この記事はハンギョレ経済社会研究院が韓国社会の陣営対立に注目し、過去6カ月間実験した「韓国の対話」プロジェクトに関する報告です。
国際秩序が揺れ動き、あちこちから軋轢と対立、戦争のニュースが聞こえてきます。政治は、米国やヨーロッパなど民主主義の先進国とされるところも例外なく、敵対と嫌悪、陣営対決に染まっています。何十年にもわたって悪化してきた不平等と疎外に、多くの人が日常的に怒っています。その怒りが弱者に向けられ、嫌悪と排除の刃を突き付けています。政治とメディアは、分裂を助長することで利益を得ています。分裂と対立が傍観できない状況に至りました。
私たちは、問題をもう一度指摘するより、解決に役立つことを探すことにしました。まず、考えが違う人同士の出会いと対話に注目しました。私たちは「より多くの人に会って対話すれば、敵対と嫌悪が減る」という仮説を立てました。陣営の溝が深まる背景には自分にとって不都合な人には会わず、仲間同士が集まって偏見を固める文化があると考えたからです。
国外の事例が参考になりました。ドイツの時事週刊誌「ディー・ツァイト」が2017年から毎年開いている「ドイツは語る(Deutschland Spricht)」プロジェクトでした。これは「ヨーロッパは語る」、「世界は語る」に拡大し、今まで延べ30万人が参加した対話のプラットフォームとして位置づけられています。ハンギョレは成功モデルを世界に広めるために作られた「マイ・カントリー・トークス」事務局と昨年から接触し、韓国初の協力メディアとして登録して、韓国でのイベント計画についても話し合いました。
ついに9月23日、仁寺洞(インサドン)のある文化空間で、46人が参加した1対1の対話が開かれました。参加者の募集と進行は社会的協同組合「パティ」が共に行いました。事前登録の段階で「南北は同じ民族だから統一すべきだという意見に同意しますか」など10問の質問をした後、意見の隔たりが大きい参加者を選んでペアを組みました。対話に入る前、相手を尊重し、その意見に耳を傾ける対話をしてほしいと要請しました。
筆者も個人資格で参加しましたが、私のパートナーは29歳の青年でした。息子ほどの年の差がある彼と私はいろいろな質問において考えが違っていました、80分間集中して対話をしてみて、「立っている地点が違えば、そう考えることもありうるかもしれない」と思いました。討論の後に集まって作成したアンケート調査を見ると、みんな似たような感想を持っていました。「対話を通じてこれまでの考えに変化が生じたのか」という質問には10点尺度で肯定と否定の中間水準である5.2点が出ました。一方「自分と異なる意見に対して感情的な共感度と理解度があがったか」には8点というかなり高い肯定的な反応が出ました。「こういう行事が開かれるとしたら、また参加したいか」という質問にも9.2点と肯定的な反応がありました。
私たちはこうした対話が共同体と民主主義に与える意味を探ってみることにしました。11日、ソウル大韓商工会議所で開かれた第14回ハンギョレ・アジア未来フォーラムで、「韓国の対話」セッションを作り、専門家の意見を聞きました。いくつか引用してみます。
「敵対的民主主義を解消するためには、政策決定者と市民の討論が必要だ。ただし、市民間の疎通が前提にならなければ、政策決定者と市民の討論だけでは集団知性や公論が作られない。極端な意見を排除し、公論の場に出るためには、自分の知覚、知識、選択の限界を認める態度が必要だ」(イ・ジンスン財団法人「ワグル」理事長)
「生き方の多様性は大きく高まったが、皆孤立して一人で叫んでいる形だ。多様性が発揮されるためにも、人と直接・間接的な会い、つながる経験を増やさなければならない」(文化企画者のソル・ドンジュン氏)
「対話相手の表情と感じを通じて(…)対話の前後がかなり変わった。このような波長、温度を作ったのが対話の力だったと思う」(クォン・ミンヒ「ニュードット」編集長)
「考えが違う人との対話という不慣れで新たな試みに参加しようとする市民がいることを発見したのも大きな収穫だった。インターネットの逆機能が指摘されているが、オンラインがそのような試みの場を提供できると思う」(ファン・ヒョンスク「パティ」理事)
私たちの対話が世の中を変えられるかもしれないという思いがもう少し強くなりました。勝者と敗者が分かれる口論、論理で相手を制圧するバトルではなく、行き交う言葉が心に共鳴する対話によって、です。不平等と不公正の構造を差し置いて、何回か対話するだけで何が変わるのかと思う人もいるでしょう。その通りです。対話は「万能の鍵」ではありません。ただし、誰にとって利益になる経済、分配の制度を選ぶかも政治の仕事であり、その政治の質は公論の場がどのような状態かにかかっていると、私たちは考えています。
私たちは今回の実験を基に、来年討論を拡大していこうと思います。回数も増やして全国単位で進めることもできるでしょう。世代や性別、地域など、違う視点から対話の場を作ることもあり得るかもしれません。ハンギョレが一人で進めるべきことではないと思います。政治的スタンスの異なる報道機関や市民団体の参加も歓迎します。「ドイツは語る」も中道左派とされる「ディー・ツァイト」が始めましたが、革新や保守を網羅する報道機関が共同主催する行事へと切り替わりました。
考えが違っても、会って相手の意見に耳を傾ける文化が広がり、蝕まれていく共同体と民主主義が活気を取り戻すことを願います。