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[寄稿]極右はなぜ安保に無能なのか

登録:2023-10-30 01:46 修正:2023-10-30 09:11
情報の失敗は情報の収集ではなく、主に情報の分析過程で発生する。最も重大なのは偏見だ。偏見は他の可能性を排除し、自分の主張に有利な情報ばかりを積み上げるため、結局は確証バイアスがかかってしまう。(…)技術情報力がいくら上がっても、AI技術を導入したとしても、偏見を排除しなければ何の役にも立たない。分析の失敗はいつも機械ではなく人がおかすのだ。 
 
キム・ヨンチョル|元統一部長官・仁済大学教授
10月7日(現地時間)、パレスチナのイスラム武装組織ハマスによるものとみられるミサイルが、ガザ地区からイスラエルへと打ち込まれている=ガザ/EPA・聯合ニュース

 なぜイスラエルはハマスの奇襲攻撃を察知できなかったのだろうか。典型的な情報の失敗だ。情報機関は可能性を警告し、直前には動きをとらえていたし、周辺国からは関係する情報が伝えられていたが、ネタニヤフ政権はなす術もなくやられた。イスラエルの情報の失敗から教訓を得るべきだとの主張があふれているが、それらには肝心なものが欠けている。いくら予算を投資したとしても、技術情報の水準が高くても、政府が無能だったら何の役にも立たないということだ。

 情報の失敗は分裂からはじまる。イスラエルの極右政治が作り出した分裂が、ハマスに活動の隙間を提供した。国民の分裂はいつも政府の中でも生じる。情報機関同士の関係も同様だ。今回はモサド、軍の情報機関、そしてシンベト(Shin Bet、国内情報を収集する機関)の協調ができていなかった。情報の属性のために概して情報機関は競争し、情報を共有しようとしないが、極右政治のコミュニケーション不在と一方主義のせいでその調整がなされていなかったのだ。

 米国の情報の失敗の例も似ている。2001年の9・11同時多発テロ発生後に委員会が分析した情報の失敗の最も重要な原因は、中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)との協力の不在だった。その後、米国は情報機関同士の情報共有と協力を強化するために、調整体系を改革した。しかし常に、制度そのものよりも、制度を運用する指導者の能力の方がはるかに重要だ。情報機関の特性の違いにより情報判断が異なった場合、正しい結論に到達するためには政府内の「開かれた討論」が必要となる。指導者が様々な情報判断に耳を傾け、異なる意見を調整してこそ誤った判断は防げる。

 指導者がコミュニケーションを取らず、責任も取らず、怒鳴りつけながら強硬策ばかりを主張すれば、情報の失敗は避けられない。なぜ権威主義的な指導者は民主的な指導者より無能なのか。指導者は野党やメディアとのコミュニケーション能力だけでなく、政府組織の力量を最大限に引き出す内部交渉力を備えていなければならないからだ。情報機関同士の協力と外交安保省庁の調整は、絶対的に指導者の態度、能力、公的な責任感にかかっている。権威主義的な指導者は概して政策決定プロセスをまひさせ、組織を破壊する。誤った判断を減らし、組織を活性化し、持続可能な代案を見出せるのは民主的な指導者だけだ。

 情報の失敗は情報の収集ではなく、主に情報の分析過程で発生する。最も重大なのは偏見だ。偏見は他の可能性を排除し、自分の主張に有利な情報ばかりを積み上げるため、結局は確証バイアスがかかってしまう。情報の失敗の後には常に情報収集予算を増やすべきだとの主張がなされるが、技術情報力がいくら上がっても、AI技術を導入したとしても、偏見を排除しなければ何の役にも立たない。分析の失敗はいつも機械ではなく人がおかすのだ。

 実用ではなく理念を追求する極右勢力は、偏見という培地で生まれ育つ。彼らは歴史を歪曲し、事実を認めず、多様性を嫌悪し、頻繁にうそをつく。偏見という色眼鏡をかけていると、現実の変化を読み取るのは困難になる。当然にも、問題を起こすことにかけては名人だが、問題を解決する能力はない。理念と無能の相関関係は明らかだ。

 原因を取り除かなければ情報の失敗は繰り返される。極右は概して、失敗を認め危機を国民統合の契機とするのではなく、怒りを動員する。怒りは理性とはかけ離れており、判断力を曇らせる。9・11同時多発テロ後、ブッシュ政権は怒りを動員してアフガニスタンとイラクを侵略した。どちらの戦争も莫大なコストがかかり、米国社会に深い傷を残したうえで戦争以前に戻った。9・11テロの情報の失敗とイラク戦争の情報の失敗とは、怒りという橋でつながっていることを忘れてはならない。

 ネタニヤフ政権も、ガザ地区への進撃が怒りにもとづいているのなら、それは別の情報の失敗へとつながるだろう。

 極右は国内では民主主義を危機に陥れ、嫌悪をあおり、統合の政治ではなく分裂の政治を助長する。民主主義は確執を認めたうえで、制度の中でのコミュニケーションで解決しようとするが、極右は極端な敵意を持ち、意見が異なる相手を根絶の対象と考える。外交的には利益ではなく理念を追求し、平和ではなく暴力を追求する。

 世界各地で縫合されていた対立が戦争へとつながる混沌の時代だ。朝鮮半島情勢を安定的に管理するためには、慎重かつ柔軟でなければならない。過剰な理念では、急変する現実において安全は守れない。イスラエルの教訓から我々は何を学ぶべきか。理念は政策ではなく、怒りは戦略ではないのだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ヨンチョル|元統一部長官・仁済大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1114037.html韓国語原文入力:2023-10-29 14:33
訳D.K

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