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[コラム]「みな変わらなければならない、自分以外は」という尹大統領の姿勢

登録:2023-10-23 02:42 修正:2023-10-23 09:31
尹錫悦大統領が18日、青瓦台迎賓館で行われた第78周年警察の日記念式で祝辞を述べている/聯合ニュース

 与党の江西(カンソ)区長補欠選挙での惨敗後、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の発言は民生(国民の暮らし)とコミュニケーションへと収れんしている。尹大統領は16日、「国民とのコミュニケーション、現場とのコミュニケーション、政府与党のコミュニケーションをさらに強化せよ」と注文した。その後、連日「暮らしの現場にもっと入っていって支えなければならない」(18日)、「秘書室長から首席、秘書官、行政官に至るまで暮らしの現場に入っていき、生きた現場の声を聞かなければならない」(19日)と強調している。21日に外遊に発つ際にも、ハン・ドクス首相に「内閣は現場の民意のきちんとした聴取に力を注いでほしい」と注文したという。一時は「国を導いていくのは理念」だと叫び、国務委員には戦闘力を要求していたと思ったら、今度は腰を低くしてメッセージ管理に気を使う姿勢がありありと見られる。連日、大統領室の参謀と国務委員、与党に対して注文と指示を出している。抜けているのは尹大統領自らの責任を認めることと、実質的な変化に向けた意志だ。

 尹大統領にとって江西区長選挙は、政界進出後初の敗北をもたらした「事変的事件」だった。尹大統領は、大統領選候補を選ぶ党内選挙での勝利(2021年11月)→大統領当選(2022年3月)→地方選挙の勝利(2022年6月)→「親尹錫悦」系の党代表選出(2023年3月)と、一度も勝機を逃したことがなかった。今回の選挙が容易ではないことは分かっていただろうが、17ポイント差がつくとまでは予想できていなかったはずだ。わずか数日前まで尹大統領は周囲に、過半数ではなく「200議席確保」を総選挙の目標値だと言っていたという。これまで呪文のように唱えていた「総選挙200議席」は妄想に近いということを、今回は痛感したことだろう。

 尹大統領は「何かが間違っている」ということまでは悟ったように思われる。ただし現在のところは、その「何か」のかなりの部分を国政基調という本質ではなく、コミュニケーションの問題に求めているようだ。尹大統領は、16日に大統領主宰の首席秘書官会議を龍山(ヨンサン)子ども庭園で開催したのに続き、国民と直に対面するタウンホールミーティング形式の民生関連会議を今後導入することを検討しているという。政府与党による公開の政策会議を増やすことも議論している。国政運営の方向性というより、尹大統領の強行的な「態度」に原因を求めているようだ。コミュニケーション強化策が政策を宣伝するための単なる行事にみえる理由はここにある。「仕組まれた」タウンホールミーティングが民意を代弁すると考えるのも困難だ。何よりも尹大統領の発言は、政府関係者または与党関係者の前でのみ行われる。国民の声を代弁するメディアと対面するのではなく、参謀の後ろに隠れて一言ずつ選択的に流し、「真意」は他人が解釈している格好だ。国務会議の生中継で一方的に訓示を垂れた以前と違いはない。

 だから、大統領の「反省」を体感しうる後続措置がないのは当然だ。政府と与党の垂直的関係を指摘する声は強いが、尹大統領が「落ち着いた賢明な変化」を注文したことに伴い、与党代表はその地位を保ち、公認実務を管掌する事務総長と副総長はまたしても親尹錫悦派でそろえられた。党から手を引くどころか、総選挙の公認は「龍山(大統領室)」が行うと宣言したわけだ。大統領に代わって政務的責任を取るべき大統領室は、刷新の無風地帯だ。理念発言は自制しているように見えるが、今も陸軍士官学校では洪範図(ホン・ボムド)将軍、金左鎮(キム・ジャジン)将軍らを称える「独立戦争英雄室」の撤去が進められている。民生政策を立案しても国会の協力なしには実現は困難だが、共に民主党のイ・ジェミョン代表と会うつもりはなさそうだ。国政運営の風向計である人事基調も変わっていない。数日前には、公営放送の社長候補に検察総長時代から親交のあった人物を、憲法裁判所長候補には大学の友人を指名している。「選挙結果から教訓を見出すべきだ」との注文も、やはり自分に向けたものではなかったわけだ。

 だが、支持層にまで背を向けられた国政運営に対する自省もなしに「国民が正しい」という曖昧な発言だけで「惨敗局面」が収拾されることはないだろう。江西区長選挙の結果は、これまで反省したことも責任を取ったこともない政府に対する総合評価であり、全面的な国政刷新要求だ。尹大統領は総選挙を6カ月後に控えて惨敗シナリオが突き付けられたものだから、各種の指示を矢継ぎ早に出しているが、肝心の本人は反省すらも「他人の口」を借りてするだけで、何を間違ったのか、どのように変えるのかは言っていない。尹大統領の省察と変化が担保されなければ、あれほど強調している「国民の暮らし」と「コミュニケーション」は政治的レトリックに終わる可能性が高い。今からでも国民に国政基調の転換を約束し、具体的な計画を明らかにすべきだ。でなければ、来年の総選挙でそれこそ「国民の力(パワー)」を確認することになるだろう。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ヘジョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1113096.html韓国語原文入力:2023-10-22 16:34
訳D.K

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