他の人種を蔑視することに専念するメディアチャンネルは存在しない。他のジェンダーを蔑視することに専念するメディアチャンネルもない。いや、全くないわけではないが、陰ではなく表立ってそのようなことで社会的注目を浴びるほど影響力を行使するメディアチャンネルはないという意味だ。しかし、他の政党や政治的アイデンティティを表立って蔑視することに専念するメディアチャンネルは存在する。いや、存在するどころの騒ぎではない。それも影響力が非常に強い。私たちはそのことを変だと思わない。いや、当然だと思っている。党派的敵対感情は社会が認めているだけでなく、積極的に奨励している数少ない差別のひとつだからだ。
米国のジャーナリスト、エズラ・クラインの『私たちはなぜお互いを憎むのか』(2020)という本に出てくる話だ。そのような現実について、政治学者のシャント・アイエンガーはこう語る。「政治的アイデンティティは憎悪のための手軽な口実です。人種アイデンティティやジェンダーアイデンティティはそうではありません。こんにち私たちは社会集団に対する否定的な感情を表現しません。しかし、政治的アイデンティティは例外です」
この点に関する限り、韓国は驚くほど米国と似ている国だ。他の政治的アイデンティティを非難することに専念するメディアチャンネルは、デジタル革命のおかげで成長産業となって久しい。知識人たちもそのようなチャンネルに寄りかかって名声を保ちつつ、敵対勢力に対する憎悪と嫌悪を欲するファンダムの需要に積極的に応える。このように憎悪の口実として利用される党派性は、国と共同体の分裂を招く。だが、そのような分裂で金を得て名を売る人々の数が大きく増えて強大な既得権層を形成することで、政治は「分裂産業」へと生まれ変わる。
理論的には問題になることはない。対立は「民主主義の偉大なエンジン」(シャットシュナイダー)だからだ。問題は、どのような対立かということだ。善と悪の構図が明確に形成され、「私たち」と「彼ら」との反目へと突き進むようになった対立、すなわち「高度対立」が私たちの社会の支配的な対立だとしたら、どうすれば良いのか。この問題に注目してきたジャーナリストのアマンダ・リプリーは、『極限の対立:怒りと憎悪のブラックホールで生き残る方法』(2021)で次のように述べている。
「こんにちの陣営間の対立構図をあおるあらゆる運動は、暴力の有無とは関係なしに、内部から自ら崩壊する様相を呈している。高度対立は違いを認めない。世の中を善と悪という二分法で分ける視点は、それ自体が偏狭で制限された考え方だ。このような視点は、多くの人の力を結集して困難な問題を解決する努力を妨げる」
これは韓国社会が置かれている現実でもある。これまでに発表されている各種の「対立」についての国際調査で、韓国は世界1位、または最上位圏に入るほど、名実共に「対立共和国」であると表れている。昨年の韓国ギャラップによる調査では、与党「国民の力」の支持者の89%、野党「共に民主党」支持者の92%が、相手政党が嫌いだと答えている。自分の支持する政党が好きだと答えた割合は、国民の力の支持者では70%、共に民主党支持者では73%にとどまる。これこそまさに、韓国の政党が世の中を良くしていこうと自ら努力するのではなく、相手政党を非難する宣伝・扇動にすべてをささげる背景であり、理由となっている。
さらに悲劇的なのは、政党内部でもそのような対立が同じように起きているということだ。最近、国民の力で党代表の選出をめぐって繰り広げられた対立は「誰が世の中をより良くするのか」の競争ではなく「あいつは絶対にだめだ」という除去の「競争」の極致を示している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は周囲に「無礼の極み」と言ったそうだが、その言葉が誰に対するものだとしても、大統領自身のそうした乱暴な介入行為が国民に対する「無礼の極み」だということは少しも考えなかったのだろうか。
なぜそんなに自信がないのだろうか。まだ政権発足から1年もたっていないのに、自ら崩壊しつつある尹錫悦と国民の力の情けない姿は、党派性が憎悪の口実として利用されてきた歴史の結果なのかもしれない。考えが少しでも異なる人々とは共に仕事ができず、協力もできないという考え方は、一般の有権者すらも汚染してしまった。「政治傾向が違えば一緒に飯も食いたくない」という人が40%にもなるというある世論調査の結果は、何を物語っているのだろうか。
そのような社会において政治と民主主義は可能なのだろうか。もう認めるべきことは認めよう。今、私たちがやっているのは政治ではない。民主主義ではない。実は、私たちは相手に対する反感と憎悪の排泄競争をしているに過ぎない。技術の変化に合った民主主義を設計し直すべき時が来ているのではないか。だとしても、何よりも大統領の気付きが必要だということは言うまでもない。
カン・ジュンマン|全北大学新聞放送学科名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )