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[寄稿]「ミサイル・アプリ」と共に暮らす日常

登録:2023-11-09 09:54 修正:2023-11-09 10:27
[市民編集者の目]チェ・ジョンイム|世明大学ジャーナリズム大学院長
イスラエルのアシュケロンで防空システムがミサイルを迎撃している。先月7日、パレスチナの武装組織ハマスがイスラエルに対する大々的な攻撃を加えた後、イスラエルが報復空爆に乗り出し、これまで双方で1万人以上の死者が出た/ロイター・聯合ニュース

 パレスチナの武装組織ハマスと交戦中のイスラエルでは、最近「ロケット・アラート」と呼ばれるスマートフォン・アプリのユーザーが急増しているという。「ワイアード」など海外メディアによると、先月7日のハマスの奇襲攻撃の後、イスラエル人たちは先を争って「ミサイルがどこに飛んでくるのか」を知らせるアプリをダウンロードしている。人口約900万人のイスラエルで、政府の公式アプリだけでもユーザーが60万人から200万人に増えており、民間アプリもユーザーが数十万人に達するという。サイレンが鳴り響くより一足先にアプリに警報が出れば、該当する地域の住民は素早く地下防空壕などに退避するという。一方、海外メディアの報道によると、空中と地上の両方でイスラエル軍の攻撃にさらされているガザ地区の人々は、ミサイル警報も、退避する防空壕もなく、犠牲になっているという。

 イスラエルはサイバーセキュリティ、自動運転など情報技術(IT)分野で世界最高水準の技術力を誇る。ところが、今回の戦争で若い開発者たちが大挙徴集され、イスラエルのテック企業(ITなどテクノロジーを駆使したビジネスを展開する企業)が人材難にあえいでいるというニュースも聞こえる。一部の中東、南米諸国はガザ地区の難民キャンプへの空爆を非難し、イスラエルとの断交あるいや貿易中断を宣言した。多くの投資家たちがイスラエル企業の株式とシェケル(イスラエルの通貨)を売りに出しており、株価と貨幣価値が急落した。隣国と戦争を繰り広げれば、多くの技術を保有した富国でも国民の安全と経済的安定を守るのは困難であることを如実に示している。

 頭の良さで知られるイスラエル国民がスマートフォンのアプリを見ながらミサイルから逃げ回り、IT開発者までもが戦場に向かわざるを得なくなったのはなぜだろうか。多くの専門家たちは、ネタニヤフ政権の無慈悲なパレスチナ政策と一方通行の政治に責任があると指摘する。極右派のネタニヤフ首相は、ヨルダン川西岸にイスラエル人入植地を増やすとともに、ガザ地区を封鎖し、パレスチナ住民の生存権を踏みにじった。ハマスの残忍な挑発は決して正当化できないが、このような状況を招いた原因は、国内外の世論を無視して「理念戦争」を推し進めたネタニヤフ首相の頑固さと誤った判断にあるというのが、大方の見解だ。キム・ヨンチョル元統一部長官はハンギョレへの寄稿で、「イスラエルの極右政治が作り出した分裂が、ハマスに突き入る隙を与えた」と分析した。反対意見を黙殺する極右政治の傲慢さと一方主義のため、モサドなど多くの情報機関の間で協力がうまく進まず、ハマスの奇襲攻撃を防ぐことができなかったとも指摘した。

 ロシアとウクライナ、イスラエルとハマスに続き、米国を困惑させる「第三の戦線」として、台湾とともに朝鮮半島が取り上げられている。核を持つ北朝鮮と米国の「核の傘」の下にある韓国の戦争は共倒れを意味する。合理的に判断すれば、北朝鮮は挑発できないだろう。しかし、外交・安全保障分野の専門家たちは、「偶発的状況」が発生する可能性について懸念を示す。今のように南北、朝米間の対話が断絶した状況では、些細な事故が誤った判断を経て、手の施しようもないほどの大事になりかねない。北朝鮮が中国の機嫌を損なわないよう、中国人約100万人が住む韓国の内陸を避けて、海上で挑発を行う可能性もあるという分析も出た。過去の天安艦・延坪島(ヨンピョンド)事態でも分かるように、小規模の軍事衝突も惨憺たる人命被害とともに「コリア・ディスカウント」(韓国企業の株価が類似した規模の外国企業の株価に比べ低くなる現象)など経済被害をもたらす。にもかかわらず、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は「理念」を掲げ、「力による平和」を叫ぶだけで、北朝鮮との対話を模索しようとせず、国民に不安を抱かせている。

 政治が理念過剰に流れ、好戦的なスローガンが飛び交う時、マスコミの役割は特に重要だ。戦争ではなく平和こそが我々の進むべき道であることを、武力衝突には代償が伴うことを指摘することで、世論を喚起しなければならない。イスラエルのマスコミはこの役割を果たすのに失敗しており、韓国のマスコミも懸念すべき状況だ。ハンギョレは朝鮮半島の平和統一を目指すメディアとして、どのメディアよりも積極的に南北対話を求める報道を行ってきた。しかし、尹錫悦政権に対し「平和のための実質的代案は何か」と追及する役割を十分果たしているとは言えない。韓国の年間軍事費支出が北朝鮮の国内総生産(GDP)をはるかに上回る状況で、「力による平和」とは果たして何なのかを、強く問いたださなければならない。北朝鮮の誤った判断を防ぎ、偶発的な衝突の拡大を遮断する意思疎通のチャンネルをどのように確保するかも問わなければならない。イスラエルのように「ミサイル・アプリ」をインストールしなければならない日常は想像したくもない。朝鮮半島で戦争が起きれば、ミサイル・アプリを使う時間さえないかもしれないが。

//ハンギョレ新聞社
チェ・ジョンイム|世明大学ジャーナリズム大学院長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1115528.html韓国語原文入力:2023-11-09 08:18
訳H.J

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