡した。言論界ではキム職務代行がイ・ドングァン委員長に放送掌握の花道を用意したともいわれている。

 キム職務代行から始まった「放送掌握のリレー」の終着点はMBCだ。現政権に睨まれているMBCの大株主、放送文化振興会理事会の任期は来月12日まで。裁判所によってブレーキがかかり、「イ・ドングァン2人体制」の放通委員会では失敗したMBC掌握が、「キム・ホンイル2人体制」を経て3代目の2人体制でついに完成される。ここまで放送掌握に本気を出す政府が他にいただろうか。

 「第3のイ・ドングァン」としてはイ・ジンスク前大田文化放送社長が有力視されている。イ前社長は、李明博(イ・ミョンバク)政権によってMBCが徹底的に踏みにじられたキム・ジェチョル社長時代、広報局長などを経て昇進した。企画調整本部長時代には、MBCの株の一部(正修奨学会保有分)の売却議論に関与した事実が明らかになった。

 イ・ジンスク前社長が放通委員長になれば、民営化の切り札を取り出すことも考えられる。この間、与党がずっと主張し続けてきたメディア市場改編の方向こそが「1公共・多民営」体制ではないか。現実的な制約のため、民営化を最後まで推し進められなくても、MBCを手なずけるためのカードとして活用する可能性は高い。MBCの構成員たちが「尹大統領称賛放送」作りに素直に協力するはずはない。その場合、彼らの闘争動力を弱め内部を分裂させるのに、民営化ほど効果的なカードはないだろう。

 残念なのは、このように結末が見え透いているにもかかわらず、それを防ぐ手立てがないという点だ。野党が提出した「放送3法」が国会本会議で議決されても、尹大統領が拒否権を行使すればそれまでだ。放通委の2人体制の違法性をいくら指摘しても、議決そのものを阻止することはできない。たとえ放通委が5人体制で正常化したとしても、与党3対野党2の構図だ。多数決で押し通せばなすすべもない。放通委を頂点とした古い公共放送の支配構造をもっと早くに改革できなかった結果だ。罪のない視聴者と放送労働者がその被害に遭うことが残念であるばかりだ。

//ハンギョレ新聞社
イ・ジョンギュ|ジャーナリズム責務室長・論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1147600.html韓国語原文入力:2024-07-03 18:44
訳H.J

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