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[コラム]アップルの前にちらつく「1位企業の呪い」

登録:2024-03-07 08:51 修正:2024-03-07 10:15
Jaewoogy@chol.com//ハンギョレ新聞社

 「1位企業の呪い」という言葉がある。ある業種の支配的企業が、後発者に追いつかれたり、地位を脅かされるときに使う。好調な現状に安住して世の中の変化に背を向け、イノベーションに壁を築いていると、音もなくやって来る。代表的な事例が「ゼロックス」(Xerox)だ。会社名がそのまま「コピー」の一般名詞として辞書に掲載されるほど、一時は勢いがあった。

 「ゼロックスはこんにちのコンピューター産業全体を掌握することもできました。規模が10倍は大きくなったかもしれません。90年代のIBMになった可能性もあります。90年代のマイクロソフトになった可能性もあります」

 アップルの創業者スティーブ・ジョブスがこのような話をしたのには理由がある。ゼロックスは、乾式コピー機ひとつで天文学的な収益を上げた。その資金で1970年に米国カリフォルニアのシリコンバレーに「パロアルト研究所」(PARC)を設立した。現在日常となったコンピューティング技術のほぼすべてが、そこで開発された。ウィンドウ、アイコン、メニュー、ポインタで構成されたるグラフィック・ユーザー・インターフェース(GUI)、OOP(オブジェクト指向プログラミング)、コピー・ペースト、ワードプロセッサー、イーサネット、レーザープリンターなど、挙げればきりがない。1973年には、世界初となるパーソナル・コンピューター(PC)も作った。

 だが、商用化はひたすら先送りした。資金があふれているので研究ばかりに費やした。1979年、ジョブズは研究所を訪問して“新大陸”を発見する。「彼らは自分たちが何を持っているかさえ知らなかったのです」。ジョブズは、ゼロックスに一部の技術移転の要請を断られると、中核を担っていた科学者(ラリー・テスラー)を引き抜いていった。初の商用PCであるアップルのマッキントッシュ(1984)の起源だ。

 1位の呪いはその後も多くの企業を襲った。ノキアはモトローラを抜いてフィーチャーフォンの最強者になったが、iPhoneを打ち出したアップルに押されて没落した。インテルはゲーム用グラフィックカード製作会社だと甘くみていたエヌビディアに追い越された。IBMはマイクロソフトだけに集中していた自分たちのPC戦略を後々まで後悔した。デジタルカメラを世界で初めて開発したコダックは、「コダックのジレンマ」(=1位の呪い)という用語だけを学術書に残し、空中分解した。

 めぐりめぐって今度は1位の呪いがアップルの前にちらついている。あいまいな自律走行電気自動車の開発(タイタン・プロジェクト)に10年間しがみつき、人工知能(AI)開発の流れを逃した。追いつくには出発が遅すぎた。iPhoneで得た全世界時価総額1位も今年1月、AIで先行したマイクロソフトにふたたび奪われた。ジョブズであれば違っていたのか、気になるところだ。

カン・ヒチョル論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1131140.html韓国語原文入力:2024-03-06 18:43
訳M.S

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